こんにちは!
それでは今日も化学のお話やっていきます。
今回のテーマはこちら!
動画はこちら↓
動画で使ったシートはこちら(alcohol 1、alcohol 2、alcohol 3、alcohol 4)
アルコールの命名法
IUPACでのアルコールの名前は今からお話しするルールに則って付けられます。
アルカンのaneをolに変える
炭素数が同じアルカンのaneをolに変えることでアルコール名にします。
例えばメタンだったらメタノール、エタンだったらエタノールといった具合です。
ヒドロキシ基に近い炭素末端を1とする
例えばこのアルコールは3-オクタノールであり、6-オクタノールではありません。頭につく数字はなるべく小さくなるようにします。
環状アルコールヒドロキシ基が付いた炭素を1とする
シクロアルカンの水素原子が1つヒドロキシ基に置換されたものはシクロアルカノールと呼ばれます。これの命名法はヒドロキシ基がついた炭素原子を一番として他の置換基の場所を表します。図の化合物であれば2-メチルシクロヘキサノールといいます。
アルコールの物性
C-O-Hの結合角は\(109.5^\circ\)に近い値
酸素原子の周りで見ると、共有結合2本と孤立電子対2対の計4つの電子軌道が、sp3混成軌道の正四面体型の配置で静電反発を避けようとします。
アルキル基の長さによってぴったり\(109.5^\circ\)になるわけではないですが、それに近い折れ線型の構造となります。
O-H結合の長さはC-H結合より短く、結合エネルギーが大きい
酸素原子の大きい電気陰性度により水素原子が引き付けられることでそうなっています。
分子全体で双極子を持つ
酸素原子の電気陰性度のために双極子ができ、折れ線型ではそれらが打消し合うことができないので分子全体で双極子をもつことになります。
沸点が高い
この表はメタンとメタノール、エタンとエタノールの沸点を比較したものです。
水素がヒドロキシ基になっただけですが、これにより分子間で水素結合による安定化が起こるので、アルコールは液体であろうとします。
水への溶解性
エタノールのような低分子量のアルコールは水とよく混じります。
常温でもメタノール、エタノール、1-プロパノールは水と混和するので、溶解度は無限大といえます。
これに対して1-ペンタノールは\(23^\circ C\)で\(100\ mL\)の水に\(2.2\ g\)しか溶けません。
これはアルキル基の疎水性が原因です。
C-H間は電気陰性度の差が小さく極性がほぼないため、これが水素結合で安定化した系に入ると、水素結合が一部形成できなくなり、エンタルピーが上昇します。
また、アルキル基同士でLondon力による自己集合が起こるため、アルキル基が長くなるほどその傾向が顕著になり水と混ざらなくなります。
酸、塩基両方の性質を持つ
この表は水、いくつかのアルコールについてその\(\mathrm{p}K_\mathrm{a}\)を書いたものです。
\(\mathrm{p}K_\mathrm{a}\)の定義は\(-\log K_\mathrm{a}\) (\(K_\mathrm{a}\)は酸解離定数)で、この値が小さいほど、強い酸という事になります。
水でもアルコールでもO-H間で電気陰性度の違いにより分極が起こるので、水素はプロトン性になります。
そのため、水、メタノール、エタノールは似たような\(\mathrm{p}K_\mathrm{a}\)の値を持ちます。
嵩高いアルコールは溶媒和による安定化が起こりにくいので、イオンとして存在しにくいです。
そのため\(\mathrm{p}K_\mathrm{a}\)は増大し、酸としては弱くなります。
アルキル部分にハロゲンなど電子求引基がついている場合は水素の周りの電子密度が余計に小さくなるため、\(\mathrm{p}K_\mathrm{a}\)は減少し、酸性度は上がります。この効果は誘起効果と呼ばれます。
続いて、塩基としてのアルコールの比較をしていきます。
酸素原子上に孤立電子対があることので、アルコールはプロトンを引き抜くことができます。
共役酸の\(\mathrm{p}K_\mathrm{a}\)はここに示した通りで、高級アルコールほど弱塩基になるのは溶媒和で予測される通りです。
このように水やアルコールのように酸としても塩基としてもはたらくことは、両性であるという言い方をします。
工業的製造法
まず、メタノールは一酸化炭素と水素をこの金属触媒のもとで、高温高圧下で反応させることで得られます。
似たような方法で1,2-エタンジオール(エチレングリコール)も作られます。
これはエンジンの不凍液に用いられることで有名な化合物です。
エタノールはエチレンにリン酸を触媒として水を付加させることで得られます。
