みみず鎖モデルと高分子の剛直性の関係について、丁寧に解説!【大学の高分子科学】

こんにちは!

それでは今日も化学のお話やっていきます。

今回のテーマは、こちら!

高分子の基本的なモデルである「みみず鎖モデル」について考えよう!
動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(worm-like chain202)

それでは内容に入っていきます!

ガウス鎖の復習と補足

まずは、ガウス鎖の復習から入ります。

ガウス鎖とは、両末端間距離の分布関数がガウス分布になる鎖のことをいいます。

自由連結鎖自由回転鎖束縛回転鎖といった高分子のモデルは、すべてガウス鎖モデルになります。

これらのモデルでは、分子内の排除体積効果を考えていません。

ここに関しては、過去の記事でお話ししているので、そちらを参照してください。

【大学の高分子科学】高分子の酔歩鎖モデルとガウス鎖、特性比について分かりやすく解説!

【大学の高分子科学】溶液中での排除体積効果とシータ状態について分かりやすく解説!

そして、3次元空間におけるガウス鎖の両末端間距離の分布は、\(4\pi r^2P(r)\)で与えられます。

ここで、\(P(r)\)は規格化した一次元のガウス分布で、\(n\)は結合ベクトルの本数、\(b\)は結合長です。

\(C_\infty\)は特性比という量で、自由連結鎖について\(1\)になります。

結合角や内部回転ポテンシャルの影響を反映して、\(0\)から\(1\)までの値をとります。

それで、ガウス鎖についての注意事項として、以前の記事で説明できていなかった部分を補足させてください。

まず、感の良い人は気付いていると思いますが、ガウス分布は常に\(0\)より大きい値となるため、引っ張った自由回転鎖の長さ\(nb \sin{(\theta/2)}\)よりも長い両末端間距離をとっても良いことになります。

これは現実的ではないので、Langevin(ランジュバン)関数の逆関数\(L^{-1}(x)\)を使って補正するということがなされることがあります。

そして、ガウス鎖では\(n\)がとても大きいとしているため、部分鎖もガウス鎖になる一種のフラクタル図形と考えることができます。

ここで、部分鎖は1本の鎖を\(n_\rm{s}\)等分したものであるとしています。

しかし、実際には部分鎖1つの結合数\(n/n_\rm{s}\)が\(50\)より小さくなってきたところで、非ガウス性が現れると言われています。

また、大きく変形された高分子でも非ガウス性は顕著になります

そして、多変数のガウス分布関数関数を使って、より厳密な計算をすると、実はガウス鎖は完全な球ではなく回転楕円体となります。

ここで、\(b_\rm{s}\)は1つのセグメントの平均両末端間距離で、末端間ベクトルに平行な方向を\(x\)軸方向、垂直な方向を\(y\)、\(z\)軸方向としています。

それぞれの平均二乗回転半径は、↑のように計算されるため、軸比が\(2\)の回転楕円体とみなせます。

みみず鎖モデル

はい、それではガウス鎖の話はここまでとして、次の話に入っていきます。

これまで考えてきた高分子のモデルはすべて、有限個のビーズが繋がってできた鎖を考えていました。

しかし、この鎖はカクカクしてるので、鎖に沿って微分することができないなど、数学的な取り扱いが難しいです。

そこで、連続曲線として高分子を表すのがみみず鎖モデルです。

これは、結合数\(n\)、結合長\(b\)、結合角\(\theta\)の自由回転鎖について、\(n \rightarrow \infty\)、\(b \rightarrow 0\)、\(\theta \rightarrow \pi\)の極限をとったものです。

とても小さいビーズが無限につながって、グニャグニャしてるイメージです。

このような極限を考えると、もはや結合数や結合長、結合角のような概念は存在せず、別の長さパラメータ2つで平均二乗両末端間距離や平均二乗回転半径が表されるようになります。

そのパラメータの1つは、鎖を一直線状に引っ張ったときの長さ\(nb\)で、文字は\(L\)を使うことにします。

そして、もう1つは\(b/(1+\cos{\theta})\)で、詳しい説明はもうちょっと後でやります。

文字は\(q\)と表すことにします。

\(L\)は経路長と呼びますが、中には全長と表記している教科書もあります。

そして、\(q\)は持続長と呼ばれます。

それで、まず自由回転鎖の平均二乗両末端間距離は、\(n^0\)の項までで近似すると、このようになります。

導出の過程はややこしいですが、↓にpdfを貼っておくので、気になる人だけ見ておいてください。

Gause chain mean-squared end to end distance derivation

まず、この\(\langle R^2\rangle\)について結合角\(\theta\)が\(\pi\)に近づいていったときの極限を考えます。

こうすると、鎖の方向に対する微分ができるので、数学的に扱いやすくなります。

\(\cos{\theta}\)は\(-1\)に近づいていきますので、分母は\(0\)に近づいていくわけですが、ここを一旦残しておくと、↑のようになりまして、第一項は\(2qL\)と書き換えることができます。

そして、第二項については、\(-\cos{\theta}=1-L/(nq)\)と書き換えることで、↓のように整理されます。

自然対数の底、ネイピア数\(\rm{e}\)の定義が()の中に隠れていますので、\(n\)を無限大にしたとき、ここは\(\exp{(-L/q)}\)となります。

したがって、みみず鎖の平均二乗両末端間距離は、\(2qL-2q^2[1-\exp{(-L/q)}]\)となります。

高分子の剛直性

それでは、持続長\(q\)とは何のパラメータだったのか説明していきます。

結論から先にいうと、\(q\)は高分子の剛直性、つまり硬さを表します。

例えば、\(L\)に対して\(q\)がとても大きい場合には、\(\exp{(-L/q)}\)のテイラー展開を二次の項までとることで\(\langle R^2\rangle\)は\(L^2\)と近似されます。

これをイメージ図で表すとこんな感じです。

両末端間距離は多少の分布を持つものの、高い確率で経路長\(L\)に近い値をとることから、まっすぐ伸びた形を取りやすいということになります。

反対に、経路長\(L\)に対して\(q\)が無視できるほど短かった場合、\(\langle R^2\rangle\)は\(2qL\)と近似できます。

これを少しいじると\((L/2q)q^2\)と書くこともできます。

これは結合数が\(L/2q\)、結合長が\(q\)の自由連結鎖の平均二乗両末端間距離と一致するため、分子の形はこんなふうにクネクネ曲がったイメージになります。

以上のことから、持続長\(q\)は高分子の曲がりにくさ、つまり剛直性を表すパラメータだということになります。

\(q\)が長いほど、高分子は剛直であることになります。

また、\(q\)が短いみみず鎖をガウス鎖としてみなすと、その結合数は\(L/2q\)、実行の結合長\(\sqrt{C_{\infty}}b\)は\(2q\)となります。

これらはそれぞれKuhn(クーン)の統計セグメント数Kuhnの統計セグメント長と呼ばれており、\(N_\rm{K}\)、\(L_\rm{K}\)といった文字で表されることが多いです。

高分子の剛直性を表すパラメータとして、持続長\(q\)ではなく、Kuhnの統計セグメント長\(L_\rm{K}\)が使われることもあるので、ぜひ知っておいてください。

持続長の例

それで、実際の持続長はこちらの表のようになります。

一般的に、単結合だけで主鎖が構成されるポリスチレンなどに比べて、らせん構造や共役二重結合を有する高分子の方が持続長は長くなります。

らせん構造をとる高分子にみみず鎖モデルをあてはめるときには、経路長\(L\)を主鎖に沿った長さではなく、らせん軸の長さとしてとるため、注意が必要です。

そして、3重らせん構造をとる多糖のシゾフィランやたんぱく質のコラーゲンは持続長が\(100\ \rm{nm}\)のオーダーになります。

ポリ(γ-ベンジルL-グルタメート)、略してPBLGはたんぱく質同様にα-ヘリックス構造をとりまして、その持続長は\(150\ \rm{nm}\)程度です。

二重らせんで知られるDNAも持続長\(60\ \rm{nm}\)とかになります。

多糖誘導体であるセルロース(トリスフェニルカルバメート)、略してCTCもポリスチレンなどと比べると結構剛直で、持続長は\(10\ \rm{nm}\)です。

その下のポリ(1-フェニル-1-プロピン)は長いπ電子共役系となるポリアセチレン誘導体で、平面構造をとろうとするため、ちょっと剛直になります。

それで、剛直性による高分子の分類は、持続長を直接使うわけではなく、持続長と経路長の比によって考えられます

持続長が長い、あるいは経路長が短いとき、高分子は剛直な鎖として振る舞い、その逆では屈曲しやすい鎖になります。

それぞれは剛直高分子屈曲性高分子と呼ばれます。

剛直高分子はカーボンナノチューブなどの強靭な材料や液晶にして光学材料などに利用されています。

屈曲性高分子はビニール袋のポリエチレンや化粧品などに使われるポリエチレングリコール、あとはポリスチレンなど、身の回りでもよく見る高分子材料の多くに使われています。

そして、持続長と経路長が同程度である高分子は半屈曲性高分子と呼ばれ、その物理的な取り扱いにはまだまだ謎が多いです。

コラーゲンや多糖、DNAなど生体高分子の多くがこの半屈曲性高分子に分類されていて、これらの物理的性質の解明は生物学的にも大変重要であるため、今も盛んに研究されています。

それで、剛直であるほどセグメント同士の衝突確率が低いため、分子内排除体積効果が働きにくく、みみず鎖の予想が現実と一致しやすいです。

逆に、良溶媒中の屈曲性高分子では、両末端間距離の分布がガウス分布からはずれます。

それで、側鎖の影響もときには重要になってきます。

例えば、ポリシラン誘導体では持続長が\(5\)~\(100\ \rm{nm}\)の範囲で大きく上下します。

立体規則性も大きく影響することがあって、例えばシンジオタクチックポリメタクリル酸メチル(s-PMMA)は溶媒中で少しだけらせん状になります。

これは、側鎖のメチル基とカルボキシル基の立体反発を避けるためです。

とは言っても、DNAのように水素結合で固定化されてはいないので、完全に規則的ならせん構造を取っているわけではなく、このような高分子はらせんみみず鎖というモデルで議論されます。

そして、らせんを巻くということは剛直になるということなので、らせんを巻かないアタクチックポリメタクリル酸メチル(a-PMMA)よりも持続長は長くなります

練習問題

はい、それでは最後練習問題をやって終わります。

みみず鎖の平均二乗両末端間距離はさっき求めたので、平均二乗回転半径を求めてみましょう。

詳しい説明は、過去の記事(↓)でやっているので割愛しますが、回転半径と両末端距離の関係を積分の形で表すとこのようになりますので、この式から回転半径の式を求めてください。

【大学の高分子科学】高分子の広がりを表す両末端間距離と回転半径とは?自由連結鎖についても分かりやすく解説!

ここで\(s\)は一方の末端からとある点までの距離です。

答え

まず、\(\langle R^2(s)\rangle =2qs-2q^2[1-\exp{(-s/q)}]\)となりますから、これを代入します。

そして、部分積分の公式を使って整理すると、\(\langle S^2 \rangle =qL/3-q^2+(2q^3/L)[1-(q/L)[(1-\exp{(-L/q)}]]\)と導かれます。

ちなみに剛直極限では、指数関数部分を\(4\)次の後まで近似することで\(\langle S^2\rangle =L^2/12\)となります。

屈曲性高分子として極限をとる場合には、\(\langle S^2\rangle =qL/3\)となり、確かに平均二乗両末端間距離\(2qL\)の6分の1になっていることが確認できます。

つまり、ガウス鎖として考えたときと一致するということです。

まとめ

はい、今回の内容は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

【大学の物理化学】ジュール-トムソン効果の分子論的起源、実験方法について、丁寧に解説!

こんにちは!

それでは今日も化学のお話やっていきます。

今回のテーマはこちら!

エンタルピー一定条件下における膨張で起こることについて、考えよう!

