【大学の物理化学】分子の速度を考えるマクスウェル-ボルツマン分布の導出についてわかりやすく解説!

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こんにちは!

それでは今回も化学のお話やっていきます。

今日から熱力学の話もやっていきます。

今回はテーマはこちら!

分子の速度分布を与えるマクスウェル-ボルツマン分布をどうしゅつしy

動画はこちら↓

マクスウェル-ボルツマン分布の導出過程を丁寧に解説!【大学の物理化学】

動画で使ったシートはこちら(Maxwell-Boltzmann)

それでは内容に入っていきます!

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ボルツマン分布

まず、今回考えるモデルを紹介します。

この四角で囲んだ空間に理想気体分子が5個あるとします。

体積は\(V\)で一定、この分子は5つの離散的なエネルギー状態を取ります。

それぞれの分子がどのエネルギー状態にあるのかは温度によって変わって、絶対零度の時には全ての分子が最安定の状態にありますが、温度の上昇とともに高いエネルギー状態に移っていきます。

しかし、最安定の状態に全く分子がいないという状態にはなりにくくて、とても高い温度になった場合には全ての状態で分子の存在確率が近い値になっていきます。

この分子がどのエネルギー状態に平均で何個入るのかという分布には法則があり、このような式で表されます。

\(i\)と\(j\)が状態の番号で、\(N\)が分子の個数です。

この式の意味は\(i\)番目と\(j\)番目の分子数の比は、状態間のエネルギー差と温度で決まるということです。

温度が低いほど、またエネルギー差が多いほど安定な方に分子が集中する確率が高いことになります。

この分布はボルツマン分布と言います。

エネルギー状態が縮退しているときには縮退度\(g\)を使ってこのように考えます。

なぜ指数関数になるのかは、こちらを参照してください。

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マクスウェル-ボルツマン分布の導出

では、今回のテーマであるマクスウェル-ボルツマン分布を先ほどのボルツマン分布から導いてみましょう。

ボルツマン分布は分子数の分布でしたが、このマクスウェル-ボルツマン分布は速度の分布になります。

分子は全部が同じ速さで運動しているわけではないので、どのような広がりを持っているのかというのを考えます。

ここでは先ほどのように離散的なエネルギーではなく、連続量である並進エネルギーを分子が持つ全エネルギーとします。

そして速度ベクトルを\(\boldsymbol{v}=(v_x, v_y, v_z)\)、その絶対値を\(v\)と置きます。

分子が持つエネルギーは古典的な運動エネルギーなので、\(\frac{1}{2}mv^2\)となって\(x\)、\(y\)、\(z\)成分に分離することもできます。

ここで\(x\)成分にのみ考えることにすると、\(v_x\)の分布関数\(f_x\)はこのような式になります。

指数関数の部分はボルツマン分布から来ていて、あとは積分したときに\(1\)にするため定数\(K\)をかけた形になっています。

この\(K\)はガウス積分の公式より求めることができて、\(\sqrt{\frac{m}{2\pi k_\rm{B}T}}\)になります。

そして\(x\)方向についてはわかったので、これで全方向を考えます。

全体の速度分布関数\(f\)は\(x\)、\(y\)、\(z\)すべての軸方向に対する分布関数の積になるため、↓のように書けます。

また分子の並進運動は等方的であり、偏りはないため、\(v_x\)の分布関数\(f_x\)と同じ形で、\(f_y\)、\(f_z\)も書くことができます。

もうさっき規格化定数は求めたので、結局全方向への速度分布は↑の形になります。

そして、角度依存性がないということは、極座標にしてしまえば変数を速度\(v\)だけにできるということなので、ここから極座標への変換を行います。

ヤコビアンは\(v^2\sin{\theta}\)で、微小な体積変化はこのような関係になります。

ここの考え方について、詳しくは別の記事でお話ししているので、必要に応じてこちらを参照してください。

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そして、この角度部分を積分すると\(4\pi\)になります。

結局、極座標で表したときの速度分布は↓の式になります。

この分布をマクスウェル-ボルツマン分布と言います。

指数関数の部分はモル質量\(M\)とすれば、気体定数\(R\)も使ってこのように変形することができます。

温度依存性、モル質量依存性

ここで、速度分布は何に依存するのかということを考えてみます。

\(v\)は変数、\(R\)は物質や条件によらない定数ということで、モル質量\(M\)と絶対温度\(T\)によってこの関数の形が変わることになります。

もっと言うと、理想気体の場合は分子の大きさもないので、この\(M\)と\(T\)の比によって変わることになります。

つまり個々の値は問題ではなく、温度が下がることは分子量が大きくなることと対応しています。

もし、\(M/T\)が大きいときには低速側にピーク、\(M/T\)が小さいときには高速側にピークが現れます。

図で書くとこんな感じで、青は\(M/T\)が大きいとき、すなわちモル質量が大きいか、低温だった場合の速度分布です。

赤はその逆です。

ここでもう1つ注目してもらいたいのはピークの幅です。

青のカーブではシャープなピークになってまして、速い分子はほとんど存在していないことになります。

それに対して、赤のカーブにおいてはピークがブロードになってまして、遅い分子もそこそこ存在しているということになります。

これは、ボルツマン分布においてどんなに高い温度にしても、最安定状態に分子がいるということからイメージしてもらえると思います。

ずべての分子が一様の速さを持っているわけではないというこの事実は、反応速度を考えるうえでもとても重要なことになります。

詳しくは、こちらを参照してください。

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まとめ

はい、それでは今回の内容は以上ですので、最後軽くおさらいをやって終わります。

今回は分子の速度分布であるマクスウェル-ボルツマン分布についてお話ししました。

これは分子が持つ全エネルギーは並進エネルギーであるという仮定のもと、ボルツマン分布から理想気体分子の速度分布を考えるものです。

ボルツマン分布はある2つの状態についてその分子数の比がその状態間のエネルギー差と絶対温度によって決まるというもので、統計力学によって導出されます。

これを全方向について考えて、途中極座標への変換も行うことで、最終的に速度ベクトルの大きさだけを変数とする分布関数を求めることができました。

分子の速度分布はモル質量\(M\)と絶対温度\(T\)の比で決まり、これが大きいほど低速側、小さいほど高速側にピークが現れます。

高速側にピークがあった場合にはピークがブロードになって、遅い分子もそこそこ存在していることになります。

今回は以上です。

どうもありがとうございました!

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