また、でんぷんなどの糖類を微生物によって発酵させることでも作れます。
これがいわゆるお酒になります。
求核置換反応による合成
脱離基を持つ基質に水酸化物イオンまたは水を求核攻撃させることでアルコールが得られます。
SN2機構で反応が進行すればきれいな反応ですが、実際のところは、SN1やE1、E2も起こるので何通りかのアルコールが得られたり、アルケンができたりとなかなか扱いにくい反応なので、さほど多くは使われていないアルコール合成法です。
エステル加水分解
酢酸イオンという弱塩基を使うことで脱離反応を抑えることができます。
求核剤に使うのは水より塩基性が弱い酢酸イオンです。
これをまず基質に求核攻撃させてエステルとします。
続いてこれを塩基触媒で加水分解してアルコールにします。
この加水分解は酸触媒でも進みますが、塩基触媒のほうが反応速度が速いです。
このアルコール合成法はエステル合成法と呼ばれます。
アルコールの酸化、還元
酸化、還元とは
酸化のパターンは次の3つです。
- ハロゲンや酸素など陰性原子が付加する
- 水素が奪われる
- 電子を失う
そして、還元は酸化の逆です。
- 酸素などが外れる
- 水素が付加する
- 電子を受け取る
ここにはメタンが酸化されて二酸化炭素になるまでの経路を書いてみたんですが、その間にはアルコール、アルデヒド、カルボン酸がありまして、酸素が引っ付くか、水素が外れるかの2パターンのみで、これら5つの化合物を結び付けることができます。
アルコールの還元
先ほどのメタンから二酸化炭素までの関係を見るとアルコールはアルデヒドの還元によりできるという事が分かります。
厳密にはケトンを還元してもアルコールになります。
アルデヒドやケトンのC=O二重結合の部分はカルボニルと呼ばれますが、カルボニルでは炭素が正、酸素が負に分極しています。
これはそもそも電気陰性度の差があることに加えて、このような共鳴構造の寄与があるからです。
仮にもしカルボニルにヒドリドH–を加えた場合、正に帯電しているカルボニル炭素に求核攻撃して、このようにアルコキシドアニオンが生成します。
あとはこれを水で処理すればアルコールになります。
これはヒドリドを使った還元なので、ヒドリド還元といいます。
ヒドリド還元に使う反応剤は少し変わったものを使います。
ヒドリドをもつ試薬という事で、初めに思いつきやすいのはここにある水素化ナトリウムや水素化リチウムかと思いますが、これらは水やアルコールなどのプロトン性溶媒と激しく反応してしまいます。
そのうえ有機溶媒への溶解度が悪いので、使い勝手がよくありません。
そこで、実際のヒドリド還元には、次のような試薬を使います。
1つが水素化ホウ素ナトリウムNaBH4、もう1つは水素化アルミニウムリチウムLiAlH4です。
それぞれ、略称でSodium BorohydrideのSBHと、Lithium Aluminium HydrideのLAHと呼ばれることもあります。
これらは有機溶媒との親和性が高く、またプロトン性溶媒との反応も比較的穏やかです。
この2つではNaBH4のほうがより反応性が低く、こちらはプロトン性のエタノールでも溶媒として使うことができます。
LiAlH4はエタノールと反応して水素が発生してしまうので、非プロトン性であるジエチルエーテルなどが溶媒として一般的です。
実際の反応例はこんな感じです。
LiAlH4の場合は反応が終わった後で、水の処理が必要なので、覚えておいてください。
アルコールの酸化
続いて酸化の話をします。
アルコールは酸化させることでアルデヒドやカルボン酸となります。
その酸化剤にはCr(VI)を含む試薬が用いられます。
酸化剤の例はニクロム酸ナトリウムNa2Cr2O7、ニクロム酸カリウムK2Cr2O7、酸化クロム(VI)CrO3です。
Cr(VI)自身は還元されることで最終的にCr(III)になります。
反応の前後で色が 黄橙色から深緑色になるので、反応の進行を目で確かめることができます。
実際の反応系の中で酸化剤として働いているのはニクロム酸H2Cr2O7であるため、この酸化反応は酸性条件下で行います。
実際の反応例はこんな感じで、第二級アルコールからはケトンが生成します。
じゃあ今度、同じように第一級アルコールだったらアルデヒドになります、といいたいところなんですけど、実はアルデヒドにはなりません。
第一級アルコールにニクロム酸カリウム、希硫酸を加えるとカルボン酸になります。
なぜかというと、一旦は水を介してこのようなアルデヒドとジェミナルジオールの化学平衡になるんですけど、このジェミナルジオールがさらに酸化剤によって過剰酸化されてしまうので、アルデヒドはほとんど得ることができません。
