【大学の高分子科学】高分子の酔歩鎖モデルとガウス鎖、特性比についてわかりやすく解説! – ばけライフ

【大学の高分子科学】高分子の酔歩鎖モデルとガウス鎖、特性比についてわかりやすく解説!

こんにちは!

それでは今回も化学のお話やっていきます。

今回のテーマはこちら!

高分子の広がりにランダム性を考えるとどうなるのか、まとめてみよう!

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(Gauss chain)

それでは内容に入っていきます!

[PR]

酔歩鎖

まず、酔歩鎖という高分子モデルを紹介します。

酔歩というのは、英語でrandom walkと言って、酔っ払いの千鳥足のようにふらふら適当に動いていくさまを指しています。

あらかじめ100回動くなど決めておけば、そのふらふら動いた軌跡を高分子の鎖として考えることができます。

例えば、二次元酔歩鎖の場合、ある格子点から上下左右に等確率で動くことを考えます。

異なる2枚のコインを同時に投げて、その表裏の組み合わせで点が動くものとして、ここでは仮に10回コインを投げます。

その始点と終点を結んだベクトルが両末端間ベクトル\(\boldsymbol{R}\)となります。

このコインを投げる一連の操作はやるたびに異なる結果が得られるため、両末端間距離を厳密に予測することはできません。

しかし、試行回数が多いほど両末端間距離は長くなるという予測は立てられます。

酔歩鎖を無限回発生させて、\(R\)がどの範囲に収まるのか棒グラフを作るとすると、どの値をとりやすいという傾向が見えてきます。

棒グラフの横軸の刻み幅を無限に小さくしていくと、その分布はある連続関数になります。

例えば、自由連結鎖を仮定して\(R\)の分布を出すと、このような形になります。

ここで、\(n\)は結合の本数、ここではコインを投げる試行回数で、\(b\)が結合長、ここでは隣り合う格子点間の距離です。

\(2\pi R\)は二次元の全方向を考慮した部分であり、方向を考慮しない場合は単純なガウス関数となります。

このガウス関数は、実験の誤差を議論する際にも必須の概念です。

詳しくは、こちらの記事を参照してください。

【大学の物理化学】ボルツマン分布の導出過程をわかりやすく解説!(スターリングの近似式、ラグランジュの未定係数法、正規分布、カノニカル分布も)
個々の分子がもつエネルギーは一様ではなく、分布があります。この記事ではその代表として、ボルツマン分布を統計力学の観点から導出しています。

そして、\(R\)の分布が正規分布に従う高分子鎖のことを、ガウス鎖と呼びます。

この分布関数は、三次元でも同様に導くことができます。

横軸を\(R\)としてこの分布関数を書くと、方向を考えない場合には\(R=0\)となる確率が最も高いですが、方向を考えた場合には原点を通る山なりのカーブになります。

ある方向について\(R\)は小さくなりやすくても、全方向で全部\(R\)が小さくなるかと言えば、そういうわけではありません。

平均二乗両末端間距離を計算

では、この分布関数から平均二乗両末端間距離を求めてみましょう。

分布関数に求めたい\(R^2\)をかけて期待値を出します。

途中ガウス積分が出てきますが、これを解くと\(R^2\)の平均は\(nb^2\)となり、自由連結鎖の答えとまったく同じになります。

自由回転鎖では全方向に等確率、三次元酔歩鎖では前後左右上下の6方向に等確率という違いがありますが、\(n\)を大きくしていけば結果は同じということです。

それでは自由回転鎖と束縛回転鎖ではどうなるでしょうか?

これらについては別の記事で一度紹介していますが、おさらいしておくと、自由回転鎖は結合角が一定で内部回転角がランダム、束縛回転鎖は結合角が一定で、内部回転角の存在確率があるポテンシャルに従うとしたものです。

詳しくはこちらを参照してください。

【大学の高分子科学】高分子モデルの自由回転鎖、束縛回転鎖について、わかりやすく解説!
高分子の自由連結鎖モデルは計算がとても簡単ですが、安定な結合角、内部回転角を考慮しないため、実在の高分子を表現できないことが多々あります。この記事ではより現実に近いモデルとして提案された自由回転鎖と束縛回転鎖という2つの高分子モデルについて解説しています。ぜひご覧ください!

この場合は、見かけ上の結合長を変えることで自由連結鎖と同じようにガウス関数で両末端間距離の分布を記述できます。

つまり、自由回転鎖と束縛回転鎖もガウス鎖モデルの1つであるということです。

ここで見かけ上の結合長にするための定数として\(C_\infty\)というものを使いましたが、この定数は特性比と呼ばれます。

自由連結鎖、あるいは酔歩鎖で予想される平均二乗両末端間距離からどれくらい広がっているのかを示します。

定義は、下記のとおりです。

自由回転鎖や束縛回転鎖ではこの特性比が\(1\)にならないということなので、ここに結合角や内部回転ポテンシャルの影響が反映されるということになります。

ペンタン効果

そして、特性比には隣接する2つの内部回転角に起因するペンタン効果というものが反映されます。

束縛回転鎖では個別の内部回転角しか考えていないので、ここからさらに分子の広がりを考えなければいけません。

ポリエチレンを例にお話しすると、下図のように2つの内部回転角\((\phi_2, \phi_3)\)が\((60^\circ, -60^\circ)\)もしくは\((-60^\circ, 60^\circ)\)のときに、4つ隣の炭素に結合した水素原子が自身に結合した水素原子とぶつかります。

この反発を避けるように分子が広がりをもつ効果のことをペンタン効果と言います。

実際にn-ブタンの内部回転ポテンシャルからポリエチレンの特性比を考えると\(3.7\)になるのですが、実際のポリエチレンは約\(7\)になります。

この差は、ペンタン効果のように複数の内部回転角の組み合わせをとりにくい効果によるものです。

代表的な特性比の値

最後に、代表的な高分子について特性比を見て終わります。

まず、ポリエチレンからポリスチレンになると側鎖が大きくなるわけですが、そうなるとペンタン効果のような反発が起こりやすくなり、特性比は大きくなります。

そして、ポリエチレングリコール(PEG)やポリエチレンオキシド(PEO)は、酸素原子上に側鎖がないため、ポリエチレンより小さな構造をとりやすいと予想され、実際に特性比は少し小さくなっています。

ポリブタジエンでは、よく弾むトランス-1,4-付加体の方が大きな広がりをもちます。

まとめ

今回の内容は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

タイトルとURLをコピーしました