こんにちは!
それでは今日も化学のお話やっていきます。
今回のテーマはこちら!
動画はこちら↓
動画で使ったシートはこちら(microwave spectroscopy)
それでは内容に入っていきます!
純回転遷移に関係する光の波長
三フッ化窒素やアンモニア、塩化水素などといった比較的小さな分子の回転定数
回転定数については、こちらを参照してください。

これは、遠赤外からマイクロ波の波長領域に相当します。
したがって、小さな分子の振動や電子状態の遷移を伴わない純粋な回転状態の遷移を見るためには、マイクロ波を使うことになります。
純回転遷移の選択律
ただし、すべての分子について、純回転遷移を観測できるわけではありません。
選択概律
マイクロ波は電場と磁場の波であり、これらと分子の回転運動が干渉するためには、分子全体が磁石のようになっていなければいけません。
このようなルールのことは選択律と言います。
ここでは、量子力学を使っていない大雑把な選択律という意味で、選択概律と書いています。
この選択概律にあてはまる分子を活性である、あてはまらない分子を不活性であると言います。
極性分子である水やアンモニア、塩化水素などは、純回転活性となります。
対して、極性をもたない単原子分子や等核二原子分子、二酸化炭素やアセチレン、メタンなどは純回転不活性です。
個別選択律
そして、選択概律に当てはまる活性な分子でも、すべての純回転遷移が起こるわけではありません。
回転量子数変化
さらに、実験室内に固定された軸を考えると、この軸方向についての角運動量成分も量子化されます。
その量子数を
それぞれの分子で主軸や回転軸の方向が違いますが、たとえば入射光や透過光の進行方向は、測定装置のみに依存します。
実験室内に固定された軸とは、こういったものを指していると考えてください。
この選択律は、個別選択律と言います。
ここからは、個別選択律がどのような理屈からくるものなのか説明します。
まず、ボルン-オッペンハイマー近似を適用して、分子全体の波動関数
回転運動については、球面調和関数
ここで、遷移に伴って生じた電荷の偏りの変化を表す遷移双極子モーメントを考えます。
状態
ただ実際には、低い確率ながら禁制遷移が観測されることがあり、これは四極子モーメントとしての値をもっていたり、他の電子状態の寄与があったりなどが原因として考えられています。
純回転遷移では、振動の量子数と電子の量子数が変化しないので、状態
これは、古典的な電磁気学から予想した選択概律と矛盾しません。
ここからは、球面調和関数の性質を利用したテクニックを使います。
任意のベクトル
そして、球面調和関数
ここでの
これを利用すると、
任意のベクトルは、これら3つの球面調和関数があれば表現することができます。
これを利用すると、遷移が許容されるための条件が導かれます。
こちらに示した積分
例えば、遷移双極子モーメントの
ここからの考え方ですが、
角運動量保存則より、ベクトルである角運動量の足し算では、大きさと方向が保存されます。
状態
これを幾何の問題にすると、三辺の長さが
したがって、遷移が許容されることの十分条件は、
状態
また、
図の中で
以上のことより、
フェルミの黄金律より、遷移確率が遷移モーメントの大きさの二乗に比例するため、極性の大きな分子ほどはるかに強度の大きいスペクトル線が観測されることになります。
回転量子数
ここで、
回転量子数
そして、回転の量子数を2つもつ対称回転子においても、遷移双極子モーメントの大きさは上のようになります。
ここから、
対称回転子では永久双極子モーメントと分子の主軸が平行であり、電磁波の照射で主軸の向きを変えることはできても、主軸から見て垂直な方向へ回転を加速させることはできません。
ピークの間隔
これは、分子が剛体であると仮定した結果ですが、実際には回転による遠心力で、化学結合が引き伸ばされたり結合角が変化したりという効果を考えたほうが測定結果によく合うことがあります。
遠心力による分子の変形を遠心ひずみと言い、経験的には剛体の波数から
分子が引き伸ばされることで、慣性モーメントが大きくなるため、回転定数は見かけ上減少します。
強い結合であるほど、遠心ひずみが小さく、剛体としての式でも測定結果と合致しやすくなります。
遠心ひずみも考慮したときの吸収波数は、
一般的に、
ピークの強度
最後に、スペクトルの強度について考えます。
先ほどもお話ししたとおり、個々の慣性モーメントの大きさは、回転量子数
それとは別に、遷移前の状態の占有数が多く、遷移後の状態の占有数が少ないほど、遷移する分子数が多くなるため、スペクトルの強度が大きくなると考えられます。
そこで、ボルツマン分布を考えてみます。
回転の基底状態では、角運動量が
ここで、
縮退度は、
これにより、スペクトルの強度は
マイクロ波吸収スペクトルの概形
実際に測定される回転スペクトルの概形は、こちらに示したようになります。
横軸が吸収波数、縦軸がマイクロ波の透過率です。
吸収された光が多いほど、グラフ上で大きな谷の形が現れます。
まず、回転遷移が起こったときの大きな特徴として、隣り合う吸収波数は互いに
厳密には遠心ひずみがあるので、高波数側で間隔が詰まってくることがあります。
ボルツマン分布の式を
厳密には、
ただし、スペクトルの強度は、占有数そのものではなく占有数の差で決まるため、
また、この回転スペクトルでは、主軸まわりの回転についての回転定数しかわからず、慣性モーメントの値も1つ、
硫化カルボニルなどのように長さが異なる化学結合をもっている場合は、それぞれの結合長を決定することはできません。
アンモニアでも、結合長と結合角をそれぞれ決定することはできません。
そこで、原子の1つを同位体に置換して回転定数を調べるということをします。
水素など小さな原子でなければ、同位体に置換したことによる換算質量の変化が小さく、結合距離は変化しないと近似でき、慣性モーメントの変化から個別の結合長や結合角を決定することができます。
まとめ
今回の内容は以上です。
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それではどうもありがとうございました!