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(Joule-Thomson)

それでは内容に入っていきます!

ジュール-トムソン係数

まず前提として、この動画ではエンタルピーは温度\(T\)と圧力\(p\)の二変数関数であるとします。

理想気体であれば、温度\(T\)だけでいいので、ここではより一般的な系を考えています。

ファンデルワールスの状態方程式からもわかるように、一般的な系では2つの状態量によってその他の状態量が決まります

ファンデルワールスの状態方程式については、こちらをご参照ください。

【大学の物理化学】ファンデルワールスの状態方程式で実在気体を表現する考え方を解説!

そして、エンタルピーの全微分\(\rm{d}\)\(H\)はこのようになります。

\((\frac{\partial H}{\partial T})_p\)は定圧熱容量\(C_p\)と書き換えられます。

また、前回も使ったオイラーの連鎖式を使うと、\((\frac{\partial H}{\partial p})_T=-(\frac{\partial H}{\partial T})_p(\frac{\partial T}{\partial p})_H\)となります。

したがって、定圧熱容量\(C_p\)のほかに、\((\frac{\partial T}{\partial p})_H\)というパラメータ、すなわちエンタルピー一定で圧力を変化させたときに温度がどう変化するかというのが必要になってきます。

この量は、ジュール-トムソン係数と呼ばれまして、ここでは\(\mu\)と表すことにします。

等エンタルピー変化

じゃあ今度、エンタルピー一定条件での変化ってどうやったらいいのかというのを考えていきましょう。

圧力一定条件では、系へ与えられた熱量がエンタルピーの変化量になりますから、これを利用します。

実際にその一例を示したのが、こちらの図です。

右からも左からも押せるようにピストンがついた容器を使います。

壁面はすべて断熱されていて、容器の中には左右の空間を隔てるように多孔質膜がついています。

この容器の中に、気体を詰めて、右のピストンが隔膜に接した状態、これを変化前とします。

このときの圧力、体積、温度をそれぞれ\(p_\rm{i}\)、\(V_\rm{i}\)、\(T_\rm{i}\)とします。

そして、ここから左のピストンがゆっくり右へ動いていって、すべての気体が右の空間へ移動した状態を変化後とします。

このときの圧力、体積、温度はそれぞれ\(p_\rm{f}\)、\(V_\rm{f}\)、\(T_\rm{f}\)としていまして、\(p_\rm{f}\)は\(p_\rm{i}\)より低い圧力です。

じゃあここで本当にエンタルピー一定になっているのか、実際に確かめてみましょう。

考え方としては、まず隔膜の左側だけに着目します。

すると、圧力が\(p_\rm{i}\)で一定のまま、体積が小さくなっています。

体積が\(0\)になったとき、系がされた仕事は\(p_\rm{i}\)\(V_\rm{i}\)になります。

熱の出入りはないため、この仕事が内部エネルギーの変化量となります。

同様に、隔膜の右側について考えると、気体は体積\(0\)から\(V_\rm{f}\)まで定圧膨張しているため、系がされた仕事は\(-p_\rm{f}\)\(V_\rm{f}\)となります。

したがって、全体で系がされた仕事は\(p_\rm{i}\)\(V_\rm{i}\)\(-p_\rm{f}\)\(V_\rm{f}\)であり、これが内部エネルギーの変化量になります。

変化前の内部エネルギーを\(U_\rm{i}\)、変化後の内部エネルギーを\(U_\rm{f}\)として整理すると、結局\(U+pV\)、すなわちエンタルピー\(H\)が一定となることがわかります。

ジュール-トムソン係数の実験的決定方法

実験的にジュール-トムソン係数を決めるときには、↑のような装置を使って、圧力が変化する前後の温度変化を観測します。

圧力差\(\Delta p\)をどんどん小さくしていくことで、微分量を推定することができます。

ただし、完璧に近い断熱系を実際に作るのは困難であるため、実験的には別の方法をとったほうが精度よく調べることができます。

その方法を図で表したのがこちらです。

ここでは、断熱ではなく温度一定としています。

圧力を小さくして膨張させると温度が変化するので、そこにヒーターで熱を与えて温度を一定とします。

オイラーの連鎖式を使うと、ジュール-トムソン係数\(\mu=-\frac{1}{C_p}(\frac{\partial H}{\partial p})_T\)と書けます。

エンタルピーの微小変化量\(\Delta H\)は定圧条件下で系に与えられた熱量\(q_p\)に等しいため、ヒーターの電力から簡単に求められます。

この\((\frac{\partial H}{\partial p})_T\)は、等温ジュール-トムソン係数と呼ばれており、実験的にはこの値を測定し、間接的にジュール-トムソン係数を求めることになります。

ジュール-トムソン効果の分子論的解釈

それで、今度はジュール-トムソン効果の分子論的な説明を考えてみましょう。

まず、気体分子の熱運動エネルギーは温度に比例するため、分子の運動が速いということは温度が高いことと同じであるということを理解した前提で進めていきます。

冒頭でもお話したとおり、理想気体では等エンタルピー膨張による温度変化は起こりませんから、重要になってくるのは分子間相互作用です。

仮に分子間引力が優勢であった場合、分子間距離が小さいほど安定、すなわちポテンシャルエネルギーは小さくなります。

したがって、膨張したときにはポテンシャルエネルギーは増大します。

このとき、気体がもつ全エネルギーに変化がないとすると、ポテンシャルエネルギーが大きくなった分だけ運動エネルギーが小さくなることになります。

運動エネルギーが小さくなることは温度が低くなることと同義であるため、温度の低下が観測されることになります。

このとき、ジュール-トムソン係数\(\mu\)の符号は正になります。

反対に、分子間で反発力が優勢な場合は、等エンタルピー膨張により温度は上昇します。

このとき、\(\mu\)の符号は負になります。

ジュール-トムソン係数の温度、圧力依存性

分子間で引力と反発力のどちらが優勢なのかは、もちろん気体の種類によって違いますが、同じ気体であっても温度や圧力に依存します。

実際に、\(\mu\)の符号は↓のグラフのように変化します。

境界線上の点では\(\mu=0\)、斜線を書いている領域が\(\mu>0\)、書いていない領域が\(\mu<0\)です。

一般的に、ある圧力未満で符号の入れ替わりが2回起きることが知られており、入れ替わりが起きる低温側の温度を下部逆転温度、高温側の温度を上部逆転温度と呼びます。

リンデの冷却機

最後にこのジュール-トムソン効果を利用して、ヘリウムなどの低温液体を作る方法を見てみましょう。

有機実験で、溶媒の温度を沸点にするときにに還流を行いますが、これも還流の話です。

↓がそのイメージ図で、コンプレッサーで圧力差をつくっておき、膨張とともに冷却が起こるようにしておきます。

すると、容器の中が冷たい気体で満たされることになります。

この冷たい気体は高圧側の気体を冷却しますので、新しく入ってきた気体は二重で冷却されることになります。

これを繰り返していくと、どんどん温度は低下していき、あるところで液体になるという仕組みです。

この装置は、リンデの冷却機と呼ばれています。

ここで疑問なのが、低温になることで理想気体に近づくわけだから、ジュール-トムソン係数も\(0\)に近づいていって、冷却が起こらなくなるのではないかということです。

しかし、これは間違いで冷却は起こり続けます。

それは、ジュール-トムソン係数が温度や圧力に直接依存しているわけではなく、それらの導関数によって決まるということを意味しています。

言葉で言ってもわかりにくいので、第2ビリアル係数とほとんど同じだと考えてください。

ビリアル状態方程式については、こちらをご参照ください。

実在気体の非理想性を圧縮率因子とビリアル状態方程式で考える方法について解説!【大学の物理化学】

低温に近づくと、この値は確かに\(0\)に近づくため、理想気体の状態方程式は成り立つようになります。

しかし、その温度についての微分はといえば、ボイル温度で\(0\)、それより低温で負、高温で正になります。

理想気体の状態方程式が成り立ったとしても、その導関数まで理想気体の予想に一致するとは限らないので注意してください。

まとめ

はい、今回の内容は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

【大学の無機化学】点群による化合物の分類について、わかりやすく解説!

こんにちは!

それでは今日も化学のお話やっていきます。

今回のテーマは、こちら!

点群の記号の意味について、知ろう!

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(point cloud 1point cloud 2)

それでは内容に入っていきます!

点群とは?

まず、点群とは何かからお話しします。

点群とは、どんな対称操作によっても動かない共通の点を有するものに存在する対称要素の集合です。

例えば、水分子の酸素原子やアンモニア分子の窒素原子は回転させても鏡映をとっても動きようがないです。

どんな対称操作によっても動かない共通の点とは、つまりこれらのことで、並進操作は考えることができません。

その条件下で立体、特に分子がもつ対称要素の集合を点群と言います。

同じ点群に属する分子は同じ対称性を持っていることになりますから、これで相互作用を考えられるということです。

点群のフローチャート

それで、点群の種類は無限にあるわけではないので、こんなフローチャートに則って、その分子がどの点群に属するのか機械的に分類することができます。

お持ちの無機化学や物理化学の教科書にも、似たようなものが載っていると思うので、そっちを見てもらってもいいです。

点群の表記法

それで、\(C\)とか\(D\)とか書いてあっても、訳がわからないので、まず表記法について話します。

点群の表記方は、シェーンフリース(Schoenflies)系とヘルマン-モーガン(Hermann-Mauguin)系の2種類があって、さっきのフローチャートは前者で書かれています。

この2つの対応はこちらの表のとおりです。

シェーンフリース系を黒、ヘルマン-モーガン系を青で示しています。

一般的に、今回のように分子1個の対称性を議論する際には黒のシェーンフリース系、たくさんの分子が並んでできる結晶の対称性を議論する際には青のヘルマン-モーガン系が使われます。

それで、シェーンフリース系の\(C\)や\(D\)という大文字と、\(\rm{h}\)や\(\rm{v}\)あるいは数字といった添字が意味するものを抽象的に示したのが、こちらの表です。

また、それぞれについて個別にお話しますので、それを見た後にここに戻ってきてもらえたらと思います。

ざっくりとしたイメージをいうと、数字が対称軸の次数に対応してるので、例えば\(3\)とついてたら、主軸方向から見たときに三角形になってるといった具合です。

あとは、その立体が正多面体なのかとか角錐なのか折れ線なのか直線なのかなどで、\(C\)とかDの分類が決まっています。

それでヘルマン-モーガン系の数字と文字の意味はこんな感じです。

数字は回転軸の次数、\(m\)は鏡映面があることを意味します。

\(/m\)は、その鏡映面が主軸に垂直なことを示します。

数字の上にバーがついているのは、その回転が反転と組み合わされていることを指します。

\(\bar{2}\)は鏡映要素を指すため、\(m\)となります。

そして、普通は\(m\)の前に数字が来ますが、その逆の表記をしているものがあって、これはその回転軸を含む鏡映面を持っていることを指します。

あと、\(mm\)みたいな感じで表記されているものがあって、この\(m\)の文字数は鏡映面がいくつの類に分けられるかということを意味しています。

例えば、↓の対称操作についての記事で、練習問題としてアンモニア分子のすべての対称操作を考えました。

【大学の物理、無機化学】分子が持ちうる対称操作の種類と関係について、わかりやすく解説!

