こんにちは!
それでは今回も化学のお話やっていきます。
今回のテーマはこちら!
動画はこちら↓
動画で使ったシートはこちら(tacticity)
それでは内容に入っていきます。
高分子に含まれる不斉炭素
まず始めにこちらのビニル化合物の重合反応をご覧ください。
このような付加重合では、付加が起こるたびに4つの官能基がすべて異なる不斉炭素ができます(厳密には光学活性にはならないため、擬不斉炭素)。
これらの不斉炭素の並び方が変わると、光学異性体ではない立体異性体、いわゆるジアステレオマーになるということですから、物性が変わってきます。
そのため、高分子の物性を理解するためにはこれら立体化学的な視点が不可欠になるわけです。
それでは、こんなにたくさんある不斉炭素をどのように評価すればよいのでしょうか?
その答えは、隣り合う複数の不斉炭素の立体的関係を見るというものです。
どういうことかというと、例えば隣り合う2つの不斉炭素のパターンは次の2パターンがあります。
一方は隣り合う不斉炭素の立体が同じ向き、もう一方は異なる向きになっています。
前者のことをmeso(メソ)、後者のことをracemo(ラセモ)と呼び、それぞれmとrで表します。
これらは鏡写しの関係ではないため、物性の違いを生じさせます。
これは単なる言葉の説明ですが、mesoとracemoは連続した2つの不斉炭素の立体的関係を示すものだということで2連子と呼ばれます。
立体規則性
それではここから2連子を使ってどのように立体を議論するのかという話に移ります。
↓のように不斉炭素が6つ連なった構造を例にお話ししていきます。
不斉炭素の立体的関係を2連子で表したものが下にあります。
高分子の立体規則性を議論する際にはこれら連子の割合を使います。
この例であればmesoとracemoが2:3となります。
この割合のことはtacticity(タクティシティ)と言います。
3連子の種類とその呼び方
そして、高分子の立体を議論する際には2連子だけでなく3連子もよく使われます。
つまりは3つ連なった不斉炭素の立体的関係です。
先ほどと同じ分子を例にしますと、3連子はこのように2連子を2つ組み合わせることで表せるということになります。
それぞれの3連子には名前がついていて、mmはイソタクチック(アイソタクチック)、rrはシンジオタクチック、mrはヘテロタクチックと呼びます。
4連子以上について
2連子、3連子とくれば、当然4連子や5連子もあります。
4連子をmとrで表すと、こちらの6種類を考えることができます。
5連子はこの10種類です。
ただし、3連子までとは違って、これらには個々の名前がついていません。
これらを使うことは多くなく、重要度は低いです。
3連子までをしっかり理解しましょう。
立体規則性による分類方法
さあ、ここからは立体規則性による高分子の分類方法についてお話しします。
話は逸れますが、高分子のほかの分類方法も過去にまとめておりますので、ぜひ見てくださいね。
ここではビニル重合体を例にお話ししていきます。
mmm・・・という風にmesoがずっと連続する高分子のことはイソタクチックポリマー(アイソタクチックポリマー)といいます。
対してrrr・・・とracemoが連続する高分子はシンジオタクチックポリマーと呼びます。
そして、mとrが完全にランダムな配列をしている高分子はアタクチックポリマーと呼びます。
そして、これがイソプレン重合体になるともっと複雑になります。
重合形式が1,2-付加、3,4-付加、トランス-1,4-付加、シス-1,4-付加という風に4つ存在しています。
1,2-付加、3,4-付加については不斉炭素が連なっている構造であるため、ビニル重合体同様にイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックが存在します。
そして、トランス-1,4-付加ポリイソプレンは別名グッタペルカとも呼ばれていて弾みが少ない材料として主にはゴルフボールのカバーに使われています。
シス-1,4-付加ポリイソプレンはその立体障害によりよじれた状態で存在しているため、弾性を示します。
加硫することにより優れた弾性をもつ合成ゴムになり、タイヤや生活用品、スポーツ用品として使われています。
ちなみにポリブタジエンの場合は、1,2-付加、トランス-1,4-付加、シス-1,4-付加という3種類の重合形式になります。
立体規則性によって生まれる物性
それでは最後、今までお話ししてきた立体規則性によってどのような物性の違いが生まれるのかという話をしていきます。
¹H-NMR
まず挙げられるのが¹H-NMRスペクトルにおける違いです。
mesoとracemoの構造をもう一度見てみると、主鎖のメチレン水素2つがmesoでは化学的に非等価、racemoでは等価になっています。
