こんにちはー!
今日も化学のお話やっていきましょう。
今回のテーマはこちら!
動画はこちら↓
動画で使ったシートはこちら(hydrogen 1、hydrogen 2、hydrogen 3、hydrogen 4)
それでは早速内容に入っていきましょう!
動画Part 1の内容
シュレディンガー方程式の限界
実はシュレディンガー方程式では多体問題を解くことができません。
シュレディンガー方程式って何?という方はこちらも併せてご覧ください。

原子は原子核と電子という少なくとも2個以上の量子から構成されるので、厳密な計算はできないということになります。
ただそれでは困るので、何とか近似をして計算できるようにする方法が提案されました。
その方法はボルン=オッペンハイマー近似といいます。
陽子の質量は電子の約1840倍なので、原子核の運動は電子に比べると非常に遅いことになります。
そこで、原子核の運動が止まっているという近似をして、電子だけの計算をすればよいとしたのが、このボルン=オッペンハイマー近似です。
こうすることで電子が1個の時だけ計算ができるようになります。
実際の例はHやHe+、Li2+などで、これらは水素様原子と呼ばれます。
水素原子について解いてしまえば、あとは原子核の電荷を考慮すればよいだけですので、ここからは水素原子について考えていきます。
水素原子のシュレディンガー方程式
水素原子のシュレディンガー方程式はこの形になります。
ここからちょっとテクニカルなんですが、波動関数\(\psi\)が長さのパラメータ\(r\)の関数と角度のパラメータである\(\theta\)と\(\varphi\)の関数の積として分けられると仮定します。
この\(R\)は動径関数、\(Y\)は球面調和関数といいます。
\(\nabla ^2\)の極座標表示も極座標表示にします。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。

波動関数\(RY\)を\(\psi\)に代入すると、このような形になります。
ここから、この式を都合よく変形していきます。
まずこの式を移項したものがこちらの式になります。
これの両辺に\(\frac{2mr^2}{RY}\)をかけるとこの形になります。
この式をよく見てみると、左辺には一切角度パラメータがなくて、長さ\(r\)だけの関数になっています。
それで今度右辺を見てみると角度だけの関数になっています。
この等号が常に成り立つということは、この値がパラメータに依存しない定数だということになります。
したがって、この式の左辺を定数\(\Lambda\)とおくことができます。
球面調和関数がさらに\(\theta\)と\(\varphi\)それぞれの関数の積で与えられると仮定して変形したものがこの式になります。
この式でも左辺は\(\theta\)だけ、右辺は\(\varphi\)だけという形にできますので、またこれを定数と置くことができます。
実際にこれを\(\nu\)と置いてみると、\(\varphi\)について微分方程式が得られます。
微分方程式についてはこちらをご覧ください。

これを解くとこのような三角関数になります。
ここで、極座標での\(\varphi\)の定義を考えてみると、\(xy\)平面上の角度ですので\(2\pi\)で一周したことになります。
したがって\(\Phi(0)=\Phi(2\pi)\)となります。
この関係式を満たす条件は\(\cos (2\pi m)=1\)かつ\(\sin (2\pi m)=0\)なので、ここから\(m\)は整数であることがわかります。
この\(m\)は磁気量子数といいます。
最後、規格化により\(A\)を求めて、\(\Phi (\varphi)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{im\varphi}\)となります。
動画Part 2の内容
角運動量
まず、角運動量というものについてお話します。
角運動量とは回転運動を考える際に便利な量でして、位置ベクトルと運動量ベクトルの外積で定義されます。
この角運動量にはエネルギーや運動量同様、保存則が成り立つことが知られています。
さっきも言った通り、この角運動量は外積、すなわちベクトルなので、大きさだけでなく方向も保存されることになります。
角運動量の方向が保存されることを利用しているのが自転車です。
