【大学の物理化学】生物が色を認識する原理を量子力学からわかりやすく解説!!

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こんにちはー!
今回も化学のお話やっていきます。今日のテーマはこちら!

量子力学の観点から、色を認識する仕組みを理解しよう

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(color)

では早速行きましょう!

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光とは

まずは光がないと色は見えないので光って何?という事を軽く触れておきます。

広い意味での光というのは電場と磁場の揺らぎ、すなわち電磁波のことです。

電場と磁場はこんな感じで直交しながら進行方向に進んでいきます。

レントゲンに使われるX線や電子レンジのマイクロ波も電磁波なので、目には見えませんが、広い意味の光であると言えます。

そして、狭い意味の光というのは目に見える光、すなわち可視光のことを指します。

可視光の波長は\(380~780\ \rm{nm}\)程度であり、波長によって、色が変わります

波長\(400\ \rm{nm}\)は青、\(500\ /rm{nm}\)は緑、\(600\ \rm{nm}\)は赤色といった具合です。

蛍光灯や太陽のように白い光波長の異なる様々な可視光が混ざったものです。

絵の具は違う色を混ぜていくと黒色になりますが、光は混ぜていくと白色になっていきます。

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色を認識する原理

仮に、ある物体に白い光が当たったとします。

その時に、そのまま全ての光が反射されれば人は白色と認識します。

光は、網膜にあるロドプシンというたんぱく質に吸収されて、立体構造を変化させます。

それが信号となって脳に到達して色を認識します。

じゃあ今度、この物体がある特定の波長の光だけ吸収してしまったとしたらどうでしょうか?

吸収されなかった光のみが目に届くことになり、吸収された光に反応するたんぱく質だけ信号を脳に送ってくれなくなります。

その結果、人は白ではない色を認識することになります。

吸収される色と人が認識する色の関係は補色という関係で、赤と緑、青とオレンジ、黄色と紫というような関係です。

例えばトマトは緑の光を吸収しているので赤く見えています。

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吸収波長の決まり方

続いて吸収する光の波長がいかにして決まるのかという話をします。

結論を言うと、
量子のエネルギーが不連続であることが原因
です。

もし量子のエネルギーが連続であれば、好き放題光を吸収できるので、この世の全てのものは真っ黒になります。

僕たちが色鮮やかな世界で生きていられるのは、電子が波であるおかげです。

量子のエネルギーは波としての振動数に比例するという関係より、吸収波長はこのように表せます。

\(h\)はプランク定数、\(c\)が光の速さです。

量子は光からエネルギーを得ることで、高いエネルギー状態に遷移します。

この遷移のことは励起と呼びます。

逆は緩和といいます。

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モデルを使った計算

ではここからモデルを使って、光の吸収を考えていきます。

井戸型ポテンシャル

まず井戸型ポテンシャルにとらわれた電子について考えます。

井戸型ポテンシャルについて、詳しくはこちらの記事で解説しています。

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エネルギーはこの式で与えられます。

これを図で書くとこんな感じになります。

最もエネルギーが低い状態のことは基底状態と呼び、それ以外をエネルギーが低いものから第一励起状態第二励起状態と呼びます。

仮に\(n\)が\(n_1\)から\(n_2\)へ遷移したときに吸収した電磁波の波長を考えると、こんな式で与えられることになります。

最も状態間のエネルギーが低いのは\(n\)が\(1\)から\(2\)に遷移するときですので、そこから最大の吸収波長も計算できます。

ボーアの原子モデル(水素原子)

では続いてのモデルとしてボーアの原子モデルもやってみます。

水素原子の周りを等速円運動する電子のエネルギーはこの式で書けます。

そのため、吸収波長の逆数はこの式で与えられます。

波長の逆数は波数と呼ばれ、エネルギーの単位として扱われることが多いです。

この波線部分には名前が付いていて、リュードベリ定数といいます。その値は\(1.097\times 10^7 \ \rm{m}^{-1}\)です。

緩和について

ここまではずっと、光の吸収、つまり励起の話をしていましたが、エネルギーの放出、つまり緩和の話も少ししておきます。

緩和の際に放出されるエネルギーの形は光とは限らなくて、熱の場合もあります。

太陽の光を温かいと感じるのは、太陽の熱が直接届いているわけではなく、太陽光を吸収した僕たちの体が緩和により発熱するからです。

高校の物理で確か習うと思いますが、上記のリュードベリ方程式においては、遷移に名前が付いてまして、\(n_1\)が\(1\)、つまり高いエネルギー状態から基底状態まで緩和してきたときの遷移系列のことをライマン系列と呼びます。

