こんにちは!それでは今回も化学のお話やっていきます。
今回のテーマはこちら!
動画はこちら↓
動画で使ったシートはこちら(polymer geometry)
それでは内容に入っていきます!
高分子の長さパラメータ
低分子は溶液中で漂うだけですが、高分子の場合は折り畳まって空間的な広がりを持ち、濃度が高い場合にはそれらが接触し、やがて絡み合いが起こります。
こんな風に、高分子溶液には濃度によって特性が大きく変わるという特徴があります。
これを議論する場合には高分子の広がりを表すパラメータが必要になります。
じゃあ、それをどうやって表現するのかということが今回の趣旨です。
それでは、下図のように線状高分子を粗視化して、説明していきます。
ここで〇がモノマーを表しており、全部で\(n+1\)個あります。
結合長は\(b\)としまして、この結合は全部で\(n\)本ということになります。
ここからは高分子を評価する3つの長さパラメータについてお話ししていきます。
全長
まずは最も理解しやすい、高分子の全長です。
これは結合長×結合の本数で計算できます。
全長が長い方が広がった分子形態をとりやすいというのは確かなのですが、その広がり具合には鎖の剛直性や溶媒との親和性が影響するため、全長だけでは分子の広がりを表現することはできません。
そこで、これから紹介する量を定義します。
両末端間距離
両末端を結んだベクトルを両末端間ベクトル\(\boldsymbol{R}\)、その大きさ\(R\)を両末端間距離と呼びます。
鎖が剛直だった場合はまっすぐ伸びた形の方がエンタルピーが小さい、つまり安定であるため、全長が同じでも\(R\)は長くなります。
屈曲性だった場合は丸まった方がエントロピー的に有利であるため、\(R\)は短くなります。
ただし溶液中でブラウン運動している高分子鎖の両末端間距離にはランダムな要素が含まれているため、個々の値を予想することはできません。
二乗の平均を取るとランダムな要素を取り除けるため、実際に評価する場合は平均二乗両末端間距離を使います。
回転半径
そしてもう1つ考え方があります。
それは高分子の重心\(G\)から各モノマーまでをつないだベクトルを\(\boldsymbol{s}_i\)としてその大きさの平均を回転半径として定義する方法です。
イメージは右下の感じで、とりあえずは高分子を粒子に見立ててその半径だと思ってください。
こちらも両末端間距離同様にランダムな要素を含むので、実際の評価には二乗の平均を使います。
なお、重心の定義より全ての\(\boldsymbol{s}_i\)を足すと\(\boldsymbol{0}\)になります。
なぜすべて両末端間距離で考えずに、回転半径を考えるのかということには理由があります。
まず、両末端間距離は末端が2つのときしか定義することができないため、星型高分子、環状高分子などに対応できません。
そして、実験的には回転半径の方が求めやすいからです。
Lagrangeの定理
それではここから平均二乗両末端間距離と平均二乗回転半径の関係を導くときに用いる、Lagrangeの定理というものを導いてみたいと思います。
まずはこちらの図をご覧ください。
\(i\)番目のモノマーと\(j\)番目のモノマーを結んだベクトルをモノマー間ベクトル\(\boldsymbol{R}_{ij}\)とすると、\(\boldsymbol{R}_{ij}\)は\(\boldsymbol{s}_j-\boldsymbol{s}_i\)で表すことができます。
\(\boldsymbol{R}_{ij}\)同士の内積も\(\boldsymbol{s}_i\)と\(\boldsymbol{s}_j\)で表すことができます。
両辺に対して\(i\)と\(j\)の二重和を考えると、以下のようになります。
重心の定義、二乗の平均という定義より変形しています。
右辺の\(\rm{\Sigma}\)の部分は、\(n+1\)を\(n+1\)回足すという意味なので\((n+1)^2\)になりまして、↓の関係式が導かれます。
この式のことをLagrangeの定理と呼びます。
この式が意味することとはつまり、重心の位置がどこかわからなかったとしてもモノマー間ベクトルから平均二乗回転半径を求めることができるということです。
これで分岐高分子、環状高分子にも広く対応できるというわけです。
自由連結鎖
それでは最後、単純な高分子モデルに対して実際に式の変形を行い、平均二乗両末端間距離と平均二乗回転半径の関係を導いてみましょう。
今回使う高分子モデルは自由連結鎖と呼ばれるものです。
これは結合長が\(b\)という一定の値で、結合角は全ての値を等確率で、つまり完全にランダムな値をとるとしたものです。
普通、\(\rm{sp}\)\(^3\)炭素であれば約\(109.5^\circ\)をとりやすいこともあって、結合角がランダムになるとは考えにくいのですが、ここでは考慮しないことにします。
その時\(\boldsymbol{r}_i\)と\(\boldsymbol{r}_j\)の内積は\(b^2 \times \delta_{ij}\)になります。
ここで、\(\delta_{ij}\)はクロネッカーのデルタです。
すなわち、\(i\)と\(j\)が同じときに\(b^2\)、異なるときには相関が全くないので平均をとると\(0\)になります。
平均二乗両末端間距離を求めると、下のようになり、\(nb^2\)と出てきます。
ここで、モノマー間ベクトルをモノマー数が\(|j-i|\)の短い自由連結鎖の平均二乗両末端間ベクトルとしてみると\(R_{ij}^2=|j-i|b^2\)で書けます。
したがって、Lagrangeの定理より平均二乗回転半径も求めることができます。
今は高分子を考えているので、\(n\)がとても大きいという近似を入れると、結局\(\frac{1}{6}nb^2\)と出てきます。
\(nb^2\)は平均二乗両末端間距離だったので、こちらの関係となります。
これが自由連結鎖における、両末端間距離と回転半径の関係になります。
ただし、これは必要十分条件ではなく、逆の命題には反例があります。
つまり、平均二乗回転半径が平均二乗両末端間距離の\(1/6\)倍でも、必ずしも自由連結鎖であるとは言えません。
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
まとめ
はい、それでは最後軽くおさらいをやって終わります。
今回は高分子の分子の大きさをどのように考えるのかということをお話ししました。
エントロピーを大きくするために屈曲性高分子や半屈曲性高分子は、溶液中で丸まった構造を取ろうとします。
それで、高分子鎖の全長だけではその分子の広がりを表せないため、両末端間距離や回転半径を考える必要があります。
中でも回転半径の方が、Laglangeの定理より重心の位置を求める必要がなく、線状高分子以外にも定義できて、さらに測定もしやすいということで、扱いやすいです。
そして、自由連結鎖は結合長が一定、結合角が全ての値を等確率、つまり完全にランダムな値を取るとして、\(109.5^\circ\)などの安定な結合角や立体反発は考えない高分子のモデルになっています。
平均二乗両末端間距離は重合度×結合長の2乗になり、重合度が十分に大きい場合には、平均二乗回転半径は平均二乗両末端間距離の\(1/6\)倍になります。
今回は以上です。
どうもありがとうございました!