そのときに、\(2\)つの回転操作と\(3\)つの鏡映操作はまとめてと呼ぶとお話しました。

同じ類に属する\(2\)つの対称操作は、その分子が持ついずれかの対称操作によって相似変換ができます。

もし、同じ類に属さない鏡映面があった場合には、\(mm\)となっていくわけです。

次の無機化学の記事でまた出てくるので、そのときに改めて説明します。

点群がもつ対称要素と分子例

はい、ここまで抽象的な話が続いて、わかりにくかったと思いますが、ここからはシェーンフリース系の表記で、それぞれの点群がもつ対称要素についてお話していきます。

また具体的に、どんな分子がその群に属するのか、その例も見ていきましょう。

\(C_1\)群、\(C_\rm{i}\)群、\(C_\rm{s}\)群

\(C_1\)群

まずは\(C_1\)群です。

これは、恒等操作以外の対称操作を持たない群で、最も対称性が低い分子が属します。

その例としては、不斉炭素を1つ持つキラルな分子、あとは高分子もそうです。

むちゃくちゃ硬くて短くない限り、対称操作を考えることは無理です。

\(C_\rm{i}\)群

続いての点群は\(C_\rm{i}\)群です。

恒等操作と反転操作のみが対称操作となる分子が属します。

その例は、メソ酒石酸です。

\(C_\rm{s}\)群

続いて、\(C_\rm{s}\)群です。

恒等操作と鏡映操作のみが可能な群です。

キノリンがその一例です。

\(C_n\)群、\(C_{n\rm{v}}\)群、\(C_{n\rm{h}}\)群

\(C_n\)群

続いて、\(C_n\)群です。

この群に属する分子は、\(n\)回回転軸を1つだけ持ちます。

例えば、トリフェニルホスフィンは\(C_2\)群に属します。

\(C_{n\rm{v}}\)群

そして次の\(C_{n\rm{v}}\)群では、さらにその主軸を含む鏡映面を\(n\)個持ちます。

アンモニアは\(C_{3\rm{v}}\)群に属します。

それで、塩化水素などの異核二原子分子はすべて、\(C_{\infty \rm{v}}\)群に属します。

回転軸は、2つの原子を結ぶ直線です。

\(C_{n\rm{h}}\)群

そして、今回紹介する最後の点群は、\(C_{n\rm{h}}\)群です。

主軸に対して垂直な鏡映面を持ちます。

例えば、トランス-1,2-ジクロロエチレンは、紙面に対して垂直な方向に\(2\)回回転軸を持ち、紙面と平行な鏡映面を持つので、\(C_{2\rm{h}}\)群に属します。

また、反転操作\(i\)は\(2\)回回転\(C_2\)と\(\sigma_\rm{h}\)の積であるため、\(C_{2\rm{h}}\)群では反転操作も対称操作になります。

ただし、点群の分類方法は、対称操作ではなく、あくまで対称要素で分類しているため、反転中心を持っているという書き方はしません。

\(D_n\)群、\(D_{n\rm{h}}\)群、\(D_{n\rm{d}}\)群

\(D_n\)群

次は、\(D_n\)群です。

これは、複数の回転軸を持つ群で、最も次数が大きい主軸と、それに垂直な\(n\)本の\(C_2\)軸があります。

五フッ化臭素などのように、同一平面上に同じものがあって、でもその平面に対しては非対称なものがこれにあたります。

\(D_{n\rm{h}}\)群

この平面に対しても対称なものは、次の\(D_{n\rm{h}}\)群になります。

ボランやベンゼンなど正多面体型の分子のほか、角柱型、そして一部例外はありますが、双角錐型の分子がこれに当たります。

また、水素や塩素などの同核二原子分子はすべて\(D_{\infty \rm{h}}\)群に属します。

\(D_{n\rm{d}}\)群

次の\(D_{n\rm{d}}\)群では、\(D_n\)群の要素に加えて、\(\sigma_\rm{d}\)面を\(n\)枚持ちます。

\(\sigma_\rm{d}\)面とは、主軸に垂直な隣り合う\(2\)本の\(C_2\)軸がなす角を二等分線するような鏡映面を指します。

主軸に垂直な\(\sigma_\rm{h}\)面は持っていません。

例えば、1,2-プロパジエン(アレン)は\(D_{n\rm{d}}\)群に属します。

\(S_n\)群

続いての点群は\(S_n\)群です。

これは回転軸、鏡映面、反転中心を持っておらず、回映軸だけ持っている群です。

特徴的なのが、他の群に分類されていないという条件です。

これは、\(2\)回回映操作が結局反転操作と同じになってしまうからです。

\(S_2\)群を考えようとしても、すでに\(C_\rm{i}\)群に分類されているので、\(S_2\)群を別に考えることはしませんよということです。

そして、\(S_n\)群に属する分子は、そのほとんどが\(S_4\)群に属していまして、例えばテトラフェニルメタンが該当します。

立方群

そして、ここからは立方群というものに入っていきます。

これらは主軸を複数本持っているという特徴があります。

\(T\)、\(O\)、\(I\)という大文字は、多面体の面の数を表しており、それぞれ四面体、八面体、二十面体に対応しています。

\(\rm{h}\)がついているのは、\(\sigma_\rm{h}\)面を持っていることを指し、\(\rm{d}\)がついている\(T_\rm{d}\)群は反転中心を持ちます。

添字がついていない\(T\)群、\(O\)群、\(I\)群は鏡映面も反転中心も持っていない立方群です。

それぞれの分子の例はこちらに示した通りです。

メタンは\(T_\rm{d}\)群、六フッ化硫黄は\(O_\rm{h}\)群に属します。

二十面体を書く画力はなかったので楽をしてますが、バックミンスター・フラーレンは\(I\)群に属します。

化合物の例で空欄になっているところは、今回自分が調べた限りでは見つけられなかったものです。

僕はもう自由に論文を読める環境におりませんので、誰かわかる方いらっしゃったらコメントで教えていただけますと非常に助かります。

全回転群

そして、最後に紹介する点群は、全回転群です。

これは\(R_3\)群と表記し、全方向に対して任意の回転軸を何本でも考えることができます。

そんな立体は球しかありえず、球状の多原子分子はないので、原子だけが\(R_3\)群に属します。

点群からすぐにわかること

はい、点群の紹介は以上です。

ここからは点群からすぐにわかることについて、見ていきます。

永久双極子

まず、分子全体で永久電気双極子を持ちえない群があります。

それは、\(C_\rm{i}\)、\(C_n\)、\(C_{n\rm{h}}\)群以外のすべての群です。

例えば、\(C_{2\rm{v}}\)群に属する水分子は、酸素原子側が負、水素原子側が正に分極します。

分子全体でみたときには、主軸に垂直な方向についてキャンセルが起こるため、主軸と平行な双極子モーメントを持つことになります。

対して、\(C_{2\rm{h}}\)群に属するtrans-1,2-ジクロロエチレンでは、局所的な分極は起こっているものの、分子全体でみたときにはキャンセルされるので、永久双極子は持ちません。

ここで注意してもらいたいのは、\(C_\rm{i}\)、\(C_n\)、\(C_{n\rm{h}}\)群に属する分子であったとしても、絶対に永久双極子を持っているというわけではありません。

あくまで双極子を持ちうるという話です。

また、\(C_n\)、\(C_{n\rm{h}}\)群に属する分子が永久双極子を持っていた場合、その方向は必ず主軸と平行になります。

キラリティ

そして、点群がわかればキラリティの判別も可能です。

こっちはシンプルで、回映軸を持っていない群だけが、キラルになる可能性があります。

ただし、\(S_n\)群だけがアキラルになるわけではなくて、例えば反転操作は\(2\)回回映操作にあたるので、反転中心を持つ群もアキラルになります。

また、鏡映操作も\(1\)回回映操作と言えるため、鏡映面を持つ群もアキラルになります。

練習問題

それでは最後、練習問題をやってみましょう。

①これらの分子は、どの点群に分類されるでしょうか?

②これらの分子は、どの点群に分類されるでしょうか?

また、この中で永久双極子を持たない分子とアキラルな分子をすべて挙げてください。

答え

まず(1)のホウ酸は、\(3\)回回転軸があり、それに垂直な鏡映面も持ちます。

従って\(C_{3\rm{h}}\)群に属します。

続いて(2)の2-メチルブタンは、恒等操作以外の対称操作を持たないので\(C_1\)群に属します。

(3)の硫化カルボニルは、異核二原子分子同様に左右非対称な直線分子なので、\(C_{\infty \rm{v}}\)群となります。

(4)の過酸化水素は、\(2\)回回転軸を持ちますが、それ以外はないので\(C_2\)群です。

まず、Aの四塩化炭素は、正四面体型で、\(3\)本の\(C_2\)軸、\(S_4\)軸と\(4\)本の\(C_3\)軸、そして、\(6\)つの鏡映面を持ちます。

したがって、メタンと同じ\(T_\rm{d}\)群に属します。

続いて、Bのエタンはちょっとややこしくて、配座によって対称性が変わります。

より安定である左のねじれ型配座は\(D_{3\rm{d}}\)群、右の重なり配座は\(D_{3\rm{h}}\)群です。

Cの二酸化炭素は左右対称な直線型分子なので、等核二原子分子同様に、\(D_{\infty \rm{v}}\)群に属します。

最後、Dのクロロヨードメタンは、鏡映面を1つ持つだけなので、\(C_\rm{s}\)群に属します。

そして、この中で永久双極子を持つのは、\(C_\rm{s}\)群に属するDのヨードクロロメタンだけです。

また、キラルな分子はありません。

ねじれ型配座のエタンは反転、それ以外は鏡映が対称操作になるため、いずれも回映軸を持っていることになります。

まとめ

はい、今回の内容は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

【大学の物理化学】内圧、膨張率、等温圧縮率の定義と、熱容量との関係について、わかりやすく解説!

こんにちは!

それでは今日も化学のお話やっていきます。

今回のテーマは、こちら!

理想気体に限らない一般的な系について、内圧、膨張率、等温圧縮率というパラメータを考えよう!

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(internal pressure)

それでは内容に入っていきます!

内圧の定義と物理的な意味

まずは、前提の話です。

ここでは内部エネルギー\(U\)が体積\(V\)と温度\(T\)の二変数関数であるとします。

理想気体であれば、内部エネルギーは温度だけで決まるため、ここではより一般的な系を考えています。

その全微分はこのように表されまして、第一項の\((\frac{\partial U}{\partial T})_V\)は定積熱容量\(C_V\)となります。

そして、第二項の\((\frac{\partial U}{\partial V})_T\)、これを内圧\(\pi_T\)として定義します。

エネルギーを体積で割った単位を持つので、圧力と同じ次元のパラメータとなります。

そして内圧は、分子間相互作用を反映しており、その符号によって、反発力が優勢なのか、引力が優勢なのかがわかります。

温度を一定として、グラフで表したのがこちらです。

赤い線は内圧が負のとき、つまり体積が大きいほど安定なときに対応しています。

分子間距離は長い方が安定ということなので、これは分子間で反発力が優勢になっていることを意味します。

反対に、青い線は内圧が正のときで、分子間引力が優勢となっています。

内圧が\(0\)のときには、分子間で引力も反発力もはたらいていないということなので、これが理想気体に対応します。

膨張率、等温圧縮率の定義

次に、膨張率と等温圧縮率という量を定義していきます。

まず、膨張率は圧力一定条件で、温度が上昇したときに、体積がどれくらいの割合膨張するのかという量です。

文字\(\alpha\)で表すことにすると、このように定義されます。

そして等温圧縮率は、温度一定条件下で、圧力を大きくしたときに、体積がどれくらいの割合小さくなるのかという量です。

\(\kappa_T\)と表すことにすると、このように定義されます。

この\(\kappa_T\)は、体積がどれだけ小さくなるかという量ですから、マイナスが付くことに注意してください。

定圧熱容量と定積熱容量の差

それで、\(\rm{d}U\)の式を使って圧力一定条件下における\((\frac{\partial U}{\partial T})_p\)を求めると、このようになります。

\((\frac{\partial V}{\partial T})_p\)の部分は\(\alpha V\)と書き換えられるため、\((\frac{\partial U}{\partial T})_p=\pi_T \alpha V+C_V\)となります。

この関係式を使うと、定圧熱容量\(C_p\)と定積熱容量\(C_V\)の差を求めることができます。

理想気体

まず理想気体については、内圧\(\pi_T=0\)となるため、\((\frac{\partial U}{\partial T})_p=(\frac{\partial U}{\partial T})_V=C_V\)が成り立ちます。

エンタルピーの定義\(H=U+pV\)と、定圧熱容量の定義\(C_p=(\frac{\partial H}{\partial T})_p\)を使うと、\(C_p-C_V=[\frac{\partial (pV)}{\partial T}]_p\)と変形できます。

これは理想気体の状態方程式\(pV=nRT\)より\(nR\)となり、マイヤーの式が導かれます。

ここで、\(n\)は物質量、\(R\)は気体定数です。

マイヤーの式の導出は、↓の記事でも解説しています。

【大学の物理化学】定積熱容量と定圧熱容量の関係、熱容量の温度依存性について分かりやすく解説!

