【大学の有機化学】核磁気共鳴(NMR)分光法の測定原理について、わかりやすく解説! – ばけライフ

【大学の有機化学】核磁気共鳴(NMR)分光法の測定原理について、わかりやすく解説!

こんにちは!

今日も化学の話をやっていこうと思います。

今回のテーマはこちら!

核磁気共鳴(NMR)分光法の原理について考えよう!

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(NMR principle)

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NMR測定の目的

皆さんは、化合物の構造式を見たときに、ナノスケールの化学構造をどのように調べたのか不思議に思ったことはありませんか?

可視光の波長は\(100\sim 1000\ \rm{nm}\)のオーダーなので、光学顕微鏡で直接低分子を見ることは絶対にできないはずです。

今回お話しするNMRは、そんな構造解析に用いられる測定手法です。

研究室で合成される化合物は新物質だったり、文献データがほとんどなかったりすることが多く、その構造を決めるためにはこれからお話しするような方法がとられます。

化合物の同定

組成

まず、構造を特定するために組成を調べます。

その方法は元素分析と呼ばれ、有機化合物、無機化合物など用途に合わせ、いくつか種類がありますが、最も簡単なものが、高校でも習う燃焼法です。

未知の化合物を酸素と共存させた状態で燃焼反応を起こし、発生した水や二酸化炭素の量から炭素原子、水素原子、窒素原子などの組成比を調べます。

官能基

しかし、元素分析だけでは、アルコールとエーテルのように組成式が同じ化合物の構造を特定できないので、次にどんな官能基があるのか調べます。

ここで使われるのが、NMRをはじめとする分光法と質量分析です。

ここで言う分光法とは、照射した電磁波がどのように吸収されるのかの違いによって、分子の構造を解析する技術を指しています。

NMRのほか、赤外線の吸収を見る赤外分光法、紫外領域から可視領域にかけての吸収を見る紫外-可視分光法が代表的なものです。

そして、分光法ではない質量分析法でも官能基の情報を得られる可能性があります。

詳しくは、こちらの記事を参照してください。

【大学の有機化学】質量分析法による化合物同定の原理について、わかりやすく解説!
高校で習った燃焼法は、元素分析手法の1つで、分子を構成する原子の組成を調べることができます。しかし、得られる組成式は、必ずしも分子式と一致するとは限りません。この記事では、多くの場合で分子式まで知ることができる質量分析という化合物同定方法の原理について、まとめています。

核スピン

ここからは、NMRの測定原理について、基本的なことをお話ししていきます。

まずその前に、量子力学の内容を少しおさらいします。

電子にはスピン量子数があって、軌道角運動量とは別のスピン角運動量がありました。

詳しくは、こちらの記事を参照してください。

【大学の物理化学】水素原子の電子軌道をシュレディンガー方程式によって求める過程について、わかりやすく解説!
原子核の周りを電子が回っている、というのは厳密には正しくありません。加速度を受けた点電荷は、制動放射により電磁波を放出し、運動エネルギーを失うからです。この記事では、量子力学から、水素原子中の電子の本当の運動がどのようなものかを考えていきます。

実は、原子核にもスピン角運動量をもつものがあります。

これを核スピンと言います。

核スピンの運動量は質量数、すなわち陽子数と中性子数の和によって変わり、質量数が奇数のときには核スピンが半整数、質量数が偶数のときには核スピンが整数をとることが知られています。

代表的な核種について、その核スピンを示すと、下記のとおりとなります。

\(\rm{D}\)というのが重水素(デューテリウム)、すなわち質量数が\(2\)の水素原子で、\(\rm{T}\)というのが三重水素(トリチウム)、つまり質量数が\(3\)の水素原子という意味です。

核スピンを\(\displaystyle I\)として、その多重度は\(\displaystyle 2I+1\)で与えられますが、通常、これらの状態間でエネルギーに差は生じません。

また、\(^{12}\rm{C}\)や\(^{16}\rm{O}\)は核スピンが\(0\)であり、スピン角運動量も常に\(\displaystyle 0\)となります。

NMRの原理

ここから、NMRの原理をお話しします。

実は、外部から磁場をかけると、そのスピン状態によって、エネルギーに差が生じます。

核スピンが\(\displaystyle \frac{1}{2}\)の場合、外部磁場の方向に対して、順平行な状態が安定で、逆平行の状態は不安定となります。

前者を\(\displaystyle \alpha\)スピン状態、後者を\(\displaystyle \beta\)スピン状態と言います。

そして、この現象をゼーマン効果と言います。

なお、これはスピンが\(0\)ではない原子核に対してのみ起こる現象なので、\(^{12}\rm{C}\)や\(^{16}\rm{O}\)では見られず、これらはNMR不活性となります。

そして、外部磁場をかけながら電磁波を照射すると、このエネルギー差に相当する電磁波の吸収が起こります。

一般的に、NMRで吸収される電磁波はラジオ波の領域にあり、波長が\(1\ \rm{m}\)\(\sim 100\ \rm{km}\)と非常にエネルギーが低いです。

ラジオ波を吸収した原子核は、いったんスピンが逆平行となったのち、再び元のスピン状態に緩和します。

これを繰り返す現象こそが核磁気共鳴、略してNMRと呼ばれるものです。

実は、病院で使われているMRIも、原理はまったく同じです。

実際のNMR測定装置は下記のとおりで、まず、超電導電磁石などの強力な磁石で試料を挟みます。

そして、この高周波発振器でラジオ波を発生させて、その透過光によってコイルで生じる誘導電流を増幅させて解析するというものです。

得られる信号は下記のようなもので、時間経過とともに振動しながら振幅が小さくなっていきます。

この信号のことは自由誘導減衰、略してFID信号と呼びます。

グラフの横軸は時間ですが、フーリエ変換することで、それぞれの振動数やエネルギーに対する強度を知ることができます。

この方法は、短時間かつ高い精度で測定ができることが強みです。

電子による遮蔽化

最後に、なぜNMRによって官能基がわかるのかお話しします。

原子核の周りには通常、孤立電子対、結合電子対といくつもの電子が存在しています。

これらの電子は、絶えず運動している荷電粒子であり、外部磁場を加えると局部磁場を発生させます。

古典的には、ローレンツ力がはたらいて誘導磁場が発生するレンツの法則をイメージしてください。

局部磁場が外部磁場と逆向きに発生すると、原子核が実際に感じる磁場が外部磁場より小さくなるため、ゼーマン分裂のエネルギー差が小さくなります。

こうなると、吸収波長は大きくなります。

原子核の周りの電子密度は、混成軌道の種類や電子求引性・電子供与性など官能基の性質によって変わるので、吸収波長の変化がその原子核周辺の環境を反映することになります。

これにより、近くの官能基の存在がわかるということです。

この効果は、遮蔽化と呼ばれています。

別の原理によって、反対に反遮蔽化が起こることもあるので、知っておいてください。

これは電子密度が下がる、もしくは発生した局部磁場が外部磁場と同じ方向になることによって起こります。

まとめ

今回の内容は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

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