【大学の物理化学】分子の回転エネルギー準位について、わかりやすく解説!

この記事は約7分で読めます。

こんにちは!

それでは今日も化学のお話やっていきます。

今回のテーマはこちら!

量子化された分子の回転運動について、考えてみよう!

動画はこちら↓

分子の形状と回転エネルギー準位との関係について、わかりやすく解説!【大学の物理化学】

動画で使ったシートはこちら(rotation energy level)

それでは内容に入っていきます!

スポンサーリンク

慣性モーメントの定義

慣性モーメントは、回転運動のエネルギーを考えるときに、並進運動での質量と同じように扱われる量です。

定義は、\(I=\Sigma_im_ix_i^2\)です。

\(i\)が分子を構成する原子を指し、\(m\)は原子の質量、\(x\)は回転軸から原子中心までの距離です。

一般的に、異なる回転軸を選べば、\(x\)が変化するので、慣性モーメントは回転軸ごとに異なる値を持ちます。

ただし、対称性の高い分子であれば、回転軸が違っても慣性モーメントが等しくなることもあります。

回転軸\(a\)について回転したときの運動エネルギーを\(E_a\)とすると、\(E_a=\Sigma_i(1/2)m_iv_{i, a}^2\)となります。

\(v\)は、運動の速さです。

角速度を\(\omega\)とすると、\(v_{i, a}=x_{i, a}\omega_a\)となるため、慣性モーメント\(I_a\)を使うと、\(E_a=(1/2)I_a\omega_a^2\)と書けます。

その分子が3つの回転軸\(a\)、\(b\)、\(c\)について自由に回転していた場合は、これらの回転エネルギーの和が全体のエネルギーとなります。

\(I\omega\)を角運動量の大きさ\(L\)と書き換えると、\(E=L_a^2/2I_a+L_b^2/2I_b+L_c^2/2I_c\)とも書けます。

スポンサーリンク

分子の形状と慣性モーメントの関係

ここからは、いくつか分子の形を例として、慣性モーメントの式を見ていきましょう。

二原子分子

まず、最も簡単な二原子分子では、結合ベクトルと平行な回転軸周りの運動では、両方の原子が回転軸上にあるため、慣性モーメントが\(0\)になります。

したがって、結合ベクトルに垂直な回転軸についてのみ慣性モーメントが値をもちます。

その値は、換算質量\(\mu\)を使って、\(\mu r^2\)で与えられます。

ここで、\(r\)は結合長です。

三原子直線型分子

三原子直線型分子でも、同じ理由で慣性モーメントは1つだけになります。

その値は、この図の中の文字を使って、\(m_\rm{A}\)\(r^2+m_\rm{C}\)\(r’^2-(m_\rm{A}\)\(r-m_\rm{C}\)\(r’^2)/(m_\rm{A}\)\(+m_\rm{B}\)\(+m_\rm{C}\)\()\)となります。

\(\rm{A}\)\(\)と\(\rm{C}\)\(\)が同じ原子であるときには、2つの結合長も等しくなり、第三項が消えて、\(I=2m_\rm{A}\)\(r^2\)となります。

対称回転子

最後に、対称回転子についてです。

ここでは、クロロメタンやアンモニアのような四面体型の分子を例にします。

対称回転子とは、2つの等しい慣性モーメントと、それとは異なる\(0\)ではない慣性モーメントの値を1つもつ回転子のことをいいます。

まず、主軸に平行な回転軸について慣性モーメントが求められ、それは\(2m_\rm{A}\)\((1-\cos{\theta})r^2\)で与えられます。

ここで、\(\theta\)は結合角です。

主軸に垂直な2本の回転軸に対する慣性モーメントの値が互いに等しくなり、それはこちらのような形になります。

主軸まわりの回転の慣性モーメントがもう一方の慣性モーメントよりも大きい対称回転子を偏長であるといい、小さい場合は扁平であるといいます。

スポンサーリンク

回転エネルギー準位

ここまで古典的な話でしたが、ここからは量子化された回転のエネルギーを考えていきます。

過去に水素原子中の電子について、エネルギーを求めましたが、それと同様に考えていきます。

詳しくは、こちらを参照してください。

【大学の物理化学】水素原子の電子軌道をシュレディンガー方程式によって求める過程について、わかりやすく解説!
原子核の周りを電子が回っている、というのは厳密には正しくありません。加速度を受けた点電荷は、制動放射により電磁波を放出し、運動エネルギーを失うからです。この記事では、量子力学から、水素原子中の電子の本当の運動がどのようなものかを考えていきます。