一般的な系

そして一般的な系では、\((\frac{\partial U}{\partial T})_p\)の式より、\(C_V=(\frac{\partial U}{\partial T})_p−\pi_T(\frac{\partial V}{\partial T})_p\)となるため、ここから\(C_p-C_V\)を求めます。

すると、\((\frac{\partial V}{\partial T})_p=\alpha V\)より、\(C_p-C_V=(p+\pi_T)\alpha V\)という関係が導かれます。

それで、この式はさらに変形することができます。

ここからは、まだ記事でやっていない内容が出てくるので、習ってない人は理解できなくて良いです。

近いうちに別の記事でやりますので、その後からここに戻って来てもらえたらと思います。

熱力学基本式を用いた変形

使うのは、熱力学基本式で、\(S\)はエントロピーを指します。

内圧\(\pi_T=(\frac{\partial U}{\partial V})_T\)でしたが、熱力学基本式より、このように書くことができます。

マクスウェルの関係式\((\frac{\partial S}{\partial V})_T=(\frac{\partial p}{\partial T})_V\)より、\(\pi_T=T(\frac{\partial p}{\partial T})_V−p\)となります。

つまり、\(p+\pi_T=T(\frac{\partial p}{\partial T})_V\)という関係が成り立つため、\(C_p-C_V=\alpha TV(\frac{\partial p}{\partial T})_V\)となります。

ここで、体積\(V\)を圧力\(p\)と温度\(T\)の二変数関数としてみなすと、その全微分\(\rm{d}V\)は↓のように書けますが、これを利用します。

もし体積が一定である場合には、\((\frac{\partial V}{\partial p})_T dp=−(\frac{\partial V}{\partial T})_p dT\)となるため、これを整理すると、\((\frac{\partial p}{\partial T})_V=−\frac{(\frac{\partial V}{\partial p})_T}{(\frac{\partial V}{\partial T})_p}\)となります。

この関係は、オイラーの連鎖式と呼ばれているものです。

そして、\(\frac{(\frac{\partial V}{\partial p})_T}{(\frac{\partial V}{\partial T})_p}=-\frac{\alpha}{\kappa_T}\)となりますから、結局\(C_p-C_V=\frac{\alpha^2 TV}{\kappa_T}\)という関係式が導かれます。

したがって、一般的な系に関して、2つの熱容量の差は膨張率と定温圧縮率を使って表すことができます。

特に、理想気体の場合の場合は、右辺が\(nR\)になりますので、また確かめておいてください。

まとめ

はい、今回の内容は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

【大学の物理化学】ヘスの法則、反応エンタルピーの温度依存性について、わかりやすく解説!

こんにちは!

それでは今日も化学のお話やっていきます。

今回のテーマは、こちら!

高校でも習うヘスの法則を再確認しよう!また、反応エンタルピーの温度依存性についても考えてみよう!

反応エンタルピーに関しまして、ヘスの法則と温度依存性について考えていきます。

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(Hess)

それでは内容に入っていきます!

状態量(状態関数)

まず、改めて状態量、状態関数という言葉を説明しておきます。

これは、変化の経路によらず、他の状態量によって決まる量のことで、例えば温度が決まれば、理想気体の内部エネルギーは自動的に決まります。

これに対して、仕事や熱は変化の仕方を表す量であり、温度や圧力、体積だけでは一意的に決まらず、経路関数と言います。

そして、エンタルピーの定義は\(H=U+pV\)ですが、内部エネルギー、圧力、体積はすべて状態量であるため、エンタルピーも状態量になります。

つまり変化の経路によらず、現在の状態だけで決まります。

ヘスの法則

したがって、AとBからCとDができる反応におけるエンタルピー変化は、下のように一旦A’とB’を経由しても変わらないことになります。

この法則は、ヘスの法則と言います。

これにより、その反応が実際に起こっているかどうかに関わらず、複数の反応エンタルピーの値から、全体の反応エンタルピーを求めることができます。

中でも、それぞれの化学種の生成エンタルピー(生成熱)\(\Delta_\rm{f}\)\(H\)から全体の反応エンタルピーを求める、というのが簡単です。

こちらはメタンの生成反応です。

ここでは、炭素なら黒鉛、水素なら水素ガスというように、その状態における最も安定な単体を基準に、生成物のエンタルピーを考えます。

そのため、これら基準物質の生成エンタルピーは\(0\)です。

そして、実際に生成エンタルピーを使って反応エンタルピーを表すと、こうなります。

ここではエタンの燃焼反応を例にしています。

以前の記事で、それぞれの標準エンタルピーから標準反応エンタルピーを求める方法をお話ししましたが、それとほとんど同じです。

詳しくはこちら↓

【大学の物理化学】反応エンタルピーの基本(標準状態、化学量数)について、丁寧に解説!

反応系の係数にマイナスをつけるという化学量数\(\nu_\rm{i}\)で表せます。

ただし、基準物質である酸素ガスの生成エンタルピーは\(0\)になるので、書かなくてもよいというところだけ違います。

反応エンタルピーの温度依存性

はい、それでここまでは標準状態だけしか考えていなかったので、今度は温度を変化させることを考えてみましょう。

ここからの話で、圧力は標準圧力で一定であるとします。

任意の温度\(T\)における反応エンタルピーは、標準温度での値と、そこから温度変化したことによる差分との和で書けます。

圧力一定下におけるエンタルピーの微小変化\(\rm{d}H\)は定圧熱容量\(C_p\)と温度の微小変化\(\rm{d}T\)の積になるので、反応系と生成系の定圧熱容量の差によって、反応エンタルピーの温度依存性が決まります。

温度の変化量\(\Delta T\)が小さく、熱容量の温度依存性を無視できる場合には、それぞれの化学種について、このような式が成り立ちます。

ここで、\(C_{p,\rm{m}}}\)はモル定圧熱容量です。

そして、このときの反応エンタルピー\(\Delta_\rm{r}\)\(H\)は、熱容量差を使ってこのように表すことができます。

ここで、\(\rm{A_i}\)は化学種の種類を表しています。

それで、熱容量に温度依存性がある場合には、↓のように積分の式になります。

これら反応エンタルピーの温度依存性を熱容量差で表した関係は、反応熱のキルヒホッフの法則と呼ばれます。

また、上の積分の式を微分形に変形すると、このように表現することもできます。

実際の計算例

最後、実際に反応エンタルピーの温度変化を考えると、こんな感じです。

ここでは\(110^\circ \rm{C}\)における水素ガスの燃焼を例にしています。

標準温度\(25^\circ \rm{C}\)、標準圧力\(1\ \rm{bar}\)のとき、それぞれの標準モル定圧熱容量と全体の標準燃焼エンタルピーが、このような値になったとします。

そして、熱容量の温度変化は無視できるものとします。

このとき、反応系と生成系の熱容量差を用いて、\(\Delta_\rm{c}\)\(H(110^\circ \rm{C}\)\()=-242.66\ \rm{kJ \ mol^{-1}}\)と計算できます。

まとめ

はい、今回の内容は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

【大学の高分子科学】おすすめの教科書、参考書、問題集全10選まとめ!!(高校生向けもあります!)

こんにちは!

今日は書籍紹介第二弾として、高分子科学の本を紹介していきたいと思います。

動画はこちら↓

物理化学のときと同様に、大学の図書館にあった日本語の本が対象なので、新しすぎる書籍や英語の本は含まれていませんが、ご了承ください。

物理化学の書籍紹介はこちら↓

【大学の物理化学】おすすめの教科書、参考書、問題集全9選まとめ!!(高校生向けもあります!)

そして、僕の主観ではありますが、10点満点でスコアをつけているので、ぜひ参考にしていただければと思います。

それでは早速内容に入っていきます!

高分子の合成と物性どちらも扱った教科書4選

それで、一口に高分子と言っても、合成と物性がありますが、まずは合成と物性どちらも扱っている教科書を紹介します。

高分子学会 編 基礎高分子科学

僕が見た中で最もいいなと思ったのは、高分子学会の基礎高分子科学です。

スコアはわかりやすさが8、合成の詳しさは8、物理の詳しさも8、見やすさが9で、本書に演習問題はついていません。

この本に限らず、今回紹介する問題集以外の書籍には、すべて問題がありませんでした

範囲が広く、また説明も詳しいので、汎用性がとても高い教科書です。

どの本を見るか迷ったときはこれを見るといいと思います。

高分子化学 基礎と応用

続いて紹介するのが、高分子化学 基礎と応用です。


スコアは、わかりやすさが7.5、合成の詳しさが7、物性の詳しさが7、見やすさが8です。

高分子化学

次が、高分子化学です。


スコアは、わかりやすさが8 、合成の詳しさが7、物性の詳しさが7、見やすさが8です。

妹尾学 監修 基礎高分子科学

その次が、妹尾学先生監修の基礎高分子化学です。


スコアは、わかりやすさが8、合成の詳しさが7、物性の詳しさが7.5、見やすさが8です。

正直なところ、1つ目に紹介した高分子学会が出している高分子科学以外の3つは、良い教科書ではありますが、あまり大差はないと思います。

微妙な差としては、高分子化学 基礎と応用は説明文が簡潔で、妹尾先生の基礎高分子科学は、物性の説明が少しだけ詳しいです。

高分子化学はこれら2つの真ん中くらいです。

高分子合成の教科書

はい、それでは続きまして、合成だけ、物性だけに特化した本を1つずつ紹介します。高分子系の研究室に配属された方は、ぜひ参考にしてください。

高分子の合成

まず有機について、良いと思ったのは高分子の合成です。


スコアは、わかりやすさが8、詳しさが10、見やすさが8です。

僕自身が合成ではなくて、物性が専門だったので、正直知らないこともたくさん書いてありまして、例えばモノマーの細かい反応性や触媒についても、細かくまとめられていました。

その他、図書館で見つけられなかったため、点数はつけていませんが、ネット上では高分子合成化学という本も支持されているようでしたので、名前だけ紹介しておきます。


もし、こちらの書籍が手元にある方いましたら、コメントでその評価教えてもらえると大変助かります(^^)/

高分子物性の教科書

高分子の構造と物性

そして、物性でおすすめは、高分子の構造と物性です。


わかりやすさは7、詳しさは10、見やすさは7です。

文字が多いので、ちょっと読みにくいんですけれども、溶液からバルク、結晶など、かなり広く深く説明されているので、僕も論文を読むときや修論を書くときには参考にしていました。

高分子の問題集

はい、教科書の紹介はここまでで、続いては高分子の問題集を紹介します。

ここまで紹介した本にはすべて演習問題がついてないので、院試や試験対策の際には参考にしてください。

高分子の問題集は図書館にほとんどなかったので、1冊だけの紹介になります。

高分子学会 編 基礎高分子科学 演習編

僕が良いなと思ったのは、高分子学会の基礎高分子科学 演習編です。

説明部分のわかりやすさは9、詳しさは6、見やすさは9、解答も本書についてまして、その詳しさは9点です。

比較対象があまりありませんし、この本自体とても良くできているので、院試対策には、これと過去問をやればかなり力がつくと思います。

高校生も楽しく読める!高分子のおすすめ本

では最後に、高分子を過去に勉強したことがない人でも手に取りやすい本を3つ紹介します。

よくわかる最新 高分子科学の基本と仕組み

1つ目に紹介するのは、よくわかる最新高分子化学の基本と仕組みです。

定価は2200円、2021年の本になります。

数式が出てこないので、文系の方でも読みやすく、高分子の面白さがわかって頂けるかなと思います。

わかる×わかった!高分子化学、わかる化学シリーズ 高分子化学

そして、残り2つ紹介するのは、わかる×わかった!高分子化学わかる化学シリーズ 高分子化学です。



それぞれの定価は2400円と1900円、出版は2010年と2006年です。

この2つは、そこまで専門的な訳ではないですが、式も入っているので、文系と理系の中間のイメージです。

高分子に興味がある高校生の方におすすめできる本です。

まとめ

はい、以上が僕が図書館で見つけてきた高分子の本でした。

図書館や書店でこれらの本を見かけた際には、ぜひ手にとってみてください。

それではどうもありがとうございました!

