こんにちは!
製薬会社で研究職をしていた沢渡です。
前回 (下の記事)に続き、今回も甲種危険物取扱者試験について、解説していきます。
今回のテーマはこちら!
今回の動画シート_ Certified Hazardous Material Handling Supervisor_ type Ⅰ hazardous substances
動画はこちら↓
危険物の性質や火災予防・消火方法、通称「性消」の第一回目として、以下のトピックで第一類危険物について説明していきます。
性質と概要
第一類危険物は酸化性固体で、試験結果により酸化性あるいは可燃物と混合した際に加熱、衝撃、摩擦等で爆発の危険を認められた化合物が該当します。
そのもの自体は燃焼しませんが、多量の酸素を含むため、加熱、衝撃、摩擦等で分解した酸素が強酸化剤の役割を果たし、他の可燃物を激しく燃焼させます。
無色の結晶または白色の粉末が多く、比重が\(1\)より大きいです。
また、アルカリ金属の過酸化物は水と反応して熱と酸素を発生するので、水の使用は厳禁です。
\(\rm{NaNO_3}\)\(\)等、潮解性を有する化合物は液体となって木材や紙などに染み込むので、乾燥し水分が減ると爆発の危険があります。
火災予防と消火方法
上記の性質から、第一類の危険物の火災予防として、主に以下の点に注意が必要です。
・化合物自身が燃えないように火気、加熱を避け、衝撃や摩擦を加えない
・可燃物との接触を避ける (燃焼の手助けを防ぐため)
・貯蔵の際、潮解性があるものは特に湿気を避けて、冷所に密閉して保管
・アルカリ金属の過酸化物の場合は水が入らないように保管
・保管容器として金属、ガラス、ポリウレタン等を選ぶ (潮解性化合物の危険性の所で述べた理由に加えて、より衝撃や摩擦に耐性があるため)
また、第一類危険物の基本的な消火方法は、大量の水による冷却消化です。
酸化性物質を分解温度以下まで冷却することで火災の抑制を図ります。
但し、アルカリ金属の過酸化物 (\(\rm{Na_2O_2}\)\(\)等) は水と反応して酸素を放出し、火災の規模を大きくしてしまうので、水の代わりに炭酸水素塩類の粉末消火や乾燥砂による窒息消化が有効です。
各化合物の性質、火災予防、消火方法
分類 | 表記名 | 指定数量 |
塩素酸塩類 | \(\rm{XClO_3}\)\(\) | \(\rm{50\ kg}\)\(\) |
過塩素酸塩類 | \(\rm{XClO_4}\)\(\) | |
無機過酸化物 | \(\rm{XO_2}\)\(\) | |
亜塩素酸塩類 | \(\rm{XClO_2}\)\(\) | |
臭素酸塩類 | \(\rm{XBrO_3}\)\(\) | |
硝酸塩類 | \(\rm{XNO_3}\)\(\) | \(\rm{300\ kg}\)\(\) |
ヨウ素酸塩類 | \(\rm{XIO_3}\)\(\) | |
過マンガン酸塩類 | \(\rm{XMnO_4}\)\(\) | |
重クロム酸塩類 | \(\rm{XCr_2O_7}\)\(\) | |
その他 | – | \(\rm{1000\ kg}\)\(\) |
第一類の主な危険物は、塩素酸塩類、過塩素酸塩類、無機過酸化物、亜塩素酸塩類、臭素酸塩類、硝酸塩類、ヨウ素酸塩類、過マンガン酸塩類、重クロム酸塩類と呼ばれる、表中のXを水素から他の金属原子等に置き換えた化合物達に加えて、その他政令で定める化合物が該当します。
指定数量
また、危険物には指定数量という貯蔵や運搬の基準となる指標があります。
この値はその危険物の類、品名、性質によって決まり、値が小さいほど危険性が高い物質であることを示します。
