【大学の高分子科学】高分子の合成反応の特徴をわかりやすく解説!

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こんにちは!

それでは今回も化学のお話やっていきます。今回のテーマはこちら!

高分子合成反応の特徴を知ろう!

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(polymerization characteristics 1polymerization characteristics 2)

では参ります!

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低分子合成反応との違い

まずは、低分子と高分子でその合成にはどのような違いがみられるのかということについてお話していきます。

とはいっても、どちらでもいろいろな合成法があるので、すべてをこの動画で細かく議論することはできません。

そのため、ここでは決定的に異なるある1点について考えます。

それが許容できる反応率です。

低分子の合成反応の場合、材料の量から想定される最大の量に対してその80から90%の量が取れたら十分優れた反応であるといえます。

しかし、高分子の場合は、ほぼ\(100\%\)の反応率でないといけません。

つまり副反応が起こってはいけないという条件下でないと作ることができません。

これはなぜかということで、例えばビニル化合物の多量体を考えてみましょう。

二量体ができる確率を90 %だとします。

この時三量体を作るためには二量体を作る反応が2回起こればいいので、その反応率は81 %になります。

もっと大きくしてn量体を作るためには反応率\(90\%\)の反応をn-1回繰り返さなければならないということになるので、例えば100量体ができる確率は\(0.003\%\)になります。

ちなみに高分子といえるのは最低でも1000量体は言っていないといけないので、100量体では全然高分子とは言えません。

仮に二量体ができる反応の反応率を\(p\)として1000量体ができる確率を計算してみると、このように\(99\%\)と\(99.9\%\)という違いでも約1万倍の差が生じることになり、本当に\(100\%\)に近い反応率でない限り大きな分子を得ることはできないということがわかります。

そして低い反応率は生成してできた高分子の構造の乱れ、多くは広い分子量分布による強度の減少などを引き起こします。

そして、ものによりますが反応率を高くするために\(150^\circ \rm{C}\)\(\)とかこれよりもっと高い温度で合成をしようとすると生成した多量体が熱分解したり異性化したりするので、目的のものではないものが得られることがあります。

そのため、触媒を使って活性化障壁を小さくしつつ、比較的温和な条件、副反応がほとんど起こらない反応で合成をすることが多いです。

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連鎖重合と非連鎖重合

それでは今度、その高分子を作る反応の分類方法を1つ紹介します。

まず、高分子を作る反応でメジャーなのは重合反応というものでして、これは繰り返し単位となるモノマーに類似の反応を何回も繰り返し起こすことで高分子量体を得る反応のことを言います。

そしてこの重合反応は連鎖重合非連鎖重合に分類することができます。

非連鎖重合は段階重合とも言います。

この2つで何が違うのか先に模式図で説明しますと、こんな感じになっています。

重合ではモノマーが最終的にポリマーになるわけですが、その過程がこの2つの違いになります。

まず連鎖重合では活性種とモノマーの間でのみ反応が進行して、モノマー同士で勝手に反応が起こることはありません。

モノマー濃度は徐々に減少していきます。

活性種ができるとそこを起点に重合が進行していき、あるところで勝手に重合が止まるため、反応にかける時間と分子量にはほとんど関係がありません。

そしてBの非連鎖重合では、重合が完了する前の時点で短い鎖がたくさんできています。

モノマー同士で重合が起こるため、反応初期では二量体や三量体がたくさんある状態となりますが、高分子量体はほとんどできません。

オリゴマー同士でも重合が起こるため、時間をじっくりかけることで徐々に鎖の本数が減っていき、分子量が大きくなっていきます。

反応を始めた初期段階にほとんどのモノマーが二量体になってしまうため、この反応途中のモノマー濃度は、ほぼ\(0\)になります。

この違いは合成にかかる時間やできるポリマーの分子量分布に大きな差を生じさせることになります。

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ビニル化合物連鎖重合の分類方法

そしてビニル化合物の連鎖重合には活性種の種類による分類があってラジカル重合カチオン重合アニオン重合配位重合といいます。

その前に、これがビニル化合物重合反応の一般式です。

官能基Xによってどの重合方法が適しているのかというのが変わります。

表にあらわしたのがこちらになります。

Xというのがその重合方法に適した官能基で、一番右には活性種の構造を書いています。

いずれも成長鎖の末端炭素がラジカルやイオンなど反応性に富む部分になっています。

これがまたほかのビニル化合物のモノマーに付加することで鎖が長くなっていきます。

そして、詳しくはまた別の記事でやっていきますが、ラジカル重合以外では活性な末端付近に対イオンや金属錯体が存在しているため、これが反応速度や立体構造に大きな影響を与えます。