【大学の有機化学】アルケンの主要な反応まとめ!(求電子付加反応の立体特異性や位置選択性など)

こんにちは!

それでは今回も化学の話やっていきます。

今回のテーマは、こちら!

アルケンの主要な反応について、見ていこう!

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(alkene reaction 1alkene reaction 2alkene reaction 3)

それでは内容に入っていきます!

(動画part1の内容)

付加反応の熱力学

まず、アルケンの特徴といえば二重結合を持っていることですが、π結合はσ結合に比べると、軌道の重なりが小さくて弱いので、ここでいろいろ反応が起こります。

最初に、そのエンタルピー変化を考えておきましょう。

二重結合にA-Bという分子が付加する反応は、分割して考えると、π結合の解離、A-B結合の解離、2本のσ結合形成となります。

したがって、それぞれの標準エンタルピー\(DH^\circ\)を使うと、全体のエンタルピー変化\(\Delta H^\circ\)はこのように書けます。

この\(\Delta H^\circ\)が負の値であれば発熱反応であり、安定な生成物が得られます。

実際、エチレンに水素を付加させたときのエンタルピーはこのように計算され、発熱反応となります。

ただし、このエンタルピーの値は、π結合がなくなったことによるσ結合の強さの変化を考えない概算値です。

触媒存在下における水素付加反応の機構

それで、エチレンに対する水素の付加反応は発熱反応なんですが、エチレンガスと水素ガスを混ぜて\(200^\circ C\)程度に加熱するくらいでは、エタンは生成しません

これは活性化エネルギーがとても大きいからであり、多くの場合は不均一触媒が使われます。

不均一なので、触媒と基質は混ざってなくて、触媒の表面で反応が起こります。

中学で習う過酸化水素と二酸化マンガンで、酸素が発生するという反応も不均一触媒系の例です。

よく使われるのは、こちらに示したパラジウム、白金、ニッケルなどを用いた触媒です。

これらは、他にもいろんな反応で触媒として使われるので、またちょくちょく見ると思います。

それで、不均一触媒の表面で何が起こっているのかを説明します。

まず、触媒表面に水素分子が近づいてくると、安定なH-H結合を解離させて、このように表面に水素が生えた形になります。

ここにアルケンのπ結合が近づいてくるとπ電子が触媒と結合を作り、同時に1つ水素が基質にひっつきます。

あとは、基質が表面から離れるときにこのような電子の移動が起こり、水素の付加反応が完了します。

この反応の中で触媒は、安定な水素分子の結合を解離させることで活性な状態にする働きを担っています。

そして、この触媒を用いた付加反応は立体特異的であり、例えば↓の1-エチル-2-メチルシクロヘキセンに対して、水素を付加させると、これら2つのラセミ混合物が得られます。

π結合を形成する炭素はsp2混成で平面構造を取りますが、その平面に対して2つの水素原子は同じ方へ付きます。

ただし、面の上から付くか下から付くかはランダムであるため、ラセミ体となります。

このような付加のしかたはシン(syn)付加と言います。

これに対して、平面の反対側に付加する反応はアンチ(anti)付加といいます。

そしてさっき、平面に対して上から付加するか下から付加するかは、ランダムだと言ったのですが、触媒がキラルな場合は選択的に一方のエナンチオマーが得られることもあります

例えば、パーキンソン病の治療薬を工業的に作る過程では、キラルなロジウム触媒を均一系で作用させることで、S体を高い収率で得ています。

求電子付加反応

続いて、ここからは求電子付加反応について、お話していきます。

π結合は、σ結合よりも弱く、電子の束縛は緩いため、分極しやすくなっています。

また、孤立電子対とまではいかないですが、Lewis塩基のように求核的な挙動を示します。

求電子付加反応とは、求電子剤との間で反応が起こることで進行する付加反応のことです。

ハロゲン化水素の付加

それではまず、最も簡単な求電子剤であるプロトンとの反応を見ていきます。

用いるのは、ハロゲン化水素です。

π電子は求核的なので、プロトンに攻撃することでカルボカチオンが生成し、それからハロゲン化物イオンが攻撃して、ハロアルカンが生成します。

もちろんですが、立体は保持されません。

そして、この反応は逆に見るとE1反応になります。

つまり、化学平衡になると言うことです。

そして、π結合を作っていた2つの炭素原子のどっちにハロゲンが付くのかというのは選択性がありまして、置換基がより多い方に付きます

この法則はMarkovnikov(マルコフニコフ)則と呼ばれます。

なぜそうなるのかは、反応機構を見るとわかります。

中間体であるカルボカチオンは第三級が最も安定となるため、置換のより少ない炭素側にプロトンがひっつきます。

それから、カチオン中心の炭素原子にハロゲン化物イオンが求核攻撃するので、Markovnikov則に従うことになります。

そして、カルボカチオン中間体を経由するため、反応の途中で、このように転位が起こることもあります

プロトンを用いた水和反応

続いて、プロトンを用いた求電子水和反応についてお話しします。

さっきのハロゲン化水素同様に、希硫酸を使ってアルケンに水を付加させる反応は、E1反応とその逆反応で化学平衡となります。

アルケンとアルコールどっちに傾かせるかは、こんな感じで水の量と温度でコントロールできます。

また、ここではちゃんとアルケンまで平衡となっていることがミソで、カルボカチオンのときに転位が起こってからアルケンに戻るということも起こります。

多置換アルケンほど安定であるため、このような末端アルケンに酸を加えると内部アルケンに変換することが可能になります。

(動画2の内容)

ハロゲン分子の付加

四塩化炭素など安定なハロメタンを溶媒として、アルケンにハロゲン分子を反応させると、ジハロアルカンができます。

ただし、ハロゲンといっても塩素と臭素だけです。

フッ素では、一気に反応が起こってしまって、こんなふうにうまく付加しません。

ヨウ素の場合はC-I結合が弱いため、熱力学的に不利になります。

そして、この反応は立体特異的であり、アンチ付加で進行します。

例えば、シクロヘキセンに臭素を加えると、このようなラセミ混合物が得られます。

なぜ、アンチ付加なのかというと、次のような反応機構が考えられています。

ここでは、ハロゲン分子の中で、一方の原子が正、もう一方が負に分極することを考えています。

π電子が正に分極したハロゲンに攻撃すると同時にもう一方のハロゲン原子はイオンとして脱離することで、↑のような三員環のカチオンを形成します。

これをハロニウムイオンと呼びまして、特に臭素の場合はブロモニウムイオン、塩素の場合は、クロロニウムイオンと言います。

ここに、ハロゲン化物イオンがSN2機構で求核攻撃することで開環し、アンチ付加体が得られます。

ちなみに、臭素Br2は有色であるため、アルケンの存在を目で確認するテストができます。

ハロゲン+他の求核剤(過剰量)

そして、求核剤は必ずしもハロゲン化物イオンである必要はなく、他の求核剤が過剰量ある場合には、ハロゲンとそのもう1つの置換基がアンチ付加します。

例えば、水を溶媒にして臭素を付加させようとすると、水が求核剤となってブロモニウムイオンに攻撃し、ハロアルコールが生成します。

このとき、臭化水素が同時に生成します。

この反応は位置選択的でもあり、置換がより少ない方の炭素にハロゲンがつきやすいです。

これは、カルボカチオンの安定性により、置換の多い炭素が正に分極するからです。

同様に付加する他の反応剤

また、アンチ付加する求電子剤は、ハロゲンの単体だけではなくて、ここに示したものでも同じように起こります。

棒で示した単結合の左側が三員環のカチオンを作る部分で、右側が求核剤になる部分です。

それぞれをAとBで表したとすると、2-メチルプロペンにはこのように付加したものが選択的に得られます。

そして、いちばん右に書いている水銀塩と水を使った反応はとても重要なので、次はこれについてお話しします。

オキシ水銀化-脱水銀化

アルケンに酢酸銀などの塩と水を反応させるとこのようにヒドロキシ基と水銀がアンチ付加したアルキル水銀になります。

この反応をオキシ水銀化反応といいます。

さらにこの生成物は、ヒドリド還元剤である水素化ホウ素ナトリウムと反応させることで、水のアンチ付加体になります。

こっちの反応は脱水銀化反応と言います。

オキシ水銀化反応の中間体としては、このようなマーキュリニウムイオンができていると考えられています。

カルボカチオン中間体を経由しないため、転位が起こらず、生成物が複雑にならないという大きなメリットがあります。

そして、ヒドリドの求核攻撃はより立体障害の少ない方の炭素へ起こりやすいため、位置選択性はプロトン酸同様に、Markovnikov則に従うことになります。

ただし、水銀反応剤は高価かつ有害なため扱いが難しく、気安く行えないというのが、欠点になります。

ヒドロホウ素化-酸化

それで、求電子水和反応として重要なものがもう1つあるので、そっちもお話しします。

それがヒドロホウ素化-酸化という方法です。

求電子剤としては、Lewis酸であるBH3ボランを使います。

ボランはそれ自体で二量体を形成することでも知られる化合物で、Lewis塩基であるTHFなどのエーテル溶液として市販されています

溶液中では、このようなオクテット則を満たす安定な複合体を形成しています。

アルケンにボランを加えるときには、そのままTHFを溶媒にします。

すると、一方に水素、もう一方にBH2という形で求電子付加します。

この反応をヒドロホウ素化といいます。

この反応はあと2回繰り返すことができて、最終的にはアルキルボランが得られることになります。

この反応は水素の付加とは異なり、触媒がなくても進行します

反応機構はこんな感じで、π電子がボランの空軌道に移ることで、四中心遷移状態を経て、付加が起こります。

この反応は立体特異的であり、シン付加となります。

また、位置選択的でもあり、ホウ素は立体障害が小さい方の炭素に付きます

このようにしてできたアルキルボランは、塩基性条件下で過酸化水素などの酸化剤と反応させると、アルコールになります。

反応機構はこんな感じで、まずアルキル基がアルコキシドに変換されます。

塩基によって、これの加水分解が起こることでアルコールとなります。

また同時にホウ酸ナトリウムが生成します

反応全体では、置換がより少ない方の炭素にヒドロキシ基が選択的につくため、Markovnikov則の真逆になります。

この位置選択性はそのまま、逆Markovnikov則と言います。

3種の求電子水和反応まとめ

最後にここまでやってきた3種類の求電子水和反応の特徴をまとめておきます。

プロトン酸を使う反応は、カルボカチオン中間体を経由するため、複雑な生成物が得られる可能性があります。

対して、オキシ水銀化-脱水銀化とヒドロホウ素化-酸化はカルボカチオン中間体を経由しないため転位が起こらず、立体は保持されます。

立体特異性は、それぞれアンチ付加、シン付加になります。

位置選択性は、プロトンとオキシ水銀化-脱水銀化がMarkovnikov則、ヒドロホウ素化-酸化が逆Markovnikov則に従います。

ヒドロキシ基をつけたところは、また別の置換基にもできますので、この表はとても大事です。

しっかり頭の中に入れておいてください。

(動画part3の内容)

