【大学の生化学】解糖系とがんの診断の関係について、わかりやすく解説! – ばけライフ

【大学の生化学】解糖系とがんの診断について、わかりやすく解説!

こんにちは!

それでは今日も化学のお話をしていきます。

今回のテーマはこちら!

解糖系とがんの診断について解説!

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解糖系とがんの診断

高校でも習う解糖系という単語ですが、この解糖系が私たちの生活にどのように役立てられているのか、よくわからないという方は多いのではないでしょうか。

実は、日本人の死亡率第一位であるがんの診断において、解糖系は十二分に利用されているということができます。

一見するとどのように関連しているのかわからないこれらの事柄について、詳しく見ていきましょう!

がん細胞の代謝の特徴

まずは、がん細胞の特徴について理解していきましょう。

がん細胞が発達している初期の段階では、血液から酸素を供給する毛細血管が不足しているため、がん細胞には酸素がうまくいきわたりません。

そのため、がん細胞は低酸素の条件下で増殖させられることを余儀なくされることになります。

しかし、がん細胞も細胞の一種です。

増殖するためにはエネルギー、つまりATPを得る必要があります。

そのために、グルコースを分解して、解糖系、クエン酸回路、電子伝達系と進めていかなければいけません。

しかし、電子伝達系では最終的に水素イオンに電子と酸素が受け渡されて水になるという段階があるため、酸素が必要不可欠になります。

(電子伝達系については、こちらの記事をご覧ください!)

【大学の生化学】代謝における電子伝達系についてわかりやすく解説!
代謝の一段階である電子伝達系について、どのような仕組みでエネルギーが生成されているか詳しく解説しています。働いている酵素や原理に基づいて電子伝達系をわかりやすく解き明かしていきましょう!

そのため、低酸素条件下では、電子伝達系でのATPの生産ができないことになります。

ここで、ATP1分子を分解したときに、どれだけのATPが生成するか復習してみましょう。

解糖系だけが進行する場合は、ATPは2分子しか生成しません。

それに対して、電子伝達系まで進行した場合には、ATPが30分子生成します。

つまり、がん細胞は通常の細胞と同じ量のATPを得るために、通常の細胞よりもはるかに多くのグルコースを消費する必要があるということになります。

この点ががんの診断においても非常に重要になってきます。

また、がん細胞の特徴について、もう一点説明しておきます。

解糖系が進行するとNADHが生成しますが、生成したNADHをNADに戻すために、ピルビン酸を乳酸に還元するという「発酵」と呼ばれている反応が行われます。

そのため、がん細胞の周囲では生成した乳酸によって酸性の環境になるといった特徴もあります。

低酸素誘導因子(HIF-1)の働き

次に、低酸素誘導因子(HIF-1)の働きについてみていきましょう。

HIF-1はがん細胞が低酸素の環境下でも、うまく増殖することができるように補助する役割を持ちます。

そのために、さまざまな遺伝子の転写を促す転写因子として働きます。

HIF-1の働きはいくつかあります。

まずは、解糖系で働く各酵素の量を増やして、解糖系の進行を速めるという働きがあります。

次に、細胞内にグルコースを取り込むトランスポータである、GLUT1およびGLUT3の発現量を増加させ、より多く血液中から細胞内にグルコースを取り込むことができるようにしています。

また、ホルモンであるVEGFを誘導する役割も持ちます。

このホルモンは、血管の新生を促進するもので、がん細胞により多くの酸素を供給できるように血管の新生を促す働きを持っています。

これらのHIF-1の働きによって、がん細胞はより多くのグルコースを細胞中に取り込み、より早く増殖できるように補助されているのです。

解糖系ががんの診断に利用される仕組み

それでは、解糖系を利用してどのようにがん細胞の診断を行っているのかということについて見ていきましょう!

先ほど述べたように、がん細胞は解糖系でしかATPを生成できないために通常の細胞よりも多くのグルコースを取り込むという性質がありますが、この性質を利用します。

どのようにするかというと、グルコースに似た構造を持っているが、代謝されないような分子をがん細胞に集積させて、その濃度を測定して異常に高い部分にがん細胞があるという風に判断することで、診断を行うことができます。

そのために、2-フルオロ―2-デオキシグルコース(FdG)という分子を使います。

この分子は、グルコースの2位のヒドロキシ基がフッ素の放射性同位体原子に置換されている構造になっています。

この分子はトランスポータのGLUTによって細胞の中に取り込まれて、ヘキソキナーゼによって6位がリン酸化されます。

しかし、ヒドロキシ基がフッ素によって置換されているために、これ以上は代謝されずに細胞の中に蓄積します。

がん細胞においては、通常の細胞のおよそ10倍の速度でグルコースが蓄積されるため、FdGはがん細胞に選択的に集積します。

フッ素同位体原子の崩壊

FdGに含まれる同位体の18F原子は放射性同位体であり、放射線を放出して違う原子に崩壊します。

18Fはβ崩壊という崩壊形式で安定な同位体である18Oに変換されます。

このときに、「陽電子」と呼ばれる正の電荷を持った粒子を放出するのですが、この陽電子はPETなどの機械によって検出されることができ、撮影されることができます。

(↑PETの画像、千葉県ホームページより引用)

(↑PETで検出した際の画像、同じく千葉県ホームページより引用)

このように、がん細胞がどこに存在するのか診断するために解糖系の仕組みやがん細胞の特徴、放射性同位体が利用されていることがわかるかと思います!

練習問題

それでは、ちょっとした練習問題に取り組んでみましょう。

今回の記事では、がん細胞がグルコースを多量に取り込む性質を利用して、がんの診断を行う仕組みについて解説しました。

では、この性質を利用したがん細胞を殺す薬(抗がん剤)にはどのような仕組みを持ったものがあると考えられるでしょうか。

答えは1つではないので、じっくり考えてみてください!

答え
答えとしては、

・解糖系を進めるときに働く酵素を阻害する

・グルコースを細胞中に取り込むトランスポータを阻害する

などが考えられます。他にも様々な薬が実際に使用されているので、興味がある方はぜひ調べてみてください!

それでは、今回の内容は以上となります。

次回の生化学の動画では、脂肪酸の代謝について考えていこうと思います。

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