試験では、指定数量の倍数を求める計算問題が必ずと言っていいほど出題されます。
指定数量の倍数とは、「実際に貯蔵・取り扱う危険物の数量÷その危険物の指定数量」で求められます。
複数の危険物がある場合は、それら全てに同じように割り算を行い出た値を合計したものが答えとなります。
例えば、 \(\rm{KClO_3}\)\(\)を\(\rm{200\ kg}\)\(\)、\(\rm{NH_4NO_3}\)\(\)を\(\rm{150\ kg}\)\(\) 貯蔵している倉庫の指定数量の倍数は、それぞれの指定数量は \(\rm{KClO_3}\)\(\)が\(\rm{50\ kg}\)\(\) 、\(\rm{NH_4NO_3}\)\(\)が\(\rm{300\ kg}\)\(\)のため、先程の計算式に当てはめると、\(200/50 + 150/300\)で\(4.5\)となります。
この計算問題は乙種4類、通称乙4を受けた方にはなじみがあると思いますが、甲種の試験では第四類以外の倍数計算が出題される点に注意が必要です。
そのため、各類の指定数量はしっかりと覚えるようにしましょう。
ここからは第一類危険物の重要なものについて解説していきます。
塩素酸塩類
消火方法は、炭酸カリウムを主成分とする強化液や水による消火が有効です。
塩素酸カリウム \(\rm{KClO_3}\)\(\) |
・色形状:無色無臭の結晶
・性状・危険性 1. 強い衝撃、急激な加熱により爆発 2.\(400^\circ \rm{C}\)\(\)で分解し、酸素を発生 \(\rm{4KClO_3}\)\(\rightarrow \rm{3KClO_4}\)\(+\rm{KCl}\)\(\) \(\rm{KClO_4}\) \(\rightarrow \rm{KCl}\)\(+\rm{2O_2}\) 3. 強酸化剤であり、有機物、硫黄、鉄粉と接触すると、わずかな刺激で爆発 4. 硝酸銀、硫化銀、二酸化マンガン、炭素、アルミニウム塩等との混合は、急激な加熱や衝撃による爆発の危険あり 5. 濃硫酸との混合は、発熱し有毒な二酸化塩素と過塩素酸が発生し、爆発する
・消火方法 水、強化液 (主成分:炭酸カリウム)、泡 (化学泡の主成分:炭酸水素ナトリウムと硫酸アルミニウム、機械泡の主成分:合成界面活性剤泡または水成膜泡) 粉末 (リン酸塩系の主成分:リン酸アンモニウム、炭酸水素塩系の主成分:炭酸水素カリウムまたはこれと尿素との反応生成物、\(\rm{Na}\)\(\)系の主成分:炭酸水素ナトリウム) 大量の噴霧注水による冷却消火 |
塩素酸アンモニウム \(\rm{NH_4ClO_3}\)\(\) |
・色形状:無色の結晶
・性状・危険性 1. 水によく溶ける 2. 衝撃に敏感で、加熱、振動により爆発する可能性あり
・消火方法 水、強化液、泡、粉末 大量の噴霧注水による冷却消火 |
塩素酸ナトリウム \(\rm{NaClO_3}\)\(\) |
・色形状:無色無臭の結晶
・性状・危険性 1. 冷水、熱水、アルコールに可溶 2. 潮解性がある 3.\(400^\circ \rm{C}\)\(\)以上で分解し酸素を放出 \(\rm{2NaCl_3}\) \(\rightarrow \rm{2NaCl}\)\(\) + \(\rm{3O_2}\)\(\) 4. 強烈な衝撃、摩擦で爆発 5. 強酸化剤であり、有機物、硫黄、鉄粉と接触すると、わずかな刺激で爆発
・消火方法 水、強化液、泡、粉末 大量の噴霧注水による冷却消火 |
塩素酸バリウム \(\rm{Ba(ClO_3)_2・2H_2O}\)\(\) |
・色形状:無色無臭の結晶