カルベンを用いたシクロプロパンの合成

まずは、アルケンからシクロプロパンを作る方法からお話しします。

π結合部分を三員環にするためには、炭素がもう1個必要で、それにはカルベンという化学種を用います。

カルベンは、↑に示すようなLewis酸で、例えばこちらのジアゾメタンに光や熱、銅などの触媒を作用させると、窒素分子が外れて、最も簡単なカルベンであるメチレンが生成します。

実際のシス-2-ブテンとメチレンの反応はこのとおりです。

アルケンの反応第二弾でお話したヒドロホウ素化と同様に、Lewis酸の空軌道にπ結合の電子対が供与され、シクロプロパンになります。

この反応は、立体を保持したまま進行します。

また炭素-炭素結合を作る有用な反応の1つでもあります。

そして、カルベンはジアゾ化合物からでなくても作ることができまして、クロロホルムがその一例です。

クロロホルムから強塩基によりプロトンを引き抜くと、そこからさらに塩化物イオンが抜けることで、ジクロロメチレンが生成します。

他には、カルベンではないけどカルベンのような反応を起こせる化学種、カルベノイドというのがあります。

こちらのSimmons-Smith反応剤がその代表例です。

こちらは塩酸と硫酸銅によって活性化された亜鉛とジヨードメタンから作ることができます。

トランス-2-ブテンとの反応はこのとおりであり、メチレンを反応させたのと同じ生成物になります。

過酸を用いたエポキシ化

では続いてアルケンからオキサシクロプロパンを作る方法についてお話しします。

オキサシクロプロパンはエポキシドと言われてきたので、この反応はエポキシ化とも言います。

使うのは過酸、すなわち普通の酸より酸素が1個多いものです。

こちらのペルオキシカルボン酸がその例で、実は、水素原子の隣の酸素原子は正に分極しているため、求電子的になっています。

過酢酸でも反応は起こせますが、実験室で使われることが多いのは、こちらのm-クロロペルオキシ安息香酸、略してMCPBAというものです。

そして、もっと工業的に大規模でこの反応を起こす場合は、もうちょっと安定な反応剤を使います。

モノペルオキシフタル酸マグネシウム、略してMMPPというもので、通常は六水和物として売られています。

実際のトランス-2-ブテンとMCPBAの反応は、↓のとおりで、立体は保持されます。

こちらが電子の動きで、求電子的な酸素原子へπ結合の電子が移っています。

そして、アルケンに2つ以上の二重結合があった場合、1当量のMCPBAを加えると、置換がより多い方の二重結合がエポキシ化されたものが選択的に得られます

超共役により、多置換であるほど二重結合周辺の電子密度が大きくなっているためです。

隣接ジオールの合成

アンチ付加体

それでオキサシクロプロパンは反応性が高いため、続けて開環反応を起こすことができます。

特に酸性水溶液で処理した場合は、このように2つヒドロキシ基が隣接したジオールが得られます。

水の求核攻撃はSN2で進行するため、この反応は立体特異的であり、反応全体ではアンチ付加になります。

シン付加体

それで、2つのヒドロキシ基をシン付加させる方法もあります。

使うのは、四酸化オスミウムOsO4です。

この反応は酸化還元反応であり、オスミウムは8価から6価へ還元されます。

この生成物を硫化水素や亜硫酸水素ナトリウムで還元的に分解することで、隣接シンジオールとなります。

ただし、オスミウム反応剤は高価かつ毒性も非常に高いため、扱いは難しいです。

そのため、過酸化水素などによる再酸化で、触媒量に抑えるなどの工夫が必要となります。

また、四酸化オスミウム以外でも、過マンガン酸カリウムで隣接シンジオールを作れることが知られています。

ただし、こっちは過剰酸化が起こるため収率が低いです。

じゃあ、なぜ紹介したのかという話ですが、この反応はアルケンの存在を確認するテストに使えます。

暗紫色の過マンガン酸カリウムが消費されると、溶液の色が透明に近くなり、同時に褐色沈殿として、二酸化マンガンが生成します。

オゾン分解

それでは次、オゾン分解という反応の話に移ります。

オゾン層でよく知られるオゾンは青色で生臭い匂いのする気体です。

実験室レベルでは、アーク放電により一部の酸素分子からオゾンが作られます。

このようにして作ったオゾンと酸素の混合気体をアルケンのメタノールまたはジクロロメタン溶液と反応させます。

これを硫化水素、または亜鉛と酢酸により還元すると、アルケンの二重結合だった部分がσ結合もろとも解離して、2つのカルボニルになります。

反応機構はこのとおりです。

まず、π結合の電子がオゾンに供与されると同時に、オゾンからも電子対がアルケン側へ移り、上段真ん中の中間体となります。

これはモルオゾニドというもので、一次オゾニドまたは初期オゾニドとも呼ばれます。

ただし、これはO-O結合が2つもあるため安定でなく、さらに構造の組み換えが起こります。

そうしてできるのが、下段真ん中のオゾニドというものです。

これに還元剤である硫化水素または亜鉛と酢酸を加えると、酸素原子が1個外れて、2つのカルボニルが生成します。

この反応は、炭素同士のπ結合だけでなく、σ結合も切るのが特徴的な点で、炭素数を減らすのに有用な反応です。

ラジカル付加反応

続いて紹介するのはラジカル付加反応です。

まずおさらいとして、アルケンに臭化水素が求電子付加する場合は、位置選択性はMarkovnikov則に従い、置換がより多い炭素側へ臭素が付きます。

しかし、何も考えないでこの反応をやろうとすると、こんなふうに逆Markovnikov則に従った生成物がたくさんできてしまうことがあります。

その原因は過酸化物の存在にあります。

アルケンは空気中に放置すると酸化して、一部が過酸化物となってしまうのですが、精製してこれを取り除かないと、ラジカル的な反応が起こってしまいます。

その結果、逆Markovnikov則に従った生成物ができてしまうというわけです。

反応機構はこのとおりで、開始段階では過酸化物がホモリシス開裂し、それから臭素原子ができます。

そして、臭素原子は安定なラジカルができるようにアルケンと結合を作るため、置換のより少ない炭素側に付きます。

このようにしてできた第二級ないし第三級ラジカルは臭化水素から水素原子を引き抜き、また臭素原子を発生させるというサイクルで、反応は伝播していきます。

ラジカル同士が出会って消滅する停止反応が起こるまで、このサイクルを繰り返します。

ここで注意したいのは、塩化水素やヨウ化水素では、このラジカル付加反応は起こらないということです。

どちらも熱力学的に不利なため、空気中に放置したアルケンと反応させても、Markovnikov則に従った生成物のみが得られます。

また、意図的にラジカル付加反応を起こしたい場合は、あらかじめ過酸化物やアゾ化合物を入れておくということもあります。

代表的なラジカル開始剤としては、こちらにあるような化合物です。

あとは、アゾビスイソブチロニトリル、略してAIBNというものも有名です。

そして、このようなラジカル付加反応は、臭化水素の他にチオールでも起こりますので、これも知っておいてください。

高分子の合成

それで、アルケンは高分子の材料になります。

活性な末端にどんどん他のアルケンがひっついて行って、二量体、オリゴマー、そしてポリマーとなります。

相当なボリュームになりますので、また高分子の記事でお話します。

エチレンの工業的な利用例

それで最後、あまり試験で聞かれないかなとも思いますが、エチレンは工業的にこんなふうに使われてるよというのを軽く見ておきます。

エチレンは石油を原料として得ることができますが、そこからWacker法によりアセトアルデヒドを作ることができます。

反応に用いるのは、水と酸素、そして触媒である塩化パラジウム(II)と塩化銅(II)で、水素原子1つをヒドロキシ基に置換し、ケト-エノール平衡によりアルデヒドができるという反応です。

またエチレンに塩素分子をアンチ付加させたのち、熱をかけると塩化水素を取り出せて、クロロエチレンを得ることができます。

そして、エチレンに銀触媒とともに酸素を反応させることでも、オキサシクロプロパンを作ることができ、これを酸で処理することでエチレングリコールを作ることができます。

エンジンの不凍液として知られていますが、ポリエチレングリコール(PEG)の原料としても重要な化合物です。

練習問題

それでは最後に練習問題をやってみましょう!

A. 3-メチル-1-ペンテンに対して、上記の求電子水和反応剤3種類を反応させると、どのような生成物が得られる?

B. 左の化合物から右の化合物を合成するまでの経路は?(立体は考慮しません。)

答え
A.

まず①、低温条件で希硫酸を反応させると、Markovnikov則に従って3-メチル-1-ペンタノールが得られます。

また、カルボカチオンの転位を伴って、3-メチル-3-ペンタノールも生成すると考えられます。

②オキシ水銀化-脱水銀化では、カルボカチオン中間体を経由しないため、転位が起こりません。

したがって、Markovnikov則に従った3-メチル-1-ペンタノールが高い収率で得られます。

③ヒドロホウ素化-酸化では、逆Markovnikov則に従って、3-メチル-1-ペンタノールが得られます。

B. 今回は、これまでの動画でやってきた反応だけで考えた例を示します。

それでは、逆合成解析のプロセスで、生成物から辿っていきます。

まず、原料と最終生成物では炭素数が異なるため、オゾン分解によって数を合わせることを考えることにします。

そして、二重結合ができる前は、こんな中間体が考えられます。

ただし、この第三級アルコールに濃硫酸を加えても末端アルケンの選択性は低いので、ちょっと注意が必要です。

環状構造は、オキサシクロプロパンへアルコキシドの分子内SN2反応を起こさせることで作れるので、今回はそう考えます。

そして、まだ炭素数は足りていないので、もう一度オゾン分解することを考えると、この前の構造はアルデヒドになります。

あとは、オキサシクロプロパンが二重結合になれば、原料の化合物になります。

これをひっくり返すと、このようになります。

まず過酸による位置選択的なエポキシ化から、オゾン分解をします。

それから、水素化ホウ素ナトリウムによるヒドリド還元でアルデヒドをアルコールに変換します。

このとき、水素化アルミニウムリチウムを使うと、オキサシクロプロパン環も開いてしまうので、注意してください。

それから、嵩高い強塩基により求核攻撃を防ぎつつ、アルコキシドを作りまして、オキサシクロペンタン環を作ります。

そして、先程も言いましたが、ヒドロキシ基のままだと末端アルケンを選択的に得られないので、三臭化リンにより、ヒドロキシ基をブロモ基に変換して、嵩高い強塩基によりE2反応させます。

あとは、これをオゾン分解すれば、目的の生成物になります。

僕自身が合成専門ではないので、もっと良い方法があるかもしれません。

その場合は教えていただけると助かります(;・∀・)

まとめ

はい、今回の内容は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitter(https://twitter.com/bakeneko_chem)かお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

【大学の物理、無機化学】分子が持ちうる対称操作の種類と関係について、わかりやすく解説!

こんにちは!

それでは今日も化学のお話やっていきます。

今回のテーマは、こちら!

分子の対称操作を一気に見ていこう!

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(symmetry operation)

それでは、内容に入っていきます!

対称操作とは?