そして配位重合に使われる錯体はいくつもありまして、最も有名なのが左側のZiegler-Natta触媒と呼ばれるものです。

これは高密度のポリエチレンやポリプロピレンを作るための触媒として知られています。

また、別パターンとしてメタロセンを使うこともあります。

メタロセンというのは右側のように金属イオンが2つのシクロペンタジエニルアニオンに挟まれた構造を持っている錯体の総称になります。

また、この分類とは別にリビング重合というものがあります。

これは活性種の反応性に著しい選択性があることでモノマーを完全に消費しきった後でも活性種が消失しない、そんな連鎖重合のことを指します。

そして、ラジカル重合でかつリビング重合であればリビングラジカル重合などと呼びます。

このリビング重合では非常に分子量分布の狭いきれいな高分子が得られるので、研究対象として扱いやすく、高分子特有の物性の解明や繊細な材料設計には非常に有用な技術になります。

詳しくはまた別の記事でやりますので、言葉だけでもぜひ知っておいてください。

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ラジカル重合の素反応

はいでは続いてこれら連鎖重合がどのような素反応によって進行していくのかということをお話ししていきます。

この内容は、高分子を勉強する人にとっては基本中の基本なので今後何回も出てくることになると思います。

連鎖重合の素反応は大きく分けて4つあります。

それが開始反応成長反応(生長反応)停止反応連鎖移動反応です。

順番に見ていきましょう。

開始反応

まず開始反応は活性種ができる反応を指します。

連鎖重合では活性種とモノマーの間で重合が進行するので、活性種ができることが重合開始のトリガーになります。

ここではラジカル重合を例にお話ししていきますが、ラジカルを発生させて、ラジカル重合のトリガーとなる試薬をラジカル開始剤といいます。

ここでIというのはヨウ素ではなくて英語で開始剤を指すinitiatorから取っています。

ラジカル重合についてはまた別の記事で詳しくやりますが、ラジカル開始剤を1つ紹介しておくと、こちらのAIBNが有名です。

正式名称はアゾビスイソブチロ二トリルといいまして、N=N結合をもつアゾ化合物です。

この結合は不安定であり、熱や光によってホモリシス開裂しやすいので、これを利用してラジカルを作ります。

発生したラジカルは近くのビニルモノマーに付加してこのようになります。

成長反応(生長反応)

