【大学の有機化学】E2反応によってできるアルケンの選択性について丁寧に解説!

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こんにちは!それでは今回も化学のお話やっていきます。

今回のテーマはこちら!

E2反応によってできるアルケンの構造について、考えよう!

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(Saytzev)

それでは内容に入っていきます!

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二分子脱離反応(E2反応)とは

ではまず始めにこのE2反応がどういう反応だったのかおさらいしていきます。

E2反応は二分子脱離反応のことで、脱離基を持つ基質と強塩基との間で進行します。

塩基が脱離基が付いた炭素の隣接炭素についている水素原子をプロトンとして引き抜くと同時に脱離基の脱離が起こることでアルケンが生成します。

このプロトン引き抜きと脱離基の脱離は協奏的に進行し、反応速度が塩基と基質両方の濃度に比例する

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二次反応

になります。

このように立体反発を避けた立体配座からアルケンのsp2混成に変わっていくため、引き抜かれるプロトンと脱離基はアンチの関係になります。

詳しくは別の記事でお話してますので、こちらを参照してください。

【大学の有機化学】脱離反応の機構、特徴、生成物を総まとめ!
求核置換反応と競合する脱離反応の反応機構、生成物などをまとめました!練習問題もついていますので、ぜひやってみてください!
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プロトン引き抜きの位置選択性

はい、それではここからが新しい内容になります。

まずは、E2反応で引き抜けるプロトンが複数箇所にあった場合、どこが引き抜かれやすいのかということを考えます。

例えば、こちらの2-ブロモ-2-メチルブタンでは、末端の水素と3番の炭素上の水素で2パターン考えられ、できるアルケンも違うものになります。

最初に結論から言いますと、このプロトン引き抜きの位置選択性は塩基によって決まります。

例えば、塩基にこちらのエトキシドを使った場合、内部アルケンの方が多く生成します。

以前、アルケンの水素化熱の記事でもお話したとおり、sp3炭素の超共役により多置換アルケンの方が熱力学的に安定でして、この反応はその熱力学的な安定性から予想される結果と同じ傾向を示しています。

詳しくはこちらを参照してください。

【大学の有機化学】アルケンのNMRに見られる特徴と、水素化熱による安定性の評価について、わかりやすく解説!
アルケンのNMRで反遮蔽化が起こる理由と、アルケン置換体の安定性についてまとめました!

こんなふうにE2反応にて、熱力学的により安定な内部アルケンができやすいいう法則はとSaytzev則といいます。

ここで終われば単純でいいんですが、さっきも言った通りこの傾向は塩基に依存します。

仮に塩基を嵩高いtert-ブトキシドを使った場合には、先程とは反対に末端アルケンのほうがたくさんできます。

熱力学的な安定性に反して、E2反応で末端アルケンのほうができやすいという法則はHofmann則といいます。

相反する法則が存在する理由

こんなふうに、Saytzev則とHofmann則は全く逆のことを言っているわけですが、なぜ塩基が変わると真逆の傾向を示すのでしょうか?

一般的に考えたら熱力学的に安定な内部アルケンのほうがいっぱいできるはずなので、やっぱりHofmann則の方が変な感じがします。

熱力学に反するということは反応性を支配する別の要素があるということになり、その答えは生成物ではなく遷移状態にあります。

末端アルケンができるときの遷移状態の方が安定であれば、反応速度が速くなるため、その反応が有利になっていきます。

それぞれのアルケンができる前の遷移状態はこうなりまして、塩基が近づいてくるわけですが、内部アルケンができる方では末端に近づくのではないため、立体的に込み合った部分に入っていかなくてはいけません。

小さな塩基ならほとんど関係ないんですが、嵩高い塩基の場合にはここで不安定化が起こります。

ここで温度と圧力が一定での反応速度定数はアレニウスの式よりこう書けます。

\(\Delta G_\rm{a}\)が活性化ギブズエネルギー、\(k\)が反応速度定数です。

これをエンタルピー項とエントロピー項に分けたうちの、エンタルピーに塩基の嵩高さが関わってきて、より活性化エネルギーの低い方が早くできることになります。

こんな風に反応速度の速い方ができる反応は速度論支配であると言います。

また、この式を見ても分かる通り、温度を上げるほど両者のエンタルピーの違いはあまり効かなくなっていきます。

この場合は反応速度があまり変わらないということなので、塩基が嵩高くても生成物が熱力学的に安定な方が生成するようになります。こういった反応は熱力学支配であるといいます。

エトキシドを使ったAの反応とtert-ブトキシドを使ったBの反応のポテンシャル図はこんな感じで、反応させる温度によりますが、遷移状態と生成物で安定性が逆転するとHofmann則に従う可能性があるという訳です。

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幾何異性体の選択性

はい、位置選択制の話はここまでで、最後はできるアルケンがシス、トランスなど幾何異性体を考えられる場合の選択性について考えます。

まず、こちらの2-ブロモペンタンにエトキシドを反応させたときには2-ペンテンのシスとトランス、そして1-ペンテンができますが、その生成比はここに示すようになり、トランス-2-ペンテンが最も多くできます。

これにはトランス体の方が立体的な反発が少なく、熱力学的に安定であることが反映されています。

ただし、このE2反応において、トランス体を100 %与えるものはほとんどなくて、シス体もそこそこできます。

そのためトランス体を100 %で作りたい場合には、別の反応を使うことがほとんどです。

ただし、三置換以上のアルケンのE体、Z体ができる場合には気質によってできるアルケンが立体特異的になる場合があります。

例えば、こちらの2-ブロモ-3-メチルペンタンからできる3-メチル-2-ペンテンだけについて考えると、(R, R)体と(S, S)体はE体のみ、(R, S)体と(S, R)体はZ体のみを与えます。

これはプロトンの引き抜きと脱離基の脱離がアンチ型の立体配座になってから起こることで見られる現象です。

まとめ

はい、それでは今回の内容は以上ですので、最後おさらいをやって終わります。

今回はE2反応でできるアルケンの選択性についてお話ししました。

プロトンを引き抜ける位置が分子内に複数個所ある場合にはいくつかのアルケン異性体が生成しますが、その選択性にはSaytzev則とHofmann則という相反する法則が存在します。

まず、Saytzev則では熱力学的に安定な内部アルケンが多く生成します。

ただし、塩基が嵩高い場合には末端からプロトンを引き抜きやすくなるため、速度論的に有利な末端アルケンができる反応が進行します。

これがHofmann則で、温度を高くした場合には遷移状態の安定性の違いが反応速度にあまり影響しなくなるため、熱力学的に安定な内部アルケンを生成するようになります。

これは速度論支配に対して、熱力学支配と言います。

そして、シス、トランスといった幾何異性体が存在する場合の選択性についてもお話ししました。

トランス体は立体反発が小さくてシス体よりも安定であり、E2反応においてはその安定性により、シス体よりも多く生成します。

ただし、100%に近い選択性を示す反応はほとんどなくて、シス体もそこそこできます。

そして、三置換以上のアルケンが生成する場合のE、Z異性体では、気質の立体によって特異的に反応が起こる場合があります。

これはプロトンの引き抜きと脱離基の脱離はアンチの立体配座で起こるため、アルケンが生成する前に配座の組み換えが起こることが原因になっています。

今回は以上です。どうもありがとうございました!

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