まず、対称操作とは何かを説明します。

対称操作とは、ある図形や立体について、特定の動かし方をした結果、動かす前の形と重なってしまい、見かけ上は何も動かしていないようになる操作のことを言います。

例えば、正三角形について、その重心を中心に\(120^\circ\)回転させると、回転する前とぴったり重なってしまいます。

このとき、その回転するという操作は、対称操作であることになります。

分子の対称操作

続いて、分子の対称操作には、どういったものが考えられるのかをお話していきます。

恒等操作

1つ目は恒等操作で、\(E\)と表記します。

恒等というのは、常に同じという意味であり、この操作は何も動かさないという操作になります。

絶対配置を固定するため、どんな立体であっても、恒等操作は対称操作になります。

後々またお話しますが、この恒等操作は、群を考えるときの単位元にあたります

回転操作(本義回転操作)

そして、続いては回転操作で、\(C_n\)と書きます。

これは、本義回転操作とも言います。

ある回転軸を中心とした回転をさせる操作で、何度回転させるかは回転の次数\(n\)の値によって決まります。

\(n=2\)の場合は\(180^\circ\)、\(n=3\)のときには\(120^\circ\)、\(n=4\)であれば\(90^\circ\)といった具合に、\(360^\circ\)を\(n\)で割った角度分だけ回転させます。

例えばベンゼンは、\(60^\circ\)回転させると、元の形と重なる回転軸を持っており、このときベンゼンは\(C_6\)の対称操作を持つことになって、この回転軸のことを\(C_6\)軸とか\(6\)回回転軸などと呼びます。

ちなみにベンゼンは、\(C_6\)軸と垂直な方向に\(C_2\)軸があと\(6\)本あり、ここでは炭素原子上を通らない\(3\)本を\(C_2’\)軸、炭素原子上を通る3本を\(C_2^”\)軸と呼ぶことにします。

ここで、分子が複数の対称な回転軸を持っていたとき、最も次数の大きい回転軸のことを主軸と言います。

ベンゼンの場合は\(6\)回回転軸が主軸になります。

鏡映操作

続いての対称操作は、鏡映です。

これは、ある面を鏡に見立てて、鏡写しにする操作です。

文字は\(\sigma\)を使います。

ベンゼンの場合は、まず主軸と垂直な\(\sigma_\rm{h}\)面を中心とした鏡映が対称操作になります。

その他にも、主軸を含む面として、\(\sigma_\rm{v}\)面を3つと\(\sigma_\rm{d}\)面を3つ持ちます(添え字の\(\rm{d}\)や\(\rm{v}\)は、\(C_2’\)軸を含むかどうかを区別しています)。

反転操作

次の対称操作は反転です。

さっきの鏡映は面を要素としていましたが、反転は点を要素とします。

例えば、ベンゼンは重心を中心に反転させても元の形と重なるため、反転は対称操作になります。

回映操作(転義回転操作)

最後が回映操作です。

転義回転操作とも言い、\(S_n\)と表します。

この操作は、ちょっとややこしくて、まず\(C_n\)回転させます。

その後\(n\)回回転軸と垂直な\(\sigma_\rm{h}\)面に対して鏡映を取ります。

その分子が\(C_n\)と\(\sigma_\rm{h}\)を対称操作として持っている場合、\(C_n\)軸がそのまま\(S_n\)軸となります。

しかし、回転と鏡映を独立に持っていない場合でも、回映が対称操作になることがあります。

例えばメタンの場合、\(3\)回回転軸に垂直な\(\sigma_\rm{h}\)面はありませんが、\(4\)回回映軸を持っています。

この軸は、メタンの水素原子\(4\)つを2組に分けて、それらを繋いだ線分の中点を通るように引かれます。

この際、メタンは\(S_4\)を対称操作に持ちますが、\(C_4\)や\(\sigma_\rm{h}\)はありません。

行列としての表現

はい、以上が分子が持ち得る対称操作でした。

そして、これらの対称操作には、共通点があって、すべて行列として表現することが可能です

わかりやすいのが恒等操作\(E\)で、これは単位行列になります。

それで、正三角形の頂点に\(\rm{A}\)、\(\rm{B}\)、\(\rm{C}\)と名前をつけておいて、それを\(120^\circ\)反時計回りに回すことを考えると、頂点\(\rm{A}\)は頂点\(\rm{C}\)があった場所へ移り、同様に\(\rm{B}\)は\(\rm{A}\)、\(\rm{C}\)は\(\rm{B}\)に動きます。

したがって\(C_3\)は↑のような行列として表現できます。

また、角\(\rm{A}\)の二等分線を含む面に対して、鏡映をとる操作は、\(\rm{A}\)をそのまま、\(\rm{B}\)を\(\rm{C}\)へ、\(\rm{C}\)を\(\rm{B}\)へ移すことになるので、↓のような行列として表現できます。

対称操作の関係式

そして、行列として表現すると、掛け算ができるようになります。

そこで、対称操作間で成り立つ関係式をまとめます。

まず、\(n\)が\(m\)という約数を持つとき、\(C_n\)軸は\(C_m\)にもなります。

例えばベンゼンの場合、\(C_6\)軸を持っており、つまり\(60^\circ\)回転させても、元の形と同じになるということです。

この場合、6回回転を2回続けて行う操作、これも対称操作になります。

\(60^\circ\)回転を2回行うのは、つまり\(120^\circ\)回転させるということなので、3回回転になります。

\(C_6\)の操作を2回続けて行うことを\(C_6^2\)として表すとすると、これが\(C_3\)になります。

また、\(C_6^3=C_2\)にもなります。

そして、\(C_n\)を\(n\)回繰り返すと一周してもとに戻る、すなわちこれは恒等操作になるため、\(C_n^n=E\)となります。

続いての関係は、鏡映と反転は2回行うと元に戻るということです。

つまり、\(\sigma^2=E\)で、\(i^2=E\)となります。

続いて、回映は回転と鏡映の掛け算になります。

そして、対称操作は可換なので、どっちを先に行っても構いません。

最後、\(S_n^n\)は\(E\)もしくは\(\sigma\)になります。

どちらになるかはこのとおり、\(n\)が奇数か偶数かで決まります。

練習問題

はい、今回の話は以上ですので、練習問題をやってみます。

アンモニア分子が持つ対称操作をすべて挙げるとどうなるでしょうか、というのが問題です。

答え
まず、どんな形でも恒等操作があります。

次に孤立電子対の軌道が向いている方向を軸とすると、これは3回回転軸になります。

そして、\(120^\circ\)回して対称であれば、\(240^\circ\)回しても対称でもあるので、\(C_3^2\)も対称操作になります。

最後、窒素原子と水素原子を結ぶ直線と主軸をどちらも含む鏡映面\(\sigma_\rm{v}\)を3つ考えることができます。

したがって答えは、\(E\)、\(C_3\)、\(C_3^2\)、\(\sigma_\rm{v}\)、\(\sigma_\rm{v}’\)、\(\sigma_\rm{v}^”\)の6つです。

ちなみに、\(C_3\)と\(C_3^2\)、\(\sigma_\rm{v}\)と\(\sigma_\rm{v}’\)と\(\sigma_\rm{v}^”\)はまとめてと呼びます。

同じ類に含まれる操作は互いに、その群の中で相似変換することが可能です。

詳しくは、また別の記事で説明します。

まとめ

はい、お話は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitterかお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

【大学の有機化学】アルカン、アルコール、ハロアルカン、アルケンの質量分析におけるイオンのフラグメント化パターンと不飽和度の考え方についてわかりやすく解説!

こんにちは!

それでは今日も化学のお話やっていきます。

今回のテーマは、こちら!

アルカン、アルコール、ハロアルカン、アルケンの質量スペクトルから、フラグメント化パターンの基礎をおさえよう!

質量分析の原理など基本的なことは、以前にあげた↓の記事でお話しているので、そちらを見たあとに、こっちを見るとスムーズだと思います。

【大学の有機化学】質量分析法による化合物同定の原理を解説!

動画はこちら↓

動画で使ったシートは、こちら(mass apectrum)

それでは内容に入っていきます!

フラグメント化の原理

それではまず、フラグメント化について、ちょっとだけ復習します。

質量分析では、分子に電子ビームを当ててできる分子カチオンを検出することで、分子の質量がわかります。

しかしある条件下では、分子イオンが分解して、より小さなカチオンとなって検出されることがあります。

これをイオンのフラグメント化と言います。

分子から電子が1つ外れることで生成するラジカルカチオンのフラグメント化では、一方が1価のカチオン、もう一方がラジカルになります。

電気的に中性なラジカルは磁場中でもLorentz力を受けないため、カチオンだけが検出器まで到達することになります。

そして、その結果このような質量スペクトルが得られます。

ここでグラフの縦軸はイオンの相対的な存在率、横軸はイオンの質量\(m\)をイオンの価数\(Z\)で除した値です。

\(Z\)がすべて同じ値であるときには、最も右側のピークが分子イオンのピークで、それより左側にあるピークがすべて分子より小さいフラグメントイオンのピークになります。

そのフラグメント化反応が、熱力学的に有利なほど、大きなフラグメントイオンピークが得られることになります。

アルカンのパターン

では始めに、アルカンはどこで切れやすいのか考えていきます。

ここで思い出してもらいたいのが、カルボカチオンの安定性です。

カチオン中心の炭素はsp2混成による平面構造をとり、その平面と垂直な方向へ空軌道を持ちます。

そこに隣接しているsp3炭素があると、空軌道へ少し非局在化が起こり、安定になります。

これが超共役で、第三級カルボカチオンが最も安定となり、第一級カルボカチオンやメチルカチオンが不安定になります。

したがって、アルカンのフラグメント化は多置換中心で起こりやすいということになります。

例えば、こちらの2-メチルブタンだと、2番目の炭素の周りで解離が起こりやすいと推測されます(実際は解離しにくい。理由は後述)。

①から③の部分で切れると、それぞれこんなカルボカチオンができます。

①と③は第二級、②が第三級のカルボカチオンです。

そして、2-メチルブタンのMSはこのようになります。

最も右側の\(m/Z=72\)というのが分子イオンで、\(m/Z=71\)のピークはそこから水素原子が外れたイオンに対応します。

水素がなくなったよというのは、M-Hと表記します。

そして、\(m/Z=57\)はメチル基、\(m/Z=43\)はエチル基がなくなったものです。

このスペクトルからわかることとしては、まず第三級カルボカチオンであるはずの\(m/Z=71\)のピークですが、その強度はとても小さくなります。

これは、水素原子が不安定なためです。

同様にメチルラジカルも不安定なので、\(m/Z=57\)のピークも少し小さくなります。

また、アルカンが分枝を持つほどフラグメント化が起こりやすくなるため、最も右側の分子イオンピークの強度は小さくなっていきます。

アルコールのパターン

それでは続いて、アルコールを考えていきましょう。

主要なフラグメント化の機構は2つありまして、まず1つ目が水の脱離です。

水分子はとても安定な化学種であるため、簡単に外れることができます。

したがってアルコールでは、分子イオンよりも\(18\)質量小さいところに大きなピークが現れることになります。

そして、フラグメント化の機構2つ目はα開裂です。

ヒドロキシ基がついた炭素の位置をα位と言いますが、ここの炭素と隣の炭素の間の結合が切れると、このようなヒドロキシカルボカチオンができます。

このような共鳴が起こるため、このカチオンは安定であり、ここでフラグメント化が起こりやすいことになります。

実際に1-ブタノールのMSはこんな感じで、\(m/Z=74\)の小さな分子イオンピークに対して、そこから\(18\)質量小さい\(m/Z=56\)はとても大きくなります。

また、α開裂が起こってできた\(m/Z=31\)のヒドロキシメチルカチオンのピークも大きく出ています。

そして、ヒドロキシラジカルが抜けたときにできる1-プロピルカチオンとさらにそこから水素分子が抜けた2-プロペニルカチオンのピークがそれぞれ\(m/Z=43\)と\(m/Z=41\)に出てきます。

やはりアルコールでも水素原子が外れる\(m/Z=73\)のピークは小さくなっています。

ハロアルカンのパターン

はい、続いてお話するのはハロアルカンです。

フッ素を除くハロゲンでは、炭素原子との結合がそこまで強くないので、簡単に解離が起こります。

そのため、ハロゲン原子が取れたカチオンのピークが基準ピーク、すなわち最も強度の高いピークになることが多いです。

また当然ですが、生成するカルボカチオンの安定性によってもピーク強度は上下します。

アルケンのパターン

それでは、今回お話しするフラグメント化のパターン、最後はアルケンです。

結論を先にいうと、アルケンのフラグメント化は、アリル位の結合で起こりやすいです。

これはアルコールのα開裂と同様、生成するアリルカチオンが、このような共鳴構造をとり、安定化が起こるためです。

上と同じ1-ブテンのMSはこのようになり、\(m/Z=56\)の分子イオンピークのほか、\(m/Z=41\)に2-プロペニルカチオンのピークが出てきます。

それで、\(m/Z\)の値には便利なものがいくつかあって、例えばこの\(41\)という数字を覚えていれば、スペクトルを見ただけで、末端アルケンかなと推測することもできます。