ゆっくりこいだ時だけ左右にふらつくのは、角運動量の大きさが小さくて人が及ぼす外力のほうが大きくなるからです。
速く漕いだ時に軸の方向が安定する効果のことはジャイロ効果と呼びます。
水素原子中の電子の角運動量
ではここからは水素原子中の電子の角運動量を考えていきます。
まず、3次元での角運動量演算子はこのように表すことができます。
それぞれの成分は位置ベクトルと運動量演算子と使って外積の計算で導くことができます。
得られたものから全体の角運動量演算子を求めるとこのようになります。
そして、これを極座標にしたものがこの式になります。
この形どっかに出てきたなってことで、Part 1の中で出てきた式を思い出してみると、そのまま角運動量演算子が入っています。
ここで、磁気量子数とニューの関係を入れて、\(\Lambda\)が\(\hbar ^2\lambda\)でかけることにします。
また、今後の計算のために\(\cos \theta\)を\(t\)と置くことにします。
すると先ほどの式はこのような形になり、ここから変数を\(\theta\)から\(t\)にするとこのような形になります。
どうやって解いたらええねんって式なんですけど、\(\lambda\)だけは簡単に出せるので、とりあえずはそこだけ考えてみましょう。
どうするかというと仮に\(\Theta\)が\(t\)のべき級数で表せると仮定します。
ここで、最高の次数が\(l\)です。
そして、\(m=0\)の時について考えてみます。
するとこの式が成り立つわけですけど、ここで、\(t\)についての最高次数の項だけに注目してみます。
この式で最も次数が大きい\(t\)の\(l\)乗についている係数はこのようになります。
右辺が\(0\)という事は全ての係数が\(0\)になるはずなので、この値も\(0\)になるという事になります。
この関係より、\(\lambda\)は\(l(l+1)\)で表せるという事が分かります。
あとはもっと詳細に解いていくことになるんですけど、この過程は完全な数学で、とても複雑なので、気になる方はググってみてください。
結果だけお示しすると\(\Theta\)はこの関数に比例するという事になります。
この\(P_l(t)\)のことはルジャンドル多項式と呼びます。
それで今度は\(m=0\)ではないときを考えてみます。
これもテクニカルなんですが、仮に\(\alpha\)を定数として、\(\theta\)を\((1-t^2)^\alpha \times\)(何らかの関数)という形で表現したとします。
この時に\((1-t^2)^{\alpha-1}\)の係数部分を考えるとこの関係式が得られます。仮に\(t\)が\(1\)に近い値だった時にはこの関係になります。
ここで\(\alpha=\frac{|m|}{2}\)としてあげると、この関係が成り立つことになり、\(\Theta\)はこの形で表現できます。
ここで\(f(t)\)は\(t\)に関するよくわからない関数です。
さっきと同じように\(f(t)\)が\(t\)のべき級数で表せると仮定して、最高次数の項の係数を求めてみるとこのようになります。
\(\lambda=l(l+1)\)というのを先ほどお話ししましたが、\(m\)と\(k\)を使うとこのようにも表現できることになります。
この関係より\(l=|m|+k\)という関係が分かります。
\(k\)が\(0\)と自然数であることから\(l\)と\(m\)の関係は\(|m|\leqq l\)となります。
\(l\)は角運動量量子数またはは方位量子数と呼ばれ、\(0\)と自然数を取ります。
方位量子数と磁気量子数のこの関係は2個、8個、18個という風に電子殻が埋まっていく理由を語るうえでとれも大事なものになります。詳しくはPart 4の内容につながります。
さあ、ここまで長かったですが、結局\(\theta\)は\(m\)と\(l\)を使ってこのように求めることができました。
最後に規格化定数を求めてあげれば、球面調和関数を求めることができます。
多変数関数の重積分で、座標系を変える場合にはこういう値がかかってくるのでそこも踏まえて積分します。
この値のことをヤコビアンといいます。
詳しくはこちらをご覧ください。

最終的に得られた球面調和関数の例を示すとこんな感じになります。
\(l\)と\(m\)によって関数の形が決まります。
動画Part 3の内容
動径関数
まず、シュレディンガー方程式の両辺を球面調和関数で割ったものがこちらの式になります。
