こんにちは!
今回も化学のお話やっていきます。
今回のテーマはこちら!
それでは参りましょう!
高分子は存在しない!?
今でこそ、高分子の存在は当たり前のように思われていますが、高分子の存在が認められたのは、直近100年くらいと、ごく最近のことです。
とは言っても19世紀末にはすでに、人工絹糸やゴム加工などの技術が発展していたので、生活の中に高分子は取り入れられていました。
しかし、誰もそれが巨大な分子であるということを知らなかったのです。
高分子の存在が考えられなかった理由
当時の化学者たちも、そんな巨大な分子は存在するはずがないと考えていました。
その根拠として挙げられるのがエントロピーです。
ボルツマンの式により、とりうる状態数が多いほどエントロピーは大きくなります。
共有結合がたくさんできてしまうと、それだけ原子の並進運動が制限されるので、エントロピーは減少します。
エントロピーが高いほど熱力学的に有利になることを考えると、こんなにも巨大な分子が自然にできるとは考えられませんでした。
エントロピー増大則については、こちらを参照してください。
巨大会合体説
とは言っても、スチレンを光に当てると固体ができるなどの現象が当時から知られていたため、これらは低分子同士が共有結合ではない、ある二次的な作用によって会合体を作っているのだろうと考えられました。
例えばイソプレンゴムの場合、イソプレンの2量体が他の2量体との間で\(\displaystyle \rm{p}\)\(\)軌道の重なりを作って、安定化すると考えられていました。
こういった作用は副原子価と呼びます。
また、セルロースも会合体であると考えられていました。
今考えたら、相当無理あるような構造ですが、これが水素結合により会合していると信じられていました。
高分子説
そんな中、1926年にドイツの有機化学者だったStaudingerは、それらが会合ではなく、共有結合によってできた1つの巨大分子であると主張します。
これが高分子説です。
当時、Staudingerは溶液の粘度と溶質の分子量の関係を調べて、分子量が大きいほど溶液の粘度が高くなるということを明らかにしました。
そして、1930年には物質の固有粘度が分子量に比例するという関係式を提案しました。
固有粘度とは、下に示したもので、無限希釈した溶液の粘度が濃度によってどう変わるかという値になります。
なお、この式は後ほど提案されたMark-Houwink-Sakuradaの式の先駆けとなっています。
この式では、\(K\)と\(\alpha\)という物質に固有なパラメーターによって、固有粘度が表せるという形になっており、実験によってこちらの式のほうが合致することがわかっています。
高分子の存在を示唆する実験
ここからは、Staudingerが行った高分子説を裏付ける実験について、お話ししていきます。
ポリスチレン会合体説の否定
まず、1つ目はポリスチレンの実験です。
会合体説では、ベンゼン環や二重結合同士の相互作用によって、大きな構造体になっているという主張でした。
それならば、水素を付加することで分離するのではないかと考え、分子量が同じポリスチレンに水素を付加して得られたポリビニルシクロヘキサンの粘度を調べました。
その結果、会合体説で予想されるような顕著な粘度の低下は起こらず、高分子の存在を示唆することになりました。
でんぷんとセルロース会合体説の否定
続いて、でんぷんやセルロースの水素結合による会合体説を否定する実験です。
Staudingerは、ヒドロキシ基をすべてアセチル化することでプロトン性水素をなくし、これで重合度が変化するかを調べました。
その結果がこちらの表になります。
\(\bar{M}\)が浸透圧法という方法で得られた平均分子量で、\(\bar{P}\)が\(\bar{M}\)を繰り返し単位の分子量で割った平均重合度になります。
アセチル化する前後で平均重合度を比べてみると多少の差はありますが、会合体説から予想されるような大きな変化は見られませんでした。
このアセチル化が等重合度反応であることは、水素結合による会合の優位性を否定し、共有結合によって繋がった巨大な分子が存在することを証明することにつながりました。
この研究は新たな学術分野である高分子科学の先駆けとして高く評価され、Staudingerは1953年にノーベル化学賞を受賞しました。
まとめ
はい、今回の内容は以上です。
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それではどうもありがとうございました!