じゃあ、アルデヒド作りたいときはどうしたらいいのってなるんですけど、とっておきの試薬が実はあるんですね。
それがクロロクロム酸ピリニジウム、通称PCCと呼ばれるものです。
この試薬はピリジンと塩化水素から作った塩化ピリニジウムに酸化クロムCrO3を加えて作ります。
この試薬の何がいいかというと、水を溶媒にしなくてもアルコールを酸化させられるという事です。
溶媒にはジクロロメタンを使うのが一般的で、このように第一級アルコールからアルデヒドを作ることができます。
この酸化反応の機構はこんな感じで、アルコールとクロム酸が反応したのちに、こんな風にE2機構でC=O二重結合が形成されます。
この時にクロムの価数は6から4になります。
その後、Cr(IV)同士で電子のやり取り(これも酸化、還元)をすることでCr(III)とCr(V)が生まれます。
この過程は不均化と呼びます。
Cr(III)はそのままで、Cr(V)はまた酸化剤として働く、というループを経て最終的に全てのCrが3価になった時に反応が終了します。
有機金属反応剤による合成
有機金属反応剤とは
有機金属反応剤というのはこんな感じの化合物のことです。
金属の原子にアルキル基が付いたものですね。
金属原子は電気陰性度がとても小さく、正に帯電しやすいので、そこに隣接している炭素原子は電子richとなります。これが反応を起こすトリガーとなるわけです。
有機金属反応剤として一般的なのがまずアルキル化リチウムです。
ハロアルカンに2等量のリチウムを反応させることで得られます。
もう1つ有名なのがGrignard(グリニャール)反応剤と呼ばれるものです。
ハロアルカンにマグネシウムを反応させるとこのようにアルキル鎖とハロゲンの間にマグネシウムが入ります。
有機金属反応剤の特徴
ここからはアルキル化リチウムとGrignard試薬の共通する特徴を見ていきます。
逆分極
まず、分極の方向が逆になります。
どういうことかというと、これらの原料はハロアルカンですが、ハロゲンは炭素より電気陰性度が大きいので分極して炭素は電子poorとなります。
これが、有機金属になると電子richになるので、反応性が全然違うということになります。
塩基性がとても強い
上の合成で溶媒を見ると、ジエチルエーテルだったり、THF(テトラヒドロフラン)だったりと非プロトン性溶媒を使っているのがわかるかと思います。
これは、生成物が溶媒からプロトンを引き抜かないようにしています。
実際に水との反応はこんな感じで、ハロアルカンをアルカンに変えてしまいます。
なお、ハロアルカンからアルカンを作るにはこんな風にヒドリド還元剤を使えばいいので、有機金属反応剤でやる必要はありません。
ただし、重水素置換に使える方法ではありますので、それも言っておきます。
アルコールの合成
そしてここから、有機金属反応剤を使ったアルコールの合成の話に入ります。
この反応剤は求核的なのでカルボニル炭素に求核攻撃します。
この反応は禁水条件で行い、反応が終わった後に希塩酸などを加えることで、アルコールが得られます。
Grignard反応剤のカルボニルへの求核攻撃はGrignard反応と呼びます。
ホルムアルデヒドからは第一級、それ以外のアルデヒドからは第二級、ケトンからは第三級アルコールが生成します。
練習問題
それでは恒例の練習問題です。
1. この3つの化合物に名前を付けてみましょう。
2. これらを酸性度の高い順に並べると、どうなりますか?
3. これらの反応で得られる生成物の構造は何ですか?
4. 以下のハロアルカンのうち、Mgと反応させてGrignard試薬としてうまく機能するものをすべて選ぶと?
(1)
まずシクロヘキサンから直接出ているヒドロキシ基を基準に考えていきます。
2-ヒドロキシエチル基を置換基として考えて、エナンチオマーも考慮すると、(1R,3R)-3-(2-ヒドロキシエチル)シクロヘキサノールとなります。
(2)
炭素鎖にヒドロキシ基が4つついてますのでこれはテトラオールです。
不斉炭素を2つ持つ化合物ですが、対称面を置くことができるので、この化合物は光学不活性です。
こういったものはメソ体と呼ばれます。ということで、このアルコールの名前はmeso-1,2,3,4-ブタンテトラオールとなります。
(3)
基本骨格となる炭素鎖を1つ決めると、そこに結合しているヒドロキシ基は2つになります。
あとの2つのヒドロキシ基は炭素も含めてヒドロキシメチル基として扱うので、正解は2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオールとなります。
ヒドロキシメチルのような複数の官能基が組み合わさった複雑な官能基を数えるときはジではなくビスを使います。
3つの時はトリではなくトリスとつけます。
2.