ここで、\(\hbar ^2l(l+1)\)というのが角運動量の大きさの2乗になっています。
ここから変形を始めていくわけですけど、まずは距離\(r\)を長さの次元を持つ量で割ってあげて無次元化します。
それを\(\rho\)と置きます。
ここで\(a_0\)はボーア半径としておきます。
これはボーアの原子モデルで量子数が\(1\)の時に円運動するその半径です。
モデルよりボーア半径はこのように表すことができます。
変数を\(r\)から\(\rho\)にすると上の式はこのようになります。
両辺に\(-\frac{2ma_0^2}{\hbar ^2}\)をかけるとこのようになります。
さらに\(-\frac{2ma_0^2}{\hbar ^2}E\)を\(\varepsilon\)と置いて変形します。
ボーア半径の式よりここの波線部は\(1\)になるので、ここまで簡単な形に変形させることができます。
これを満たす関数\(R\)を求めるためにまずは\(R\)をべき級数数に展開したときの最小次数について考えてみます。
仮にその次数をtとすると、\(\rho\)が\(0\)に近い時には\(R\)が\(\rho^t\)に比例すると考えることができます。
先ほどの式で、最小時の項は\(\rho ^{t-2}\)となり、その係数は\(t(t+1)-l(l+1)\)となります。
これが\(0\)になるためには\(t\)が\(l\)もしくは\(-l-1\)となる必要があります。
\(t\)も\(l\)も\(0\)以上になるはずなので、結局\(t\)は\(l\)と等しいという事が分かります。
では今度逆に\(\rho\)が無限大の場合を考えてみましょう。
\(\frac{1}{\rho}\)、\(\frac{1}{\rho ^2}\)の項は無視できるとして2つの項だけが残ってきます。
これは簡単に解ける微分方程式でして、上のような解が得られます。
ここで、\(r\)が無限大の時、すなわち原子から無限に離れた時には電子の存在確率は\(0\)になるはずです。
電子が原子核の拘束を受けないほど離れてしまったらそれはもはや原子ではありません。
よって、\(\rho\)が無限大の時に\(R\)は\(0\)に収束する必要があるので\(e\)のマイナス乗だけが残ってくることになります。
ここまでの情報から\(R\)は\(\rho ^l\)と\(\exp (-\sqrt{\varepsilon}\rho)\)に比例することが分かっているのでこのように書くことができます。
\(R\)がこれらの関数の定数倍であるとは限らないので、あまりの\(\rho\)の関数を\(L(\rho)\)としてします。
では最後この\(L\)を求めてみましょう。
とりあえずよくわからないので、いつものようにべき級数で展開してみましょう。
最高次数を\(n’\)としておきます。
まず、\(n’=0\)の時について、さっきも出てきたこの式の係数を考えています。
最高次数ではないんですけど、\(\rho ^{l-1}\)の係数について考えてみると、なんとここでやっと電子のエネルギーを知ることができます。
実際に確かめて頂いたほうがいいんですけど、愚直に微分していくと係数はこのようになるので、\(\varepsilon\)が\(\frac{1}{(l+1)^2}\)になります。
\(\varepsilon\)は\(-\frac{2ma_0^2}{\hbar ^2}E\)だったのでここからエネルギーを求めてあげるとこのような式が得られます。
じゃあ、今度\(n’\)が\(0\)ではないときについて考えると\(\rho ^{n’+l-1}\)の係数はこのようになるので同様にエネルギーが\(n’\)と\(l\)を使った形で求められました。
ここで、\(n’+l+1\)を\(n\)としておいてあげると、すっきりして水素原子中の電子のエネルギー順位を求めることができました。
この\(n\)は主量子数と呼びまして、水素様原子のエネルギーはこの主量子数のみで決まることになります。
方位量子数\(l\)や磁気量子数\(m\)が変わった時には波動関数の形状や方向は変わるけどエネルギーは変わらないので、そこを覚えて頂ければと思います。
動画Part 4の内容
量子数のまとめ
まず、これまでのシュレディンガー方程式の話でも出てきた、量子数についてまとめてみます。