化学的な等価性についてはこちらの記事で解説しています。
この違いを¹H-NMRで読み取ることにより、mesoとracemoの割合、すなわち2連子タクティシティーを求めることができます。
結晶性
高分子の立体の違いは結晶性に大きな違いを生じさせます。
結晶というのはそもそも分子が規則正しく並んだ相のことを言いますが、高分子では長い鎖が完全に並ぶことはとても難しいため、結晶部分と非晶部分(ガラス)が混ざったものにならざるを得ません。
そのためこれを高分子結晶と呼びます。
さらに側鎖が邪魔になってきれいに整列することができない場合、例えば枝分かれ構造や架橋ネットワークなどでは結晶にならない、すなわち融点を持たない場合もあります。
その例としてポリプロピレンではイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックで融点にこのような違いが生じます。
ここでi、s、aはそれぞれの立体規則性を指す頭文字です。
イソタクチックポリプロピレンの融点は約160 ℃、シンジオタクチックポリプロピレンは約140 ℃になります。
そしてアタクチックポリプロピレンには融点がありません。
高分子は気体にならないので、じゃあ融点を持たない場合はずっと液体かと思うかもしれませんが、ガラス状態はあります。
実際に電子レンジでの加熱が可能なタッパーには結晶化しないポリプロピレンのガラスが使われていることが多いです。
なぜ結晶になっていないことが分かるかというと、透明性が高いからです。
結晶であれば異方性があって、光の干渉、全反射が起こります。
透明であるということは等方的であるということなので、それが結晶ではないことが分かります。
余談(耐熱性ペットボトル)
ちなみに熱いお茶などを入れる耐熱性ペットボトルは少し結晶化しています。
一般的に融点はガラス転移温度よりも高いので、熱い飲み物を入れてガラスが融液状態になったとしても、まだ結晶が残っているのでボトルの形を保つことができます。
冷たいものを入れるペットボトルに比べて白く濁っているので、ぜひ確認してみてください。
製造の工程では飲み口が最も結晶化するようになっているので、飲み口は真っ白になります。
らせん構造
最後に紹介する立体規則性による物性はらせん構造です。
当たり前と言えば当たり前ですが、きれいにらせんを巻くためにランダムな立体構造は適していません。
たんぱく質のα-ヘリックス構造
その例として挙げられるのはまず、たんぱく質のα-ヘリックス構造です。
構成単位のα-アミノ酸には不斉炭素があり、生体内のほとんどはL体です。
それらが酵素によって連鎖的に縮合していったものには完全な立体規則性があり、これによりきれいならせんを巻くようになります。
このらせんはペプチド結合の窒素原子上の水素とカルボニル酸素の間で水素結合ができることで安定なものになります。
側鎖はこのらせんの外側に配置されます。
溶液中のシンジオタクチックポリメタクリル酸メチル
そしてらせんの2つ目の例は溶液中のシンジオタクチックメタクリル酸メチル(sPMMA)です。
PMMAのように嵩高い側鎖を持つ高分子では、例え溶液中で溶媒の分子が頻繁に当たってくる中でも、その立体反発を避けるためにらせんに近い構造を取ろうとするものがあります。
とは言ってもα-ヘリックスのように大きな安定化が起こるわけではないので、完全ならせん構造というよりは、くるんと巻いてるくらいのイメージです。
なお、らせん構造には右向きと左向きがあり、両者は鏡写しの関係なので、らせん状態では光学活性となります。
まとめ
それでは今回の内容は以上ですので、最後軽くおさらいをやって終わります。
今回は高分子の立体規則性についてお話ししました。
高分子には不斉炭素がたくさん含まれることも珍しくなく、たくさんのジアステレオマーが存在します。
これらは物性が異なるため、高分子の物性を理解するためにはこの立体規則性の理解が不可欠となります。
通常、高分子の立体を議論するためには、連子と呼ばれる、連続したいくつかの不斉炭素の立体的関係を使います。
その連子の割合はタクティシティーと呼ばれ、立体規則性を評価する指標になります。
2連子はmesoとracemoの2種類、3連子はイソタクチック、シンジオタクチック、ヘテロタクチックの3種類です。
4連子以上もありますが、個々の名前はありません。
そして、mmm・・・とmesoがずっと連続する高分子はイソタクチックポリマー、rrr・・・とracemoがずっと連続する高分子はシンジオタクチックポリマー、このような立体規則性がなくランダムなものはアタクチックポリマーと呼びます。
この立体規則性の違いは、¹H-NMR、結晶性、らせん構造などの物性に影響を及ぼします。
それではどうもありがとうございました!