・性状・危険性 1. 水によく溶ける 2. 加熱、衝撃、摩擦により爆発する可能性あり 3. 可燃物と混合して燃焼させると、緑色の炎を発生する 4. 硫酸に接触すると爆発する危険性がある
・消火方法:水、強化液、泡、粉末 |
過塩素酸塩類
塩素酸塩類よりは安定ですが、加熱、衝撃により分解して酸素を発生し、可燃物と混合は急激な燃焼を起こして爆発する可能性があります。
消火方法は基本的に塩素酸塩類と同じです。
過塩素酸カリウム \(\rm{KClO_4}\)\(\) |
・水に不溶
・色形状:無色無臭の結晶
・消火方法 水、強化液、泡、粉末 大量の噴霧注水による冷却消火 |
過塩素酸アンモニウム \(\rm{NH_4ClO_4}\)\(\) |
・色形状:無色の結晶
・性状・危険性 1. 水によく溶ける 2. 金属、可燃物と混合すると爆発の危険性が大きくなる
・消火方法 水、強化液、泡、粉末 大量の噴霧注水による冷却消火 |
過塩素酸ナトリウム \(\rm{NaClO_4}\)\(\) |
・色形状:無色の結晶
・性状・危険性 1. 水によく溶ける 2. 潮解性がある 3. \(200^\circ \rm{C}\)\(\)以上で分解し、酸素を発生する \(\rm{2NaClO_4}\) \(\rightarrow \rm{2NaCl}\)\(+\rm{4O_2}\)\(\)
・消火方法 水、強化液 大量の噴霧注水による冷却消火 |
無機過酸化物
\(\rm{O_2}\)\(^{2-}\) を有する酸化物の総称で、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属との化合物が一般的です。
水と激しく反応し酸素を発生させるため、貯蔵に関しては、可燃物から隔離した上で水や湿気を避けて密栓し、消火の際は注水は避けて乾燥砂による窒息消化が有効です。
過酸化カリウム \(\rm{K_2O_2}\)\(\) |
・色形状:オレンジ色の粉末
・性状・危険性 1. 吸湿性が強く、潮解性を有する 2. 水と激しく反応して熱と酸素を発生する \(\rm{2K_2O_2}\)\(+\rm{2H_2O}\) \(\rightarrow \rm{4KOH}\)\(+\rm{O_2}\)\(\)
・火災予防・貯蔵方法:水や湿気に注意し、容器を密栓する ・消火方法:乾燥砂 (注水はさける) |
過酸化ナトリウム \(\rm{Na_2O_2}\)\(\) |
・色形状:黄白色粉末
・性状・危険性 1. 常温で水と激しく反応し、熱と酸素を発生する \(\rm{2Na_2O_2}\)\(+\rm{2H_2O}\) \(\rightarrow \rm{4NaOH}\)\(+\rm{O_2}\)\(\) 2. 水、有機物、可燃物、金属粉末等、被酸化剤との接触で発火・爆発する危険性がある
・火災予防・貯蔵方法 1. 水や湿気に注意し、容器を密栓する 2. 有機物、可燃物等から隔離する ・消火方法:乾燥砂 (注水はさける) |
過酸化バリウム \(\rm{BaO_2}\)\(\) |
・色形状:白色粉末
・性状・危険性 1. 水に難溶だが、潮解性を有する 2. \(800^\circ \rm{C}\)\(\)で酸化バリウムと酸素に分解 \(\rm{2BaO_2}\) \(\rightarrow \rm{2BaO}\)\(+\rm{O_2}\)\(\) 3. 酸素または熱湯により分解し、発熱とともに過酸化水素と酸素を発生 4. アルカリ土類金属の過酸化物 (\(\rm{CaO_2}\)\(\)、\(\rm{BaO_2}\)\(\)等) の中で最も安定
・火災予防・貯蔵方法:容器を密栓し、換気良好で乾燥した冷暗所に保存 ・消火方法:乾燥砂 (注水はさける) ・用途:漂白剤 |
硝酸塩類