シュレディンガー方程式からは3種類の量子数が出てきまして、それぞれ主量子数、角運動量量子数、磁気量子数でした。
これらは\(n\)、\(l\)、\(m\)という文字で表します。\(l\)のことは方位量子数と呼びます。
それでじゃあ、量子数は3つだねってなるんですけど、実はもう1個あって、それがスピン量子数\(s\)です。
地球の自転と同じように量子もそれ自身が回っていて、シュレディンガー方程式で求められる角運動量とは別に角運動量を持っていることが知られています。
電子のように電荷を持っている粒子が自転したときにはこのように磁場が発生します。
右回りと左回りがあるので、スピン量子数は2つあることになります。
その値が\(\frac{1}{2}\)や\(\frac{3}{2}\)などの半整数を取る場合と\(1\)や\(2\)などの整数を取る場合で挙動が変わってきまして、これらはそれぞれfermi粒子とbose粒子と呼びます。またfermion、bosonとも呼びます。
電子はfermi粒子の1つでして、\(s\)は\(\frac{1}{2}\)もしくは\(-\frac{1}{2}\)という値を取ります。
そしてここで1つ軌道という言葉の紹介をします。
これは1つの電子の分布を指した言葉で、\(n\)、\(l\)、\(m\)によって決まります。
スピン量子数は電子の分布には関係しません。
この軌道という言葉は英語のほうがニュアンスが伝わるんですけど、orbitalといって軌道のようなものという意味になります。
電子はそのものの位置が特定できなくて雲のように広がっているイメージなので、ボールの弾道とは違うよという感じです。orbitとは言わないので、ぜひ知っておいてください。
電子が軌道に入るルール
では、ここからは電子がどんな状態を取るのかという事を考えるために、その性質についてお話しします。
パウリの排他原理
まず、fermi粒子はパウリの排他原理に従います。
これは、全く同じ状態を2個以上の粒子がとることはないというルールです。
原子中の電子で言うと、\(n\)、\(l\)、\(m\)、\(s\)全てが同じ組み合わせの電子はないという事になります。
そのため、3個以上の電子全てが\(n=1\)の最安定状態になるという事は起こらないです。
フントの規則
そして続いてはフントの規則というものです。
同じエネルギーの軌道が複数ある時、電子は可能な限りスピンを平行にして異なる軌道に入ります。
図を使って説明するとこんな感じになります。
まず、同じエネルギーの軌道が複数ある時、縮退しているといいます。
例えば、縮退している2つの軌道に2個の電子が入った時、この左のように片方の軌道に2個が異なるスピンをもって入るという事はなくて、右のように1個ずつ入って、さらにスピンも同じ向きになります。
なぜこうなるかを概念的につかんでもらおうとするとこんな説明になります。
まず、電子は負電荷をもっているので他の電子となるべく距離を取って静電反発が起こらないようにします。
そして、スピンがそろうのは、磁場の向きを磁石に見立てて考えるとこういうイメージです。
N極の近くにS極があったほうが安定です。
\(n\)、\(l\)、\(m\)の取り得る値
さあ、ではここからは\(n\)、\(l\)、\(m\)の取りうる値を考えていきます。
これまでの内容で、\(n=n’+l+1\)と\(l=|m|+k\)という2つの式が出てきていました。
これは自然数である\(n\)を決めてあげると\(l\)の取りうる値が決まって、さらにそれにより\(m\)の取りうる値が決まるという関係になっています。
具体的にはこんな条件になります。
\(l\)と\(m\)はこの条件を満たす整数になります。
それで、\(n\)がいくらで\(l\)がいくらの軌道というのは不便なので、名前の付け方があるのでこれも紹介します。
軌道の名前を付けるときには数字+小文字のアルファベットで表します。
数字が主量子数\(n\)で、アルファベット部分は\(l\)の値によって決まります。
\(l\)が\(0\)の時はs軌道、\(1\)の時はp軌道、\(2\)の時はd軌道と呼びます。
n=1の場合
では、実際に\(n\)、\(l\)、\(m\)の取りうる値の例を見ていきます。
まず\(n=1\)の場合を考えます。
\(l\)は\(0\)以上\(n-1\)以下の値を取るので、この場合は\(0\)しか取れません。
\(m\)は\(-l\)以上\(l\)以下の整数なので、これも\(0\)だけという事になります。
