【大学の高分子科学】みみず鎖モデルと高分子の剛直性の関係について、丁寧に解説!

化学

こんにちは!

それでは今日も化学のお話やっていきます。

今回のテーマは、こちら!

高分子の基本的なモデルである「みみず鎖モデル」について考えよう!
動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(worm-like chain202)

それでは内容に入っていきます!



ガウス鎖の復習と補足

まずは、ガウス鎖の復習から入ります。

ガウス鎖とは、両末端間距離の分布関数がガウス分布になる鎖のことをいいます。

自由連結鎖自由回転鎖束縛回転鎖といった高分子のモデルは、すべてガウス鎖モデルになります。

これらのモデルでは、分子内の排除体積効果を考えていません。

ここに関しては、過去の記事でお話ししているので、そちらを参照してください。

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そして、3次元空間におけるガウス鎖の両末端間距離の分布は、\(4\pi r^2P(r)\)で与えられます。

ここで、\(P(r)\)は規格化した一次元のガウス分布で、\(n\)は結合ベクトルの本数、\(b\)は結合長です。

\(C_\infty\)は特性比という量で、自由連結鎖について\(1\)になります。

結合角や内部回転ポテンシャルの影響を反映して、\(0\)から\(1\)までの値をとります。

それで、ガウス鎖についての注意事項として、以前の記事で説明できていなかった部分を補足させてください。

まず、感の良い人は気付いていると思いますが、ガウス分布は常に\(0\)より大きい値となるため、引っ張った自由回転鎖の長さ\(nb \sin{(\theta/2)}\)よりも長い両末端間距離をとっても良いことになります。

これは現実的ではないので、Langevin(ランジュバン)関数の逆関数\(L^{-1}(x)\)を使って補正するということがなされることがあります。

そして、ガウス鎖では\(n\)がとても大きいとしているため、部分鎖もガウス鎖になる一種のフラクタル図形と考えることができます。

ここで、部分鎖は1本の鎖を\(n_\rm{s}\)等分したものであるとしています。

しかし、実際には部分鎖1つの結合数\(n/n_\rm{s}\)が\(50\)より小さくなってきたところで、非ガウス性が現れると言われています。

また、大きく変形された高分子でも非ガウス性は顕著になります

そして、多変数のガウス分布関数関数を使って、より厳密な計算をすると、実はガウス鎖は完全な球ではなく回転楕円体となります。

ここで、\(b_\rm{s}\)は1つのセグメントの平均両末端間距離で、末端間ベクトルに平行な方向を\(x\)軸方向、垂直な方向を\(y\)、\(z\)軸方向としています。

それぞれの平均二乗回転半径は、↑のように計算されるため、軸比が\(2\)の回転楕円体とみなせます。

みみず鎖モデル

はい、それではガウス鎖の話はここまでとして、次の話に入っていきます。

これまで考えてきた高分子のモデルはすべて、有限個のビーズが繋がってできた鎖を考えていました。

しかし、この鎖はカクカクしてるので、鎖に沿って微分することができないなど、数学的な取り扱いが難しいです。

そこで、連続曲線として高分子を表すのがみみず鎖モデルです。

これは、結合数\(n\)、結合長\(b\)、結合角\(\theta\)の自由回転鎖について、\(n \rightarrow \infty\)、\(b \rightarrow 0\)、\(\theta \rightarrow \pi\)の極限をとったものです。

とても小さいビーズが無限につながって、グニャグニャしてるイメージです。

このような極限を考えると、もはや結合数や結合長、結合角のような概念は存在せず、別の長さパラメータ2つで平均二乗両末端間距離や平均二乗回転半径が表されるようになります。

そのパラメータの1つは、鎖を一直線状に引っ張ったときの長さ\(nb\)で、文字は\(L\)を使うことにします。

そして、もう1つは\(b/(1+\cos{\theta})\)で、詳しい説明はもうちょっと後でやります。

文字は\(q\)と表すことにします。

\(L\)は経路長と呼びますが、中には全長と表記している教科書もあります。

そして、\(q\)は持続長と呼ばれます。

それで、まず自由回転鎖の平均二乗両末端間距離は、\(n^0\)の項までで近似すると、このようになります。

導出の過程はややこしいですが、↓にpdfを貼っておくので、気になる人だけ見ておいてください。

Gause chain mean-squared end to end distance derivation

まず、この\(\langle R^2\rangle\)について結合角\(\theta\)が\(\pi\)に近づいていったときの極限を考えます。

こうすると、鎖の方向に対する微分ができるので、数学的に扱いやすくなります。

\(\cos{\theta}\)は\(-1\)に近づいていきますので、分母は\(0\)に近づいていくわけですが、ここを一旦残しておくと、↑のようになりまして、第一項は\(2qL\)と書き換えることができます。

そして、第二項については、\(-\cos{\theta}=1-L/(nq)\)と書き換えることで、↓のように整理されます。

自然対数の底、ネイピア数\(\rm{e}\)の定義が()の中に隠れていますので、\(n\)を無限大にしたとき、ここは\(\exp{(-L/q)}\)となります。

したがって、みみず鎖の平均二乗両末端間距離は、\(2qL-2q^2[1-\exp{(-L/q)}]\)となります。

高分子の剛直性

それでは、持続長\(q\)とは何のパラメータだったのか説明していきます。

結論から先にいうと、\(q\)は高分子の剛直性、つまり硬さを表します。

例えば、\(L\)に対して\(q\)がとても大きい場合には、\(\exp{(-L/q)}\)のテイラー展開を二次の項までとることで\(\langle R^2\rangle\)は\(L^2\)と近似されます。

