こんにちは!
それでは今日も化学のお話やっていきます。
今回のテーマは、こちら!
質量分析の原理など基本的なことは、以前にあげた↓の記事でお話しているので、そちらを見たあとに、こっちを見るとスムーズだと思います。
動画はこちら↓
動画で使ったシートは、こちら(mass apectrum)
それでは内容に入っていきます!
フラグメント化の原理
それではまず、フラグメント化について、ちょっとだけ復習します。
質量分析では、分子に電子ビームを当ててできる分子カチオンを検出することで、分子の質量がわかります。
しかしある条件下では、分子イオンが分解して、より小さなカチオンとなって検出されることがあります。
これをイオンのフラグメント化と言います。
分子から電子が1つ外れることで生成するラジカルカチオンのフラグメント化では、一方が1価のカチオン、もう一方がラジカルになります。
電気的に中性なラジカルは磁場中でもLorentz力を受けないため、カチオンだけが検出器まで到達することになります。
そして、その結果このような質量スペクトルが得られます。
ここでグラフの縦軸はイオンの相対的な存在率、横軸はイオンの質量\(m\)をイオンの価数\(Z\)で除した値です。
\(Z\)がすべて同じ値であるときには、最も右側のピークが分子イオンのピークで、それより左側にあるピークがすべて分子より小さいフラグメントイオンのピークになります。
そのフラグメント化反応が、熱力学的に有利なほど、大きなフラグメントイオンピークが得られることになります。
アルカンのパターン
では始めに、アルカンはどこで切れやすいのか考えていきます。
ここで思い出してもらいたいのが、カルボカチオンの安定性です。
カチオン中心の炭素はsp2混成による平面構造をとり、その平面と垂直な方向へ空軌道を持ちます。
そこに隣接しているsp3炭素があると、空軌道へ少し非局在化が起こり、安定になります。
これが超共役で、第三級カルボカチオンが最も安定となり、第一級カルボカチオンやメチルカチオンが不安定になります。
したがって、アルカンのフラグメント化は多置換中心で起こりやすいということになります。
例えば、こちらの2-メチルブタンだと、2番目の炭素の周りで解離が起こりやすいと推測されます(実際は解離しにくい。理由は後述)。
①から③の部分で切れると、それぞれこんなカルボカチオンができます。
①と③は第二級、②が第三級のカルボカチオンです。
そして、2-メチルブタンのMSはこのようになります。
最も右側の\(m/Z=72\)というのが分子イオンで、\(m/Z=71\)のピークはそこから水素原子が外れたイオンに対応します。
水素がなくなったよというのは、M-Hと表記します。
そして、\(m/Z=57\)はメチル基、\(m/Z=43\)はエチル基がなくなったものです。
このスペクトルからわかることとしては、まず第三級カルボカチオンであるはずの\(m/Z=71\)のピークですが、その強度はとても小さくなります。
これは、水素原子が不安定なためです。
同様にメチルラジカルも不安定なので、\(m/Z=57\)のピークも少し小さくなります。
また、アルカンが分枝を持つほどフラグメント化が起こりやすくなるため、最も右側の分子イオンピークの強度は小さくなっていきます。
アルコールのパターン
それでは続いて、アルコールを考えていきましょう。
主要なフラグメント化の機構は2つありまして、まず1つ目が水の脱離です。
水分子はとても安定な化学種であるため、簡単に外れることができます。
したがってアルコールでは、分子イオンよりも\(18\)質量小さいところに大きなピークが現れることになります。
そして、フラグメント化の機構2つ目はα開裂です。
ヒドロキシ基がついた炭素の位置をα位と言いますが、ここの炭素と隣の炭素の間の結合が切れると、このようなヒドロキシカルボカチオンができます。
このような共鳴が起こるため、このカチオンは安定であり、ここでフラグメント化が起こりやすいことになります。
実際に1-ブタノールのMSはこんな感じで、\(m/Z=74\)の小さな分子イオンピークに対して、そこから\(18\)質量小さい\(m/Z=56\)はとても大きくなります。
また、α開裂が起こってできた\(m/Z=31\)のヒドロキシメチルカチオンのピークも大きく出ています。
そして、ヒドロキシラジカルが抜けたときにできる1-プロピルカチオンとさらにそこから水素分子が抜けた2-プロペニルカチオンのピークがそれぞれ\(m/Z=43\)と\(m/Z=41\)に出てきます。
やはりアルコールでも水素原子が外れる\(m/Z=73\)のピークは小さくなっています。
ハロアルカンのパターン
はい、続いてお話するのはハロアルカンです。
フッ素を除くハロゲンでは、炭素原子との結合がそこまで強くないので、簡単に解離が起こります。