この場合は\(n=1\)で、\(l=0\)なので1s軌道と呼びます。
n=2の場合
続いて\(n=2\)の場合は\(l\)が\(0\)または\(1\)を取りまして、このように2s軌道と2p軌道が取れます。
ここで、\(l=1\)の時の\(m\)は\(0\)と\(\pm 1\)で3種類の値を取れるので、2p軌道は3種類存在することになります。
n=3の場合
同様に\(n=3\)の時について考えてみると、3s軌道が1種類、3p軌道が3種類、3d軌道が5種類出てきます。
軌道の形
ここで、それぞれの量子数が変わると何が起こるのかというのをお話しします。
主量子数\(n\)は電子がどれだけ広がるかという指標になっていて、大きい値ほど、電子は広く分布していることになります。
方位量子数\(l\)が変わった時には軌道の形が変わります。
磁気量子数\(m\)が変わった時に変わるのは軌道の方向だと考えて頂ければ基本は大丈夫です。
それで\(l\)によって軌道の形状が決まるという事は、s軌道はこんな形、p軌道はこんな形というのがあるよという事なので、最後それを紹介します。
s軌道の形
まず、s軌道は球面調和関数を考えて頂ければ分かるんですけど、角度依存性を持っていないので、球の形になります。
p軌道の形
p軌道については3種類あるんですけど、それは蝶々のような形になることが知られています。
方向は\(m\)によって決まって、このように各軸に平行な方向になります。
ここで、黒く塗った部分と白く塗った部分があるんですけど、これは波の位相の符号を表しています。
\(\sin\)の波だとこんな感じです。
黒い部分と白い部分で電荷の符号が違うとかいう話ではないので注意してください。
d軌道の形
d軌道については5種類あってこんな感じになります。
5つのうち、3つは\(x\)、\(y\)、\(z\)軸をよけるような四つ葉型になります。
そして、1つは\(x\)軸、\(y\)軸と平行になるような四つ葉型です。
5つ目は\(z\)軸に平行な形で、結構特徴的な形になります。
これら軌道の形は有機化学でも立体を考えるときに不可欠な知識になるので、ぜひ覚えておいてください。
練習問題
はい、では練習問題行きます。
Part 2の内容より
(1)
\(l=0\)の時に球面調和関数Yの角度依存性はどうなるでしょうか?
\(Y\)の式から角度依存性を考えて、\(\theta\)にのみ依存するとかいう感じで答えてください。
Part 3の内容より
(2)
シュレディンガー方程式から出たエネルギー、実はボーアの原子モデルから求めたものと完全一致します。
それをを確かめてくださいというのが2つ目の問題です。
Part 4の内容より
高校の化学で、電子殻の話をやったと思います。
K殻には電子が2個入って、L殻には電子が8個入るという謎のルールを教えられたと思うんですけど、\(n=1\)の時がK殻、\(n=2\)がL殻と対応しているので、ずっとやってきた量子数のルールを考えれば電子殻に入る電子の数が分かるはずです。
という事で、今回の問題は\(n\)番目の電子殻に入る電子の数が\(2n^2\)となることを示してください。
(1)
まず、\(|m|\leqq l\)という条件から\(m\)の取りうる値を考えます。
すると\(l\)は今\(0\)なので、\(m\)は\(0\)しかとらないという事が分かります。
じゃあ今度、\(\theta\)の式に\(m=0\)、\(l=0\)を代入してみましょう。
するとこんな風に\(t\)の項がきれいに消えて、\(\theta\)がただの定数であるという結果になります。
これにより、\(l=0\)の時の\(\Theta\)は\(t\)つまり\(\theta\)に依存しないという事になります。
また\(\Phi\)はこうなるんですけど、\(m=0\)の時はこちらも定数になって\(\varphi\)に依存しなくなります。
したがって\(l=0\)のとき、\(Y\)は定数となって\(\theta\)にも\(\phi\)にも依存しないというのが答えになります。
この時は波動関数がただ、原子核からの距離rのみの関数となって方向性を持たないので、球状に電子が分布することになります。
(2)
ボーアの原子モデルの連立方程式を解くと回転半径\(r\)と速さ\(v\)が求まります。
これを全エネルギーの式に代入するとエネルギーが\(-\frac{ke^2}{2a_0}\frac{1}{n^2}\)となります。