Aは塩素という電子求引基があるのでその誘起効果により酸性度が上がります。
Bではメチル基による立体障害によりイオンの溶媒和が下がります。
これによりイオン解離しにくくなるので、酸性度は下がります。
よって、酸性度が高い順に並べるとA>C>Bとなります。
3.
(1)
アルコールに関係ありませんが、ヒドリド還元剤の問題でした。
この系ではヒドリドの求核攻撃がSN2機構で起こって、メチルシクロヘキサンが生成します。
生成物には不斉炭素がないことに注意しましょう。
(2)
ケトンのヒドリド還元で第二級アルコールが生成します。
(3)
第一級アルコールの酸化を水を溶媒として行っていますので、過剰酸化が起こり、カルボン酸が生成します。
(4)
PCCを使った第一級アルコールの酸化であり、アルデヒドが得られます。
4.
正解はCとEです。
Aではヒドロキシ基の水素がプロトン性なので強塩基である反応剤がプロトンとして引き抜いてしまいます。
Bではカルボニルがあるのでここと反応が起こってしまいます。
Dは、まだ詳しくやっていませんが、三重結合はsp混成軌道が\(\sigma\)結合を作っています。
sp3がs軌道1つとp軌道3つからできているのに対し、spはs軌道1つとp軌道1つでできているので、s軌道の寄与が大きいことになります。
s軌道はp軌道に比べて電子の広がりが小さいので、結合中心に電子が集中した構造になり、末端の酸性度が高くなります。
そのため、求核的な炭素との間で反応が起こってしまいます。
CとEではこれらのような変な反応が考えられず、うまくいくと予想されます。
まとめ
かなり長い内容でしたが、今回は以上です。
おさらいしておくと、まず今回はアルコールの話でした。
命名法では、aneをolにすること、頭につく数字を小さくすること、環状アルコールでは、ヒドロキシ基がついた炭素原子を1番として数えることをお話しました。
物性はヒドロキシ基の分極や折れ線型構造、水素結合によるものでした。
そして、アルコールは酸、塩基両方として働く両性の物質であり、電子求引基があると誘起効果により酸性度は上がります。
嵩高くなると、イオンの溶媒和が小さくなるので酸性度は下がり、塩基性も弱くなります。
続いてアルコールの工業的製造法の話をしました。
メタノールと1,2-エタンジオールは一酸化炭素と水素から、エタノールはエチレンに水を付加させることで作れます。
また、微生物による糖の発酵でもエタノールは作れます。
その次は求核置換反応によるアルコール合成法の話をしました。
OH–を使った反応ではSN1、E1、E2機構により目的のアルコールを作れないことがあります。
脱離反応を抑えるためには酢酸イオンを使ってエステルとした後に塩基触媒で加水分解させてアルコールを作る方法が有効で、この方法はエステル加水分解といいます。
そして酸化還元もお話ししました。
酸化のパターンは3つあって、酸素やハロゲンの付加、水素が奪われる、電子を失うでした。
還元はその逆です。
アルコールはアルデヒドやケトンのヒドリド還元から作ることができます。
これはカルボニルが電気陰性度と共鳴効果で分極していることを利用しており、よく使われるヒドリド還元剤は水素化ホウ素ナトリウムNaBH4と水素化アルミニウムリチウムLiAlH4でした。
アルコールの酸化は6価のクロム原子を含む試薬を使って行います。
第二級アルコールからケトンへの酸化は水が溶媒でもできますが、第一級アルコールからアルデヒドへの酸化はPCCを使ってジクロロメタンを溶媒にして行います。
水を溶媒にすると、カルボン酸まで過剰酸化されてしまいます。
有機金属反応剤についてはハロアルカンとマグネシウムでできるGrignard反応剤やアルキル化リチウムが一般的で、非プロトン性溶媒中禁水条件で作ります。
禁水で行うのは、生成する反応剤の塩基性が高く、プロトン性溶媒があると、活性を失ってしまうからです。
これらの反応性は、金属原子に隣接する炭素原子が求核的であることによって生まれており、正に帯電したカルボニル炭素に求核攻撃することでアルコールを生成します。
求核攻撃の間は禁水条件ですが、反応後は酸性の水溶液で処理します。
といったところで今回の内容は以上です。
どうもありがとうございました!