これをイメージ図で表すとこんな感じです。

両末端間距離は多少の分布を持つものの、高い確率で経路長\(L\)に近い値をとることから、まっすぐ伸びた形を取りやすいということになります。

反対に、経路長\(L\)に対して\(q\)が無視できるほど短かった場合、\(\langle R^2\rangle\)は\(2qL\)と近似できます。

これを少しいじると\((L/2q)q^2\)と書くこともできます。

これは結合数が\(L/2q\)、結合長が\(q\)の自由連結鎖の平均二乗両末端間距離と一致するため、分子の形はこんなふうにクネクネ曲がったイメージになります。

以上のことから、持続長\(q\)は高分子の曲がりにくさ、つまり剛直性を表すパラメータだということになります。

\(q\)が長いほど、高分子は剛直であることになります。

また、\(q\)が短いみみず鎖をガウス鎖としてみなすと、その結合数は\(L/2q\)、実行の結合長\(\sqrt{C_{\infty}}b\)は\(2q\)となります。

これらはそれぞれKuhn(クーン)の統計セグメント数Kuhnの統計セグメント長と呼ばれており、\(N_\rm{K}\)、\(L_\rm{K}\)といった文字で表されることが多いです。

高分子の剛直性を表すパラメータとして、持続長\(q\)ではなく、Kuhnの統計セグメント長\(L_\rm{K}\)が使われることもあるので、ぜひ知っておいてください。

持続長の例

それで、実際の持続長はこちらの表のようになります。

一般的に、単結合だけで主鎖が構成されるポリスチレンなどに比べて、らせん構造や共役二重結合を有する高分子の方が持続長は長くなります。

らせん構造をとる高分子にみみず鎖モデルをあてはめるときには、経路長\(L\)を主鎖に沿った長さではなく、らせん軸の長さとしてとるため、注意が必要です。

そして、3重らせん構造をとる多糖のシゾフィランやたんぱく質のコラーゲンは持続長が\(100\ \rm{nm}\)のオーダーになります。

ポリ(γ-ベンジルL-グルタメート)、略してPBLGはたんぱく質同様にα-ヘリックス構造をとりまして、その持続長は\(150\ \rm{nm}\)程度です。

二重らせんで知られるDNAも持続長\(60\ \rm{nm}\)とかになります。

多糖誘導体であるセルロース(トリスフェニルカルバメート)、略してCTCもポリスチレンなどと比べると結構剛直で、持続長は\(10\ \rm{nm}\)です。

その下のポリ(1-フェニル-1-プロピン)は長いπ電子共役系となるポリアセチレン誘導体で、平面構造をとろうとするため、ちょっと剛直になります。

それで、剛直性による高分子の分類は、持続長を直接使うわけではなく、持続長と経路長の比によって考えられます

持続長が長い、あるいは経路長が短いとき、高分子は剛直な鎖として振る舞い、その逆では屈曲しやすい鎖になります。

それぞれは剛直高分子屈曲性高分子と呼ばれます。

剛直高分子はカーボンナノチューブなどの強靭な材料や液晶にして光学材料などに利用されています。

屈曲性高分子はビニール袋のポリエチレンや化粧品などに使われるポリエチレングリコール、あとはポリスチレンなど、身の回りでもよく見る高分子材料の多くに使われています。

そして、持続長と経路長が同程度である高分子は半屈曲性高分子と呼ばれ、その物理的な取り扱いにはまだまだ謎が多いです。

コラーゲンや多糖、DNAなど生体高分子の多くがこの半屈曲性高分子に分類されていて、これらの物理的性質の解明は生物学的にも大変重要であるため、今も盛んに研究されています。

それで、剛直であるほどセグメント同士の衝突確率が低いため、分子内排除体積効果が働きにくく、みみず鎖の予想が現実と一致しやすいです。

逆に、良溶媒中の屈曲性高分子では、両末端間距離の分布がガウス分布からはずれます。

それで、側鎖の影響もときには重要になってきます。

例えば、ポリシラン誘導体では持続長が\(5\)~\(100\ \rm{nm}\)の範囲で大きく上下します。

立体規則性も大きく影響することがあって、例えばシンジオタクチックポリメタクリル酸メチル(s-PMMA)は溶媒中で少しだけらせん状になります。

これは、側鎖のメチル基とカルボキシル基の立体反発を避けるためです。

とは言っても、DNAのように水素結合で固定化されてはいないので、完全に規則的ならせん構造を取っているわけではなく、このような高分子はらせんみみず鎖というモデルで議論されます。

そして、らせんを巻くということは剛直になるということなので、らせんを巻かないアタクチックポリメタクリル酸メチル(a-PMMA)よりも持続長は長くなります

練習問題

はい、それでは最後練習問題をやって終わります。

みみず鎖の平均二乗両末端間距離はさっき求めたので、平均二乗回転半径を求めてみましょう。

詳しい説明は、過去の記事(↓)でやっているので割愛しますが、回転半径と両末端距離の関係を積分の形で表すとこのようになりますので、この式から回転半径の式を求めてください。

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ここで\(s\)は一方の末端からとある点までの距離です。

答え

まず、\(\langle R^2(s)\rangle =2qs-2q^2[1-\exp{(-s/q)}]\)となりますから、これを代入します。

そして、部分積分の公式を使って整理すると、\(\langle S^2 \rangle =qL/3-q^2+(2q^3/L)[1-(q/L)[(1-\exp{(-L/q)}]]\)と導かれます。

ちなみに剛直極限では、指数関数部分を\(4\)次の後まで近似することで\(\langle S^2\rangle =L^2/12\)となります。

屈曲性高分子として極限をとる場合には、\(\langle S^2\rangle =qL/3\)となり、確かに平均二乗両末端間距離\(2qL\)の6分の1になっていることが確認できます。

つまり、ガウス鎖として考えたときと一致するということです。

まとめ

はい、今回の内容は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

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