これがシュレディンガー方程式の答えと一致することを示すにはその比をとって1であることを証明すればいいので、比を計算すると、\(\frac{kme^2}{\hbar ^2}a_0\)となります。
\(a_0=\frac{\hbar ^2}{kme^2}\)を入れてあげるとこの値は\(1\)になるので、シュレディンガー方程式から頑張って計算したエネルギーとボーアのモデルから雑に計算したエネルギーは一致するという事になります。
量子の波動性を考えながら古典力学を使うっていう無茶苦茶なモデルなんですけど、エネルギーに関しては正しい値が出るっていうのが面白いところですね。
(3)
取りうる\(l\)の値は\(n-1\)個になって、さらにそれぞれの\(l\)について\(m\)は\(2l+1\)個の値を取れます。
その総数は\(\Sigma\)を使ってこのように書けます。
スピンを考慮しているので\(2\)がかかっています。
あとはこの級数の和を求めると、\(2n^2\)となります。
まとめ
それではおさらいに入ります。
Part 1の内容
今回は水素原子中の電子がどのように存在しているのかシュレディンガー方程式で求めてみるというテーマで、式の変形を行いました。
シュレディンガー方程式では多体問題を厳密に解くことができないので、原子核の運動が電子から見て止まっているという近似を行う必要がありました。この近似はボルン=オッペンハイマー近似といいます。
このシュレディンガー方程式を解くためには波動関数が変数分離できるという仮定のもと変形を行います。
その結果、\(\varphi\)についての簡単な微分方程式から磁気量子数\(m\)というものが導かれました。
\(m\)の条件は整数なので、負の値も考えられます。
Part 2の内容
今回は角運動量の話も絡めながら球面調和関数の導出の概要をご紹介しました。
重要なことだけかいつまんで繰り返しますと、まず、角運動量演算子の式から分かるように\(\hbar \times \sqrt{\lambda}\)が角運動量になります。
さらに\(\lambda=l(l+1)\)なので、角運動量は\(l\)を使って表すことができます。
\(|m|l\leqq l\)になるという事も化学をやるなら不可欠なので覚えておきましょう。
ルジャンドル多項式は詳しい計算過程は難しいにしても、気になった時にすぐ調べられるように名前だけでも覚えておいてください。
最後練習問題では\(l=0\)の時に波動関数は角度依存せずに、球状になることをお話ししました。
Part 3の内容
今回は動径関数に関する考察とエネルギー順位の導出を行いました。
水素様原子のエネルギーは主量子数だけによって決まるということ、求められたエネルギー順位はボーアの原子モデルで出たものと一致するという事が今回大切なことなので、式の変形を全てやる必要はないですが、要点だけは理解しておきましょう。
また今回、\(n’+l+1\)を主量子数\(n\)と置いたんですけど、これが\(l\)の取りうる値、ひいては電子がどんな状態を取りうるのかという事に密接に関係してきますので頭の片隅に置いておいてください。
Part 4の内容
原子中の電子の状態を決める量子数はシュレディンガー方程式から出てくる3つと、ほかにスピン量子数があります。
電子はfermi粒子の1つで、スピン量子数は\(\frac{1}{2}\)と\(\frac{3}{2}\)となります。
1個の電子の分布は軌道と呼びまして、パウリの排他原理より、1つの軌道にはスピンを逆にして2個ずつ電子が入ることになります。
また、縮退している軌道に電子が入る時はフントの規則により、可能な限りスピンを平行にして異なる軌道に入っていきます。
それぞれの量子数の取り方にはルールがあって、\(n\)が決まると取りうる\(l\)の値が決まって、\(l\)が決まると取りうる\(m\)の値が決まります。
軌道の名前は\(n\)の値に小文字のアルファベットをつけて表しまして、このアルファベットは\(l\)の値と対応しています。
\(l=0\)のs軌道は球の形、\(l=1\)のp軌道は蝶々の形、\(l=2\)のd軌道は四つ葉型が4つと、変な形が1つ出てきます。
内容は以上です。
最後にここまでお付き合いいただき、どうもありがとうございました!
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