不飽和度

それで、ここからは質量分析に限らず、化合物を同定したいときの補助的な手段を、おまけとして紹介しておきます。

例えば、高分解能の質量分析により分子式がC6H12だとわかったことにしましょう。

このとき考えられる構造はアルケンやシクロアルカンがありますが、確実に言えるのは、少なくともアルカンではないということです。

こんなふうに分子式だけでも、ある程度構造を絞り込むことが可能です。

さっき頭の中でどういう処理をしたのかを、回りくどく書いてみるとこうなります。

分子内の環とπ結合の個数を足した値を不飽和度と呼ぶことにします。

すると、不飽和度\(0\)のアルカンでは、水素原子の個数は(炭素原子の個数)\(\times 2+2\)個になります。

不飽和度が\(1\)のアルケンやシクロアルカンでは、アルカンから水素原子が\(2\)個減ります。

そして、アルキンやシクロアルケンなど不飽和度が\(2\)になると、さらに水素原子は\(2\)個減ります。

より一般的に、窒素やハロゲンなどヘテロ原子を含む場合は、まず炭素原子の個数\(n_\rm{C}\)に\(2\)をかけてそこに\(2\)を足します。

そこからハロゲン原子の個数\(n_\rm{X}\)を引いて、窒素原子の個数\(n_\rm{N}\)を足した値が、不飽和度\(0\)のときの水素原子の個数\(H_\rm{sat}\)になります。

酸素原子や硫黄原子は無視してください。

不飽和度が\(1\)大きくなると、水素原子は\(2\)個減るという法則より、この\(H_\rm{sat}\)から実際の水素原子の個数\(H_\rm{actual}\)を引き、\(2\)で割った値が不飽和度になります。

一見ややこしいようですが、多くの人は、直感的にこんな計算をこなしています。

理屈として頭の片隅に置いておいてください。

練習問題

それではここで、1つ質量分析の練習問題をやってみましょう。

↓のようなMSが得られたとき、どんな化合物が考えられるでしょうか?

答え

まず、\(m/Z=41\)のピークがあって、さらに分子イオンピークが小さいことから末端アルケンであると推測できます。

そして、分子イオンピークはほとんど同じ強度で\(2\)本見られることから、これは質量数\(79\)と\(81\)が約\(1:1\)で存在している臭素原子の存在を示唆します。

したがって、考えられる化合物は3-ブロモプロペンになります。

まとめ

はい、今回の内容は以上なので、最後軽くおさらいをやって終わります。

今回は質量分析におけるイオンのフラグメント化と不飽和度についてお話しました。

フラグメント化が熱力学的に有利なほど、そのイオンピークは大きくなります。

まずアルカンでは、超共役によるカルボカチオンの安定性より、多置換中心で結合の解離が起こりやすくなります。

それでも、水素原子やメチルラジカルなど不安定な化学種を生成する場合は、ピーク強度が小さくなります。

続いて、アルコールでは安定な水分子の脱離により、分子イオンより\(18\)質量だけ小さいところに大きなピークが現れます。

また、安定なヒドロキシカルボカチオンを生成するα開裂も起こりやすいです。

そして、ハロアルカンではハロゲンが脱離したピークがとても大きくなります。

アルケンでは、アルコールのα開裂同様、安定なアリルラジカルができるように結合が解離します。

終わりの方で紹介した不飽和度は、分子式からある程度構造を絞り込むのに役立ちます。

ヘテロ原子の扱い方だけ習得すれば、かなり便利に使えるので、ぜひ身につけてください。

はい、お話は以上です。

間違いの指摘、リクエスト、質問等あれば、Twitterかお問い合わせフォームよりコメントしてくださると、助かります。

それではどうもありがとうございました!

【大学の数学、化学】そもそも群とは何なのか?化学とどう関係しているのか?をわかりやすく解説!

こんにちは!

今回から、化学でも大変重要な概念となる群論という分野を、何回かに分けて扱っていきます。

その1回目、テーマはこちら!

そもそもの群の定義、化学と群論の関係を知ろう!

動画はこちら↓

動画で使ったシートはこちら(group definition)

それでは内容にはいっていきます!

置換(線形代数学)で成り立つ積の演算

始めに、行列式の定義で出てきた置換というものを思い出してみましょう。

ここでAは行列、\(a_{i, j}\)は\(\bf{\rm{A}}\)の\((i, j)\)成分です。

\(\sigma\)が置換というもので、数の入れ替えを表します。

上の行に入れ替え前の順番下の行に入れ替え後の順番を書きます。

詳しくは、こちらの記事でお話ししています。

【大学の数学】線形代数学における置換とは?(丁寧に解説!)

\(S_n\)は、すべての\(n\)次置換の集合であり、例えば\(S_3\)に含まれる置換は、こちらに示した通りになります。

順番を入れ替えないという置換もあって、これは恒等置換と呼びます。

そして、\(\sigma\)と\(\tau\)を置換としたとき、その積\(\sigma \tau\)はこのように考えることができます。

ここでは\(\sigma\)の入れ替えをしたあと、\(\tau\)の入れ替えをしています。

また、置換\(\sigma\)にかけることで恒等置換となる置換を考えることができます。

これを逆置換と呼び、\(\sigma^{-1}\)と表記します。

このとき、\(\sigma^{-1}\)は一意的に決まり、\(\sigma \sigma^{-1}=\sigma^{-1}\sigma\)というふうに交換もできます。

以上のように、集合\(S_n\)に含まれる置換同士だと、積の演算ができるという特徴があります。

剰余類で成り立つ和の演算

一方で、その集合の中で積を考えることができないものもあります。

その1つが剰余類です。

まず小学校で習う余りのある割り算を考えます。

\(a\)、\(n\)、\(r\)を自然数、\(q\)を整数として\(a=qn+r\)が成り立ち、またさっきと違う自然数\(a’\)、\(r’\)と整数\(q’\)についても\(a’=q’n+r’\)が成り立つとします。

ここで2つの余りの値\(r\)と\(r’\)が同じとき、↓のように表記しまして、「\(n\)を法として\(a\)と\(a’\)は合同である」と言います。

そして、\(n\)で割ったときに余りが\(a\)となる整数の集合を\([a]\)と表すことにします。

例えば\([3]\)は\(3\)や\(n+3\)、\(2n+3\)、それに\(-n+3\)、\(-2n+3\)を含む集合になります。

この\([a]\)のことを剰余類と呼びます。

さらに、剰余類同士の足し算\([a]+[b]\)を\([a+b]\)と定義すると、足し算の結合法則や交換法則を満たすことが確認できます。


また、余りが\(0\)になる剰余類も\([0]\)と考えることができ、↓のようにに負の剰余類\([-a]\)も考えることができます。

群の定義

そして、置換の積の演算が成り立つ状況や剰余類の和の演算が成り立つ状況を統一的に扱うため、Cayleyによってというものが定義されました。

こちらがその定義で、まず集合\(G\)に含まれる\(a\)と\(b\)について、その積\(ab\)を考えることができ、また\(ab\)も集合\(G\)に含まれます。

そして、\(a(bc)=(ab)c\)という結合法則も成り立ちます。

また、集合\(G\)に含まれるすべての元に対して、積をとっても同じ元のままになる単位元も集合\(G\)に含まれます。

最後に、集合に含まれるそれぞれの元に対して、積を取って単位元となるような逆元が存在し、これも集合\(G\)に含まれるとき、集合\(G\)のことを群と呼びます。

回りくどいですが、ここで言っていることはさっき置換について確認したことです。

群の性質

群に含まれる元について、その性質を一部紹介すると、まずすべての元に対して、単位元は一意的に決まりそれぞれの元に対して逆元は一意的に決まります。

そして、\(ab\)の逆元は\(b^{-1}a^{-1}\)になります。

また、\(ab=ba\)という積の交換法則は、すべての群で成り立つわけではなく、成り立つ群は可換群もしくはアーベル群、成り立たない群は非可換群と呼ばれます。

ちなみに、置換は非可換群に該当します。

群論と化学

それでは最後に、なぜ化学で群の考え方が必要になってくるのかを、ざっくり説明します。

思い出してほしいのは、分子軌道法です。

水素分子を例にしますが、電子は2つの陽子のそれぞれと静電的相互作用をしていて、全体の波動関数\(\varphi\)は\(C_\rm{A} \phi_\rm{A}+C_\rm{B} \phi_\rm{B}\)と書かれます。

ここで\(\rm{A}\)と\(\rm{B}\)は、2つの原子核に対応し、\(\phi\)は原子の波動関数、\(C\)は変分法に使う未知定数です。

詳しくは、こちらを参照してください。

【大学の物理化学】分子軌道法による水素分子イオンの結合エネルギー計算と実験結果との比較

結果だけを示すと、水素分子中の電子のエネルギーは2つの解を持ち、複号同順で\(\frac{\alpha \pm \beta}{1 \pm S}\)となります。

ここで\(\alpha\)、\(\beta\)、\(S\)はそれぞれクーロン積分共鳴積分重なり積分と呼ばれ、このような式で表されます。

ここで\(\hat{H}\)は、ハミルトニアンです。

そして、水素原子と水素分子のエネルギーを図にするとこのようになり、低いエネルギー側である結合性軌道に電子が入ることで安定な分子になります。

ここで重要なのが重なり積分\(S\)になってきまして、\(S\)が大きい値、つまり\(1\)に近い値であるほど、原子から分子になったときのエネルギー差が大きくなり、より安定な結合を形成することができます。

\(S\)は、2つの原子軌道がどれだけ重なっているかを表すため、結合を作る2原子の距離が短いほど大きくなります。

そしてもう1つ\(S\)に影響するのが、軌道の対称性です。

例えば、\(x\)軸方向へ向いている\(p_x\)軌道と\(y\)軸方向へ向いている\(p_y\)軌道の組み合わせでは、軌道の重なりがないため、\(S=0\)となります。

このような関係は、直交していると言います。

それに対して、σ結合やπ結合がどのようになっているか見てみると、まずσ結合では、2つの原子を結ぶ軸をどれだけ回しても、回す前と全く同じ形になります。

こんなふうに元の形と重なるような動かし方のことは対称操作と呼ばれ、これ以降の記事で詳しくやっていく内容になります。

そして、π結合では、2つの原子を結ぶ軸を\(180^\circ\)回したときに位相が反転します。

こんなふうに、対称性は軌道同士、もっと言えば分子同士の相互作用を考えるのに大切な要素になっています。

そのため、ある分子に対して、可能なすべての対称操作を群として分類すると、相互作用がわかりやすくなるということで、化学に群論が使われています。

まとめ

はい、今回の内容はここまです。

それでは最後軽くおさらいをやって終わります。

今回は、群の定義となぜ化学で群論が必要になるのかをざっくりとお話しました。

Cayleyによってなされた群の定義を大雑把に言うと、ある集合\(G\)と、そこに含まれる元\(a\)、\(b\)があったときに、掛け算\(ab\)を考えることができて、さらに\(a(bc)=(ab)c\)という結合法則が成り立ちます。

そして、すべての元について、積をとっても変わらない単位元が集合\(G\)に含まれます。

さらに、それぞれの元について、積をとったときに単位元となる逆元も集合\(G\)に含まれるとき、集合\(G\)のことを群と言います。

単位元や逆元は一意的に決まり、また\((ab)^{-1}=b^{-1}a^{-1}\)となります。

そして、掛け算の交換法則\(ab=ba\)は、すべての群について成り立つわけではなく、成立する群は可換群、もしくはアーベル群、成立しない群は非可換群と呼ばれます。

今回紹介した\(n\)次置換の集合は非可換群にあたります。

化学において、この群という考え方は、対称性を考えるために使われています。

以上です。

それではどうもありがとうございました!