分子を剛体であるとして、中心からの距離を固定し、回転軸上にない原子の回転エネルギーを考えます。

\(\nabla^2\)の極座標表示で、いま\(r\)は定数なので第二項と第三項だけ考えます。

ルジャンドル方程式を解いて得られる答えは、量子数を\(l\)として、\(E=(\hbar^2/2mr^2)l(l+1)\)となります。

角運動量の大きさLは、\(\hbar \sqrt{l(l+1)}\)で与えられます。

球対称回転子

メタンや六フッ化硫黄などは、3つの等しい慣性モーメントをもっており、これらは球対称回転子といいます。

ベクトルである角運動量の\(x\)、\(y\)、\(z\)成分をそれぞれ\(L_x\)、\(L_y\)、\(L_z\)とすると、これらの二乗の和が\(\hbar^2 J(J+1)\)と書けます。

ここではすべての原子を考えたという意味で、先ほどの量子数\(l\)と区別して、\(J\)を量子数としています。

これを回転量子数と呼びます。

全体の回転エネルギー\(E\)は、\(J\)を使って、\((\hbar^2/2I)J(J+1)\)となります。

これを波数単位で表すときには、エネルギーを\(hc\)で割ります。

\(c\)は光の速さです。

波数単位のエネルギー\(\tilde{F}(J)\)は、\((h/8\pi^2Ic)J(J+1)\)と書けます。

\(J(J+1)\)の前にある値は、回転子の種類に依存する定数であり、これは回転定数とばれます。

ここでは\(\tilde{B}\)と表します。

そして、エネルギー準位の間隔\(E_{J+1}-E_J\)には、大きな特徴があります。

\(2hc\tilde{B}(J+1)\)という形になるのですが、これは\(J\)が増える度に\(2hc\tilde{B}\)ずつ間隔が大きくなるということを表しています。

また説明しますが、光の吸収や放出にともなって回転状態の遷移が起こると、スペクトルに等間隔に並んだ複数本のピークが現れます。

また、この間隔は慣性モーメントの値に反比例するので、一般的に大きな分子になるほど狭くなります。

対称回転子

対称回転子の場合は、慣性モーメントの値が2つあるので、それぞれについて回転エネルギーを考えます。

いま、分子の主軸に平行な直交座標の軸を\(z\)軸とすると、エネルギーはこのように書けます。

\(L_x^2+L_y^2をL^2-L_z^2\)と書き換えて整理すると、こちらのようになります。

第一項については、先ほどの球対称回転子と同様に回転量子数\(J\)を使って考えることができるので、\(L_z\)について考えればよいことになります。

1つの方向への角運動量を考えるので、極座標で\(\theta\)を固定して\(\phi\)だけが自由に変化することを考えます。

量子条件とド・ブロイ波長の式より、\(L_z\)は\(k\)を整数として、\(k\hbar\)と書けることがわかります。

そして、\(L_z\)は必ず\(L\)よりも小さくなることから、\(k\)の絶対値は必ず\(J\)以下になります。

以上のことより、主軸に平行な回転軸についての回転定数を\(\tilde{A}\)、垂直な回転軸についての回転定数を\(\tilde{B}\)とすると、波数単位のエネルギー\(\tilde{F}(J)\)は、\(\tilde{B}J(J+1)+(\tilde{A}-\tilde{B})k^2\)となります。

\(k\)の値と対応する回転運動の古典的なイメージは、次の図のようになります。

\(|k|\)が\(J\)に近い値であるとき、全体の角運動量の大きさのなかで\(z\)成分が占める割合が多いことになります。

全体の角運動量は主軸に平行とまではいきませんが平行に近く、回転している面は主軸にほぼ垂直になります。

\(k\)が\(0\)というのは、角運動量と主軸が垂直になっているイメージです。

\(k\)が\(-k\)になってもエネルギーには変化がないため、\(k\)が\(0\)以外の状態は二重に縮退します。

直線型回転子

最後、直線型回転子は、この対称回転子の特別な例として考えることができます。

主軸まわりにどれだけ回しても慣性モーメントが\(0\)であることから角運動量も\(0\)になるため、\(k\)は\(0\)以外の値をとれないことになります。

結果、\(\tilde{F}(J)=\tilde{B}J(J+1)\)と球対称回転子と全く同じ式が出てきます。

球対称回転子は、対称回転子の\(\tilde{A}\)と\(\tilde{B}\)が等しいという特別な例であり、球対称回転子と直線型回転子では、まったく異なる道筋なのですが、結果的に同じ式が導かれることになります。

まとめ

はい、今回の内容は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

タイトルとURLをコピーしました