そのため、ハロゲン原子が取れたカチオンのピークが基準ピーク、すなわち最も強度の高いピークになることが多いです。
また当然ですが、生成するカルボカチオンの安定性によってもピーク強度は上下します。
アルケンのパターン
それでは、今回お話しするフラグメント化のパターン、最後はアルケンです。
結論を先にいうと、アルケンのフラグメント化は、アリル位の結合で起こりやすいです。
これはアルコールのα開裂と同様、生成するアリルカチオンが、このような共鳴構造をとり、安定化が起こるためです。
上と同じ1-ブテンのMSはこのようになり、\(m/Z=56\)の分子イオンピークのほか、\(m/Z=41\)に2-プロペニルカチオンのピークが出てきます。
それで、\(m/Z\)の値には便利なものがいくつかあって、例えばこの\(41\)という数字を覚えていれば、スペクトルを見ただけで、末端アルケンかなと推測することもできます。
不飽和度
それで、ここからは質量分析に限らず、化合物を同定したいときの補助的な手段を、おまけとして紹介しておきます。
例えば、高分解能の質量分析により分子式がC6H12だとわかったことにしましょう。
このとき考えられる構造はアルケンやシクロアルカンがありますが、確実に言えるのは、少なくともアルカンではないということです。
こんなふうに分子式だけでも、ある程度構造を絞り込むことが可能です。
さっき頭の中でどういう処理をしたのかを、回りくどく書いてみるとこうなります。
分子内の環とπ結合の個数を足した値を不飽和度と呼ぶことにします。
すると、不飽和度\(0\)のアルカンでは、水素原子の個数は(炭素原子の個数)\(\times 2+2\)個になります。
不飽和度が\(1\)のアルケンやシクロアルカンでは、アルカンから水素原子が\(2\)個減ります。
そして、アルキンやシクロアルケンなど不飽和度が\(2\)になると、さらに水素原子は\(2\)個減ります。
より一般的に、窒素やハロゲンなどヘテロ原子を含む場合は、まず炭素原子の個数\(n_\rm{C}\)に\(2\)をかけてそこに\(2\)を足します。
そこからハロゲン原子の個数\(n_\rm{X}\)を引いて、窒素原子の個数\(n_\rm{N}\)を足した値が、不飽和度\(0\)のときの水素原子の個数\(H_\rm{sat}\)になります。
酸素原子や硫黄原子は無視してください。
不飽和度が\(1\)大きくなると、水素原子は\(2\)個減るという法則より、この\(H_\rm{sat}\)から実際の水素原子の個数\(H_\rm{actual}\)を引き、\(2\)で割った値が不飽和度になります。
一見ややこしいようですが、多くの人は、直感的にこんな計算をこなしています。
理屈として頭の片隅に置いておいてください。
練習問題
それではここで、1つ質量分析の練習問題をやってみましょう。
↓のようなMSが得られたとき、どんな化合物が考えられるでしょうか?
まず、\(m/Z=41\)のピークがあって、さらに分子イオンピークが小さいことから末端アルケンであると推測できます。
そして、分子イオンピークはほとんど同じ強度で\(2\)本見られることから、これは質量数\(79\)と\(81\)が約\(1:1\)で存在している臭素原子の存在を示唆します。
したがって、考えられる化合物は3-ブロモプロペンになります。
まとめ
はい、今回の内容は以上なので、最後軽くおさらいをやって終わります。
今回は質量分析におけるイオンのフラグメント化と不飽和度についてお話しました。
フラグメント化が熱力学的に有利なほど、そのイオンピークは大きくなります。
まずアルカンでは、超共役によるカルボカチオンの安定性より、多置換中心で結合の解離が起こりやすくなります。
それでも、水素原子やメチルラジカルなど不安定な化学種を生成する場合は、ピーク強度が小さくなります。
続いて、アルコールでは安定な水分子の脱離により、分子イオンより\(18\)質量だけ小さいところに大きなピークが現れます。
また、安定なヒドロキシカルボカチオンを生成するα開裂も起こりやすいです。
そして、ハロアルカンではハロゲンが脱離したピークがとても大きくなります。
アルケンでは、アルコールのα開裂同様、安定なアリルラジカルができるように結合が解離します。
終わりの方で紹介した不飽和度は、分子式からある程度構造を絞り込むのに役立ちます。
ヘテロ原子の扱い方だけ習得すれば、かなり便利に使えるので、ぜひ身につけてください。
はい、お話は以上です。
間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitterかお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。
それではどうもありがとうございました!