こんにちは!
それでは今日も化学のお話やっていきます。
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解糖系と糖新生の協調的調節(前編)
それでは、内容に入っていきます!
糖新生とは
まずは、糖新生とはどういうものかについて説明します。
糖新生とは、解糖系の逆の反応で、ピルビン酸からグルコースを合成する反応です。
解糖系の10段階の反応のうち、7つの反応は可逆的なものなので、糖新生でもまったく同じ酵素によって逆反応を進められます。
一方、解糖系における反応1、3、10については不可逆的な反応なので、糖新生では異なる反応が用意されています。
解糖系については、こちらの記事で詳しく解説しています↓
では、実際にこの3つの反応を見ていきましょう。
反応1,3の逆反応
解糖系の反応1は、糖新生ではヘキソキナーゼではなくグルコース-6-ホスファターゼによって触媒されます。
また反応3は、糖新生ではホスホフルクトキナーゼ-1ではなく、フルクトース1,6ビスホスファターゼ-1によって触媒されます。
このように、反応1と3では生成物と出発物は同じ物質ですが、触媒する酵素が異なることがわかります。
反応10の逆反応
反応10は解糖系と糖新生で大きく異なります。
解糖系ではホスホエノールピルビン酸(PEP)が一段階の反応でピルビン酸に変換されますが、糖新生では一度オキサロ酢酸を経由してからPEPに変換されます。
これらの3つの反応を酵素が調節することによって、体内では解糖系と糖新生のどちらがより促進されるか調節されることになっています。
酵素についての基礎知識
ここで、酵素についての重要な用語を押さえておきましょう。
アイソザイム
「アイソザイム」とは、同じ反応を触媒する異なるタンパク質のことを指します。
例えば、先ほどの反応1で出てきたヘキソキナーゼについて、ヘキソキナーゼⅠ,ヘキソキナーゼⅡ、ヘキソキナーゼⅢ、ヘキソキナーゼⅣはお互いにアイソザイムです。
それぞれのアイソザイムは異なる臓器や組織に分布していたりする場合が多いですが、少しの性質の違いがそれらの臓器や組織の役割に大きく貢献しています。
アロステリック部位
次に、「アロステリック部位」という言葉について説明します。
アロステリック部位とは、酵素の中で基質とは結合しないが、分子やタンパク質が結合して酵素のはたらきが調節を受けるような部位のことです。
また、「アロステリックに調節される」とは、酵素の基質とはならないような分子やタンパク質が酵素のアロステリック部位に結合してはたらきを調節することを言います。
これらの単語は、代謝において頻繁に登場するので、ぜひ押さえておきましょう。
酵素によるグルコースの代謝制御
グルコースの代謝の制御に関わる酵素はいくつかありますが、まずはヘキソキナーゼが果たす役割について解説していきます。
先ほども出てきたように、ヘキソキナーゼは解糖系の反応1を触媒する酵素で、いくつかのアイソザイムが存在してその違いが非常に重要になってきます。
筋細胞中のヘキソキナーゼ
一つ目に、筋細胞中でのヘキソキナーゼについてみていきましょう。
筋細胞中ではヘキソキナーゼⅠからⅢまでが主に存在し、これらの酵素の特徴として、反応1の生成物であるグルコース-6-リン酸によってアロステリックに阻害されるものがあります。
また、グルコースに対する親和性が高く、常に最大に近い反応速度ではたらくことも特徴です。
肝細胞中のヘキソキナーゼ
次に、肝細胞でのヘキソキナーゼについても見ていきましょう。
肝臓ではヘキソキナーゼⅣが主に存在しています。
この酵素は、グルコース-6-リン酸によって直接は阻害されませんが、ヘキソキナーゼⅣを核内に移動させてはたらかなくさせる調節タンパク質によって間接的に阻害されます。
また、この酵素はヘキソキナーゼⅠからⅢまでと異なり、グルコース濃度の変化に応じて活性が大きく変化します。
これを比較したものをグラフに表すと、下のようになります。
筋細胞では多くのグルコースを消費してATPを生成しますが、肝細胞は血中のグルコース濃度を一定に保つのが役割です。
この役割の差には、この酵素が大きく関わっていることになります。
練習問題
それでは、ここで練習問題です。
上のグラフから、2種類のヘキソキナーゼがそれぞれの臓器の果たす役割にどのようにして貢献しているのか考えてみましょう。
一方、肝臓に存在するヘキソキナーゼⅣでは、通常の血中グルコース濃度の変化の範囲内で酵素の反応速度が大きく変わります。
グルコース濃度が低いときは解糖を進みにくくしてグルコース濃度を保ち、濃度が高いときには解糖を進めてグルコース濃度を下げて、グルコースの濃度を一定に保とうとします。
このように、ヘキソキナーゼの酵素活性が調節されることで各細胞はそれぞれの役割を果たすことができるようになっています。
調節タンパク質
では最後に、ヘキソキナーゼⅣを核内に移行させて不活性化させる調節タンパク質の役割について、見ていきましょう。
調節タンパク質がヘキソキナーゼⅣに結合すると、ヘキソキナーゼⅣは核内に移行して不活性化されます。