そして続いて起こるのが成長反応です。

シンプルに成長鎖がモノマーに付加して大きくなる反応です。

停止反応

そして続いて起こるのが停止反応です。

これは開始反応とは反対に活性種が消滅する反応になります。

ラジカル重合では再結合不均化という2つの機構があります。

再結合では2つのラジカルが電子を1つずつ出し合って新たな共有結合を作り1つの分子になります。

対して不均化では2つのラジカル間で水素原子を1つ受け渡すことでこのように異なる2分子ができます。

これらの反応が優先的に起こる場合はすぐに重合が止まってしまうということなので、高分子量体は得にくいということになります。

連鎖移動反応

そして最後の素反応が連鎖移動反応です。

この反応はラジカルが消滅するのではなく、ほかの分子に活性が移動する反応になります。

これは成長鎖とモノマー、そして溶媒分子との間でも起こります。

ここでSは硫黄ではなく、溶媒を指すsolventのSです。

この反応ではラジカルが消滅したわけではありませんが、成長鎖の活性が失われます。

よってこの反応が多く起こった場合にも高分子量体が得られにくいということになります。

そして、これはラジカル重合の場合でしたが、イオン重合や配位重合でも似たような機構となります。

ただし、対イオンや錯体の存在によって少し複雑になりますので、ぜひ知っておいてください。

ヘテロ原子を主鎖に含む高分子の重合

では今度、ビニル化合物以外の重合も見ていきます。

考えるのは主鎖にヘテロ原子を含む高分子の重合です。

ヘテロ原子というのは炭素、水素原子以外の原子のことです。

連鎖的な重合法

これを連鎖重合で作ろうとした場合は開環重合という反応が有用です。

環状のモノマーが開環を繰り返しながら重合が進行していきます。

なぜこのような反応が進行するのかということを、反応ギブズエネルギーで説明すると、次のようになります。

環状化合物はその環員数によっては安定な結合角を取れず、大きくひずんだ結合をもっています。

環がなくなることでその結合角ひずみが解消、すなわち負の反応エンタルピーを持つことになります。

そして反応ギブズエネルギー全体で負となった場合には反応が進行するということになります。

非連鎖的な重合法

では今度ヘテロ原子を主鎖に含むポリマーを非連鎖重合で作る方法を紹介します。

重縮合

高校でも習うので、こっちの方が開環重合より有名だと思いますが、まずは重縮合があります。

これは例えばこのような反応で、アミノ酸であるグリシンのアミノ基とカルボキシ基が反応して結合を作り、ポリグリシンとなります。

この際、水という低分子の脱離が伴います。水に限らず、このように重合とともに低分子が脱離していく反応のことを重縮合といいます。

重縮合は別名、縮合重合縮重合ともいいます。

ちなみに、ポリグリシンは2個の炭素を繰り返し単位に持つポリアミドなので、ナイロン2と呼ぶこともできます。

重付加

そして非連鎖重合のもう1つ代表的なものが重付加になります。

こっちの反応では低分子の脱離を伴わずに重合が進行していきます。

代表的なのはジイソシアナートとジオールをつかったポリウレタンの合成です。

重付加は付加重合とも言います。

縮合的連鎖重合

それでちょっと変わったパターンも紹介しておきます。

開環反応と重縮合が組み合わさった縮合的連鎖重合というものもあります。

α-アミノ酸のアミノ基の一方の水素原子がカルボキシ基になって、そこから水が脱離したNCAという化合物を重合することでポリペプチドが得られます。

そのとき、二酸化炭素が脱離します。

反応機構は別の記事で詳しくやりますが、重縮合でも開環を伴う場合には、連鎖重合となる場合があります。

この反応は開環脱離重合ともいいます。

カルボニル、イミンの連鎖重合

最後に、小話を2つ紹介します。

まず、アルデヒドやケトンといったカルボニルやイミンでは連鎖重合を考えることができます。

しかし、実際のところはこのような化学平衡となっていて、解重合が起こってしまうため、高分子を得るのは難しいということが知られています。

シリコン(ポリシロキサン)の重合

そして、最後の話題がシリコン(ポリシロキサン)の合成です。

シリコンはその分子量によって液状、ゴム状、樹脂と形を変え、さらに成形加工の容易さや耐薬品性などの優れた性質により、様々な用途に使われている材料です。

これを作るためにはこのような反応を起こします。

3段階目で一度環状分子になってから重合するというのが特徴的な反応になります。

まとめ

それでは今回の内容は以上ですので最後軽くおさらいをやって終わります。

今回は高分子合成反応の特徴をお話しする前編の内容でした。

まず始めに、許容できる反応率の値が高分子の場合は、とてもシビアになるということをお話しました。

反応率が\(99\%\)と\(99.9\%\)の違いでも、生成する多量体の平均分子量には大きな差が生じます。

反応率をあげようと反応温度を高くしても、分解や異性化が起こる可能性があるため、触媒を使ったり、副反応を抑制したりするのが有効な手段になります。

そして、次に重合反応の分類方法も1つ紹介しました。

連鎖重合では活性種とモノマー間でのみ、非連鎖重合では成長鎖同士でも反応が起こってしまうというのが決定的な違いでして、それにより反応にかかる時間やモノマーの消費スピードに差が生じます。

連鎖重合における活性種にはラジカル、カチオン、アニオン、配位子というタイプがありまして、それによってラジカル重合などと名前が変わります。

どの重合方法が適しているかはビニル化合物の官能基によって変わります。

また、ラジカル重合以外では成長鎖の活性部分の近くに対イオンや錯体が存在していることで、これが反応速度や立体構造に影響を及ぼします。

またそれとは別に、リビング重合というものがあり、これは重合が完了したあとでも、活性種が活性なまま残り続けるというものです。

こうなると分子量分布の狭いものや、ブロック共重合体を作りやすいなどのメリットが出てきます。

これは活性種の分類とは別物なので、例えばずっとラジカルが残り続ける重合はリビングラジカル重合という呼び方になります。

それで、連鎖反応の素反応は大きく分けて4つ、開始反応、成長反応、停止反応、連鎖移動反応があります。

停止や連鎖移動が起こると成長鎖の活性が失われ、重合が止まります。

これらを起こりにくくすることで、高分子量体を得やすくできます。

ラジカル重合の場合、停止反応には再結合と不均化という2つの機構があります。

そしてヘテロ原子を主鎖に含む高分子の重合についてもお話ししました。

連鎖的に作りたい場合は開環重合をします。

環状モノマーの結合角ひずみの解消がトリガーとなり、重合が進行していきます。

そして、非連鎖重合で作る場合には重縮合と重付加という方法がよく知られています。

これらの違いは、重合の過程で水や塩化水素、二酸化炭素など低分子が脱離するかどうかでして、低分子の脱離を伴うほうが重縮合、伴わないほうが重付加になります。

また、開環しながら連鎖的に縮合も起こるというパターンもありますので、ぜひ知っておいてください。

そして、カルボニルとイミンの連鎖重合についてもお話しました。

連鎖的な二重結合への付加によって重合は進行しますが、この反応は化学平衡となっており、解重合も起こりやすいため、多量体を得るのは難しいことが知られています。

そして、最後はシリコンの合成について紹介しました。

シリコンはその分子量によって姿形を変えて、優れた特性を持つ材料です。

一度、重合する手前の段階で一度、環状分子を経るというのが特徴的な反応でした。

以上です。ここまでお付き合いいただき、どうもありがとうございました!

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