こんにちは!
それでは今回も化学のお話やっていきます。
今回のテーマはこちら!
動画はこちら↓
動画で使ったシートはこちら(Williamson ether)
それでは早速参りましょう!
Williamsonエーテル合成法の一般式
ハロアルカンにアルコキシドがSN2機構で求核置換してエーテルが生成します。
溶媒
溶媒にはアルコールを使う事ができるため、アルコキシドの生成からスムーズに反応を起こせます。
ただし、ジメチルスルホキシド(DMSO)やヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)などの非プロトン性極性溶媒を使った方が反応が速く進行する場合が多いです。
この反応なら1-ブタノール溶媒で14時間かかるのに対し、DMSOなら9.5時間で反応が完了します。
基質
基質に関して言うと、アルコキシドが強塩基であるため、立体障害のない第一級アルキル化剤以外だと結構な割合でE2反応が起こります。
分子内Williamson合成法
この反応ではハロアルコールから環状エーテルが生成します。
例えば2-ブロモエタノールに加えると、まずヒドロキシ基の水素がプロトンとして引き抜かれます。
そして、求核的になった酸素原子がブロモと結合した炭素原子に攻撃することで臭化物イオンの脱離とともに環状エーテルが生成します。
分子間反応との競合
ここで1つ疑問なのが、加えた塩基が求核攻撃することはないのかという事です。
答えを言うと、この反応は起こり得ますが、環状エーテルができる方が有利です。
この分子間反応によってジオールが生成する場合と分子内反応によって環状エーテルができる場合の反応を見比べてみると、生成物に水があるかどうかの違いがあります。
エントロピー的に考えれば、分子数が増加する反応のほうが起こりやすいことになるので、分子内反応が優勢になります。
速度論的に考えても、結合で繋がれている分だけ、求核剤とターゲットが常に近い状態にあるほうが遷移状態の構造との違いが少なくて、活性化エネルギーも低いと考えられるので、分子内反応のほうが有利であると考えられます。
以上より、熱力学的、速度論的、どちらの視点においても分子内反応のほうが有利であるということになります。
ちなみに、高希釈条件だと塩基が近づきにくくなるので、ジオールの副生成物を減らすことができます。
環の大きさと反応速度の関係
実は実験事実から反応速度定数の順番はこのようになることが分かっています。
ここでnが環を構成する原子数で、knがn員環ができる際の反応速度定数を表しています。
三員環の生成が最も速く、続いて五員環、六員環、四員環と複雑な順番になっています。
これにはエンタルピーの寄与とエントロピーの寄与があると考えられています。
まず、エンタルピー的には遷移状態が安定なほど速くできるという事になるので、大きなひずみエネルギーを蓄えているオキサシクロプロパンが最もできにくいという事になります。
しかし、実際には三員環が最も速く生成するので、エンタルピーではこれを説明できません。
では今度エントロピーで考えてみます。
ハロアルコールが長いほど、求核的な酸素と求電子的な炭素との距離が長いことになるので、遷移状態に持ってくるときの原子の組み換えが大変になってきます。
短い方がとりうる原子の配置が少ないので、ボルツマンの式より、遷移状態に至ったときのエントロピー損失は小さくなります。
三員環が最も速くできるのは、このエントロピーの寄与が大きいためだと考えることができます。
ボルツマンの式については、こちらを参照してください。
ただ、遷移状態に行くまでのエントロピー損失だけでは、三員環の反応速度の説明として不十分ということで、特にオキサシクロプロパンの生成にのみ顕著に表れる第二のエントロピー効果があると言われています。
2-ブロモエトキシドの構造を見てみると、電子richな酸素原子と電子poorな炭素原子が非常に近い位置にあります。
このときには、互いが近づくことで少しだけエネルギーの安定化が起こるため、最安定状態、すなわち基底状態において、ある程度遷移状態のような構造を持っていると考えられています。
これにより活性化エネルギーがさらに小さくなるので、オキサシクロプロパンの生成は速いということになります。
この効果は近接効果と呼ばれていて、四員環以上ではほとんど見られません。
練習問題
それでは、恒例の練習問題です。
この反応で生成するものを考えてくださいという問題です。
ただし、ここで気を付けたいのが立体構造です。
求核攻撃はSN2機構で進行するので立体特異的な反応になります。
したがって、この場合の生成物はSN2の背面攻撃を考えると上のようになり、光学活性なオキサシクロプロパンが生成します。
まとめ
はい、今回の内容は以上なので、最後におさらいをやります。
ハロアルカンにアルコキシドがSN2機構で求核置換してエーテルをつくる方法をWilliamsonエーテル合成法と呼びます。
溶媒にはアルコールやDMSOなどの極性溶媒が使われます。
アルコキシドが強塩基なので、基質のハロアルカンの立体障害が大きい場合には、E2反応が起こってしまうことに注意してください。
williamson合成は分子内でも簡単に起こすことができ、この場合はハロアルコールから環状エーテルが生成します。
その際プロトンを引き抜くために強塩基を加えるのですが、分子間反応よりも分子内反応のほうが有利に進行します。
これは分子数が増えることによるエントロピーの増大や、活性化エネルギーの低さで説明することができます。
環状エーテルの大きさと生成速度には面白い関係があって、熱力学的に最も不安定なはずの三員環が最も速く生成します。
これはエントロピーで説明されており、O–と求電子的な炭素の距離が短いことで、そもそもとれる状態数が少ないので、遷移状態となったときのエントロピー損失が小さいからと考えられます。
ただ、それだけではオキサシクロプロパンの反応速度を説明するのに不十分であり、近接効果を考える必要があるといわれています。
これは電子密度の大きいところと小さいところが近くに共存していることで、そもそもの最安定状態が遷移状態と似た構造になってしまうという効果です。
こうなれば活性化エネルギーがとても小さいことになるので、反応速度を説明することができます。
最後の練習問題ではSN2反応であるがゆえの立体特異性についてお話ししました。
今回は以上です。
どうもありがとうございました!