こんにちは!
それでは今日も化学のお話やっていきます。
今回のテーマはこちら!
動画はこちら↓
動画で使ったシートはこちら(alkene NMR)
それでは内容に入っていきます!
アルケンのNMR
まずはNMRについてです。
この記事は、NMRの原理や基本的な知識が前提なので、そこについてはこちらの記事を参照してください。
\(\displaystyle \pi\)電子による反遮蔽化
プロトンが感じる磁場の大きさは、外部磁場と局部磁場の和ですが、アルケンの場合は\(\displaystyle \pi\)電子が発生させる局部磁場によって反遮蔽化が起こり、化学シフトは大きな値になります。
レンツの法則に従うなら遮蔽化が起こりますが、なぜ反遮蔽化なのかというと、この図にあるような位置関係になるからです。
二重結合の中心位置では、外部磁場と逆方向に局部磁場が発生しますが、水素原子の周りでは外部磁場と局部磁場が同じ方向になります。
これにより実質の磁場の大きさが大きくなり、化学シフトも大きくなります。
その値は末端アルケンと内部アルケンで微妙に違いますが、\(\displaystyle 5\ \rm{ppm}\)に近い値となります。
化学シフトについてはこちらを参照してください。
多様なカップリング
そしてアルケンのNMRは、カップリングにも特徴があります。
スピン-スピン分裂についてはこちらの記事で詳しくお話ししています。
これがその一覧で、まずシスとトランスでは、トランスのほうが大きなカップリング定数になります。
そして、普通は隣接している炭素に結合した水素とカップリングしますが、アルケンの場合はアリル位カップリングと言って、2つ隣の炭素に結合している水素とのカップリングが観測されます。
また、3つ隣の炭素に結合した水素とのカップリングも遠隔カップリングと言って、小さな分裂が現れることがあります。
このように多様なカップリングが起こるので、アルケンのNMRは複雑なスペクトルになります。
また、これは¹H-NMRの話でしたが、¹³C-NMRでも反遮蔽化は起こるため、アルキル炭素の化学シフトはせいぜい\(\displaystyle 50\ \rm{ppm}\)までですが、アルケニル炭素は\(\displaystyle 100\sim 160\ \rm{ppm}\)になります。
¹³C-NMRについて、詳しくはこちらをご覧ください。
アルケンの触媒的水素化反応
続いて、アルケンの触媒的水素化反応の話に移っていきます。
パラジウムもしくは白金共存下で水素とアルケンのガスを混合すると、熱を発しながら水素の付加が起こり、アルカンができます。
その放出される熱は水素化熱と呼ばれ、これが大きいほど元々のアルケンは不安定であることになります。
つまり、この水素化によって熱力学的な安定性を調べることができます。
シス体とトランス体の安定性
例えば、2-ブテンのシス体とトランス体では、シス体のほうがより多くの熱を放出します。
このことから、トランス体はシス体より安定であることがわかります。
シス体のほうが立体的に混み合った構造をしており、その立体障害が安定性の差の原因になっています。
多置換アルケンの安定性
また、3つ以上の置換基がついた場合の安定性については、多置換体であるほど水素化熱は小さく、安定となります。
これは\(\displaystyle \pi\)軌道に\(\displaystyle \rm{sp}\)\(^3\)炭素の超共役がはたらくためで、第3級のカルボカチオンやラジカルが安定であるのと同じです。
結局、アルケンの安定性をまとめると、下のようになります。
エチレンが最も不安定で、四置換体が再安定となります。
ただし、あまり大きくないシクロアルケンは例外で、トランスの方が大きな環ひずみによって不安定になりますので、そこだけ注意してください。
まとめ
今回の内容は以上です。
間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。
それではどうもありがとうございました!