一般的には潮解性があり、加熱すると分解して酸素を発生し、水によく溶けます。
消火方法は大量注水です。
硝酸カリウム \(\rm{KNO_3}\)\(\) |
・色形状:無色無臭の結晶
・性状・危険性:黒色火薬 (硝酸カリウム、硫黄、木炭の粉末を混合したもの) の原料である ・火災予防・貯蔵方法:容器は密栓し、異物の混入を避ける ・消火方法:大量注水 |
硝酸アンモニウム \(\rm{NH_4NO_3}\)\(\) |
・色形状:無色無臭の結晶
・性状・危険性 1. 水、アルコール、アルカリに溶ける 2. 潮解性がある 3. 吸湿性が高く、水に溶ける際に多量の熱を吸収する 4. 沸点\(210^\circ \rm{C}\)で分解し、有毒な亜酸化窒素を生じ、さらに強熱すると爆発的に分解し、窒素と酸素を発生 \(\rm{NH_4NO_3}\) \(\rightarrow \rm{N_2O}\)\(+\rm{2H_2O}\)\(\) \(\rm{2NH_4NO_3}\) \(\rightarrow \rm{2N_2}\)\(+\rm{O_2}\)\(+\rm{4H_2O}\)\(\) 5. 急激な加熱、衝撃により分解爆発することがある
・火災予防・貯蔵方法:容器は密栓し、冷暗所に保管 ・消火方法:大量注水 |
ヨウ素酸塩類
無色の結晶で水溶性のものが多く、塩素酸塩類、臭素酸塩類より化学的に安定ですが、可燃物と混ぜて加熱すると爆発する危険があります。
消火方法は大量注水です。
ヨウ素酸ナトリウム \(\rm{NaIO_3}\)\(\) |
・色形状:無色の結晶
・性状・危険性 1. 水、アルコールに溶ける 2. 加熱により分解して酸素を発生 ・消火方法:大量注水 |
過マンガン酸塩類
一般に硝酸塩類より危険性は少ないですが、強酸化剤です。
消火方法は大量注水です。
過マンガン酸カリウム \(\rm{KMnO_4}\)\(\) |
・色形状:赤紫色または黒紫色の結晶
・性状・危険性:水溶液は紫色を呈する ・消火方法:大量注水 ・用途:強力な酸化剤として有機合成等に使用 |
その他
三価クロム \(\rm{CrO_3}\)\(\) |
・色形状:暗赤色の針状結晶
・性状・危険性 1. \(250^\circ \rm{C}\)で分解して、酸素を発生する \(\rm{4CrO_3}\) \(\rightarrow \rm{2Cr_2O_3}\)\(+\rm{3O_2}\)\(\) 2. 水を加えると腐食性の強い酸になる 3. アルコール、ジエチルエーテル、アセトン、ピリジン、アニリン等の引火性物質と接触すると爆発的に発火する恐れがある
・消火方法:水、乾燥砂、粉末、二酸化炭素 |
二酸化鉛 \(\rm{PbO_2}\)\(\) |
・色形状:黒褐色の粉末
・性状・危険性: \(360^\circ \rm{C}\)\(\)で分解し、有毒な四三塩化鉛と酸素を発生 ・消火方法:霧状注水、泡、二酸化炭素 ・用途:鉛電池正極板 |
次亜塩素酸カルシウム三水塩 (高度さらし粉 ※) \(\rm{Ca(ClO)_2・3H_2O}\)\(\) |
・色形状:白色粉末 (強烈な塩素臭)
・性状・危険性:\(150^\circ \rm{C}\)\(\)で分解し、酸素を発生 ・消火方法:注水 用途:殺菌剤、漂白剤、消毒剤 (プールの消毒) ※この名前は漂白するという意味の「晒し」に由来するといわれています。 |
まとめ
今回の記事の内容は以上となります。
次回は第二類危険物について解説していくので、ぜひそちらも読んでください!
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それでは、どうもありがとうございました!