\(n_1\)が\(2\)の時はバルマー系列、\(n_1\)が\(3\)の時はパッシェン系列といいます。

練習問題

それでは恒例の練習問題と行きましょう!

ニンジンの色素として有名なβ-カロテンという物質があります。

その構造はここにある通り、とても長いπ電子共役系を持っています。

π電子共役系についてはこちらの記事をご覧ください。

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ではこのπ電子共役系を井戸型ポテンシャルに見立てて吸収波長を計算したとき、β-カロテンは何色に見えると予想されますか?というのが今回の問題です。

いわばニンジンの色を計算してくださいという事です。

面白くて自慢の問題なのでぜひやってみてください(笑)

計算に使うパラメータはこの通りです。

π電子の個数は自分で数えてください。

また、理由を言うと長くなるので割愛しますが、井戸型ポテンシャルの各状態には電子が2個ずつまで入れるという事にします。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

パウリの排他原理とスピン量子数について説明しています。

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現実世界での正解は、ニンジンのオレンジ色ですが、計算上の色がこうなるとは限りません。

答え
まず井戸型ポテンシャルの幅はこんな風に計算できて、\(2.55×10^{-9} \mathrm{m}\)となります。

π電子の数を数えると22個になるので、\(n=11\)の状態まで電子が入っていることになります。

したがって、\(n=11\)からの遷移を考えればOKです。

まず最大吸収波長は\(n=11\)から\(12\)への遷移ですが、計算してみると\(932 \mathrm{nm}\)となって、赤外線になります。

そのため、色としては認識できません。

では続いて2番目に長い波長を求めます。

\(n=11\)から\(13\)への吸収波長は\(447\ \rm{nm}\)となりました。

これは青色の光です。

目に見える色は青色の補色という事になるのでオレンジ色という結果になります。

3番目に長い波長については\(286 \mathrm{nm}\)という事になり、これは紫外線なので色として認識できません。

したがって、β-カロテンが主に吸収するのは青い光という事になって、実際に認識される色はオレンジ色という風に計算できました。

β-カロテンのように長いπ電子共役系を持っている分子はこんな風に可視光を吸収することが多いです。

例えば、下に書いたのはベンゼン環が直鎖上につながったアセンという化合物ですが、長くなるにつれて、色が付いていって、黒っぽい色になっていきます。

黒に近いという事は可視光領域に複数の吸収波長があるという事です。

ただし、今回やったように井戸型ポテンシャルの計算でこれらの色を予測しても、正確な色と違う結果が出てきます

井戸型ポテンシャルで予想される色は正確ではなくて、実際はもっと複雑な計算をする必要があることは最後に注意しておきます。

まとめ

はい、今回の内容は以上です。

おさらいをしておくと、まず広い意味での光とは電磁波のことで、そのうち、目に見える波長領域のものだけを可視光と呼びます。

白い光は様々な波長の可視光が混ざってできたもので、目に見える色は物質が吸収した光の補色になります。

吸収される光の波長は、量子の状態間エネルギーで決まります。

最もエネルギーが高い状態は基底状態、それ以外は励起状態と呼ばれ、エネルギーを吸収して高いエネルギー状態に遷移することを励起といいます。

逆にエネルギーを放出して低いエネルギー状態に遷移することは緩和といいます。

緩和では、どの状態に落ちてくるかによってライマン系列、バルマー系列などと名前が付いています。

最後に練習問題では長いπ電子共役系と色の関係をお話ししました。

井戸型ポテンシャルの計算結果はそこまで正確ではないので、誤解だけないようにお願いします。

ここまでお付き合いいただき、どうもありがとうございました!

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