上図のように、調節タンパク質は、解糖系の出発物であるグルコースによって不活性化されて、ヘキソキナーゼが活性化します。
また、解糖系の途中生成物であるフルクトース-6-リン酸によって活性化されて、ヘキソキナーゼが不活性化されます。
つまり、過度に解糖系が進んだときには調節タンパクが活性化されることでブレーキとしてはたらき、グルコースが余っているときには解糖系を進めようとする作用があることがわかります。
また、筋細胞中のヘキソキナーゼⅠも、反応1の生成物であるグルコース-6-リン酸によって、阻害されると先ほど説明しました。
このように、ヒトの細胞では、解糖系が進みすぎるとブレーキが掛けられるようなしくみになっています。
PFK-1とFBPアーゼ-1による調節
次に、PFK-1とFBPアーゼ-1による相反的な調節について解説していきます。
この酵素はどちらも解糖系の反応3を触媒する酵素で、解糖系ではPFK-1、糖新生ではFBPアーゼ-1がはたらきます。
PFK-1の性質として、解糖系の最終生成物であるATPによってPFK-1はアロステリックに阻害されます。
また、ピルビン酸が変換されて生成するクエン酸もPFK-1をアロステリックに阻害します。
つまり、ATPが充分なときには、解糖系の進行が抑制されることになります。
また、AMPやADPはPFK-1をアロステリックに活性化します。
つまりAMPやADP濃度が高いとき、ATPが不足しているときには解糖系の進行が促進されて、よりATPが多く生成されて通常の状態に戻そうとしています。
(PFK-1の構造)
逆に、FBPアーゼ-1はAMPによってアロステリックに阻害されます。
つまり、ATPが不足しているときには糖新生が抑制され、ATPが蓄えられる方向にはたらきます。
フルクトース2,6-ビスリン酸(F26BP)
F26BPは、PFK-1とFBPアーゼ-1をアロステリックに調節する分子です。
この分子は、PFK-1を阻害するATPやクエン酸がPFK-1に結合しにくくさせることで、PFK-1が阻害されにくくさせます。
つまり、F26BPはPFK-1を活性化し解糖系を促進させます。
さらに、F26BPはFBPアーゼ-1を阻害することで、糖新生を抑制します。
F26BP濃度の調節
(出典:https://pdbj.org/help/faq_usage02?lang=ja)
F26BPの濃度は、さらにほかの酵素によって調節されています。
F26BPは、解糖系の中間生成物であるフルクトース-6リン酸がホスホフルクトキナーゼ-2(PFK-2)によってリン酸化されることで生成します。
逆に、F26BPはFBPアーゼ-2によって加水分解され、フルクトース6-リン酸に戻ります。
この酵素のはたらきをまとめると、下図のようになります。
ホルモンによる調節
(出典:https://pdbj.org/help/faq_usage02?lang=ja)
PFK-2とFBPアーゼ-2は、ホルモンによって活性が調節されています。
この2つの酵素は特殊な構造となっていて、1つのタンパク質が2つの酵素活性をもつ二機能タンパク質となっています。
片方が活性化状態となっているときには、もう一方が不活性化されるように設計されています。
ここでは、血中グルコース濃度の調節に関わる2つの代表的なグルカゴンとインスリンという2つのホルモンについて紹介します。
グルカゴンは、血中グルコース濃度が低いときに分泌されるホルモンです。
この酵素はまずFBPアーゼ-2部位を活性化し、F26BPの濃度を減少させます。
その結果、FBPアーゼ-1が活性化し、糖新生が促進され、血中グルコース濃度は上昇します。
一方、インスリンは血中グルコース濃度が高い時に分泌される酵素です。
このホルモンはまずPFK-2部位を活性化してF26BPの濃度を上昇させます。
その結果、PFK-1が活性化し、解糖系が促進され、血中グルコース濃度は減少します。
このように、ホルモンはさまざまな酵素を経由して、体内の恒常性を保っています。
ピルビン酸キナーゼによる調節
ピルビン酸キナーゼは解糖系の反応10を触媒する酵素で、ホスホエノールピルビン酸がピルビン酸に変換されるのを触媒する酵素です。
肝臓のみにおいては、この酵素はグルカゴンによって不活性化されるという調節を受けます。
肝臓を含むすべての組織において、この酵素はさまざまな分子によってアロステリックに調節されます。
解糖系やその先の反応での生成物であるアセチルCoAやATPによって、この酵素は阻害されます。
それに対して、これらの分子はこの反応の逆反応を触媒するピルビン酸カルボキシラーゼを活性化します。
また、解糖系の中間生成物であるフルクトース1,6-ビスリン酸は、ピルビン酸キナーゼを活性化します。
この酵素の調節においても、解糖系と糖新生のどちらか一方が進みすぎないようにうまく調節されています。
まとめ
それでは、今回の内容は以上です。
次回の記事では、解糖系ががんの診断にどのように応用されているか、詳しくみていきます!
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