こんにちは!
それでは今回も化学のお話やっていきます。
今回のテーマはこちら!
ヒュッケル法で何がしたいのか
ではまず、今回お話しするヒュッケル法で何がしたいのかということから始めていきます。
それはずばり、π電子が非局在化したときのエネルギー準位をなるべく簡単に求めるということです。
有機化学で共鳴安定化とよく言いますが、なぜ安定化するのか、どのくらい安定化するのかを、このヒュッケル法で考えることができます。
共鳴安定化についてはこちらの記事でもお話ししています。
今回はヒュッケル法の考え方についての話なので、少し難しいかもしれませんが、かみ砕いて説明していきます!
まず、炭素鎖上の\(\pi\)電子のうち、1個が\(i\)番目の状態にあったとします。
その波動関数\(\phi_i\)を炭素原子の原子軌道の線形結合で書けると考えます。
これはLCAO(Linear Combination of Atomic Orbital)近似と言います。
それで、今度は分子中に存在する全てのπ電子について考えます。
\(n\)個の電子の並べ方は\(n!\)通りありますが、その中の1つを\(j\)と表すことにします。
その\(j\)という並べ方において、\(i\)番目の電子が属するエネルギー状態の波動関数を\(\phi_{N_i}\)とすると、\(j\)という電子の並べ方をしたときの波動関数\(\psi_j\)はこのようになります。
全体の波動関数\(\Psi\)を考え得る全ての状態の寄与を考えたものとすると、こうなります。
さらに電子はfermi粒子であるため、パウリの排他原理に従うことになり、この波動関数は反対称性を満たさなければいけません。
そんな条件を満たす\(\Psi\)を表すのにとっておきの方法は行列式で表記するということです。
この行列式はスレーター行列式と言います。
行列式には同じ行が存在すると\(0\)になる、すなわち規格化条件を満たさなくなったり、行の入れ替えによって符号が入れ替わることで反対称性を表現できたりする性質があります。
詳しくはこちらの記事でお話ししています。
シュレディンガー方程式の変形
こうして行列式で書かれた波動関数を使い、エネルギー準位を求めていきます。
ただ厄介なことに多体問題なため厳密に解くことはできませんし、ハミルトニアンにはたくさんの項が出てきます。
このハミルトニアンをそれぞれの電子に関する項に分離できたとしたら、この先の計算が可能になるので、少々荒っぽいかもしれませんが、個々の電子のハミルトニアン\(h(\mu)\)に分離します。
すると、\(\mu\)番の電子についてのシュレディンガー方程式が書けます。
ここで\(\varepsilon_i\)は\(i\)番目の状態のエネルギーです。
これを求めると、こうなります。
ここで\(h_{rs}\)は\(r\)と\(s\)が同じ時はクーロン積分、異なるときは共鳴積分に対応するエネルギーの安定化を表します。
\(S_{rs}\)は重なり積分です。
ここに関してはこちらの記事の後半部分でもお話ししています。
右辺の分母を両辺にかけて分数をなくすとこんな形になります。
ここで\(r\)を固定して、ある1つの\(C_{ri}^\ast\)で両辺を偏微分します。
すると、両辺を\(C_{si}\)でくくれるようになります。
これは\(r\)を固定した変形でしたが、すべての\(r\)について考えた場合には、このような式が\(n\)個出てくることになり、↓のような連立方程式ができます。
この連立方程式は永年方程式と呼びます。
ここで\(\boldsymbol{C}_i\)は係数の列ベクトル\(\boldsymbol{C}\)の解の1つ、\(\varepsilon_i\)は状態エネルギー\(\varepsilon\)の解の1つです。
ここで、\(\boldsymbol{C}=\boldsymbol{0}\)という解が存在していますが、もしすべての係数が\(0\)だった場合には、波動関数が\(0\)ということになり、規格化条件を満たしません。
そのような解以外にも右辺がすべて\(0\)となる解を持っているという事なので、この永年方程式の係数行列は正則行列ではないことになります。
したがって係数行列の行列式は\(0\)になります。
詳しい説明はこちらの記事をご覧ください。
ヒュッケル近似
それでは実際にこの連立方程式を解いていきます。
とは言ってもここでもさらに近似を入れて、なるべく簡単に解けるようにします。
隣接する炭素からの影響しか考えないという考え方で、この近似はヒュッケル近似と言います。
これを使うと、末端以外はすべて↓の式で表せることになります。
単環状分子では連立方程式の全ての式がこの式になります。
ここで、\(x\)を\(\frac{\varepsilon-\alpha}{\beta}\)とすると、もっと式を簡単にできます。
結局、解かなくてはいけない行列式は\(0\)と\(1\)と\(-x\)しか出てこない、超シンプルなものになります。
まさかこんなもので、波動関数やエネルギーが分かるなんて、すごいですよね(笑)
連立方程式の\(x\)の解が分かれば、状態エネルギー\(\varepsilon=\alpha+x\beta\)より、エネルギー準位を求めることができます。
このようにしてπ電子のエネルギー準位を求める方法こそがヒュッケル法だということです。
実際の計算例は、こちらの記事をご覧ください。
まとめ
それでは最後軽くおさらいをやって終わります。
今回はπ電子のエネルギー準位を最も簡単に予想するヒュッケル法というものについて基本的な考え方をお話ししました。
行列式を使って反対称な波動関数を表現することができ、これはスレーター行列式と呼ばれます。
ハミルトニアンが個々の電子に関する項に分離できると考え、さらにヒュッケル近似と言って、隣接する炭素原子の影響しか考えないとすることで、\(0\)と\(1\)と\(-x\)しか出てこないすごく単純な行列式からπ電子共役系のエネルギー準位を予想することができます。
このヒュッケル法という考え方を実際にどのように使っていくのかについては別の記事でお話ししていきます。
正直なところ、ヒュッケル法は今回お話しした根本の考え方は難しいかもしれませんが、計算自体は小さな分子に限った話ですが、手計算も可能なため、続きの話はどんどん簡単になっていきます。
実際に手を動かして分子の軌道がどうなっているのかを求めることができるので、量子力学の中でも楽しい内容だと思っています。
ぜひ続きも見ていただけたらと思